第十話 火魔法

 目が覚めた。昔の癖からか、いつも早めに起きるのが癖になってるな。体を起こしてみれば、まだ二人とも寝ていた。ガルド先生はだらしなく、布団をふっとばしていた。フィーは身を抱くようにして縮こまって寝ている。


 『おはよう、ルーテシア。起きているか?』


 『おはようございます、ご主人様マスター。私は基本的に眠らないので、いつでもお呼びください。』


 さすが、精霊。生物の摂理をひっくり返していくな。

 ひとまず、外の井戸で水でも汲んで顔洗うか。のども乾いたし。


 二人を起こさないようにそっと家から出る。どうやら自分の時間間隔だと、あまり前の世界とは変わらないらしい。太陽がちょうど登り始めていた。そうだ、ちょうどいいし、ルーテシアに時間とか月日がどうなってるか聞いておこう。


 『この世界って時間とか年月ってどうなってんの?』


 『時間は24時間となっています。月日は風の月、日の月、地の月、水の月に、それぞれが90日ずつあります。今は、風の月の33日ですね』


 入学式とかがあったことを考えると、4月3日くらいか。まぁ、大体似たような感じでよかった。


 『ありがとう。あと、時間が空けばルーテシアの闇魔法も視せてくれ』


 『わかりました。その時になればお呼びください』


 視ることで習得できるのだから、習得しておきたい。


 そういえば昨日のケルベロスの変化は覚えられなかった。おそらく種族的な問題だと思われる。スキル欄をチェックしても何もなかったからな。


_______________________


状態:良好

職業:武爪家

レベル:14


筋力:338

敏捷:357

魔力:608

器用:102

精神:151

運:79


<スキル>

【スキルコピー】【すべてをこなせる才能】【剣術の心得】

【看破】【大剣術の極】【槍術の心得】【斧術の心得】

【武闘術の心得】【武爪術の心得】【精霊召喚】

<魔法>

【身体強化】

<従精霊>

ルーテシア

<称号>

『転生者』『精霊創造主』『精霊を従えし者』


_______________________


 精霊生成のスキルが召喚になったくらいだな。あと従精霊なんて欄ができて、ルーテシアの名前が出てきたな。称号も増えてるようだし。

 ここに闇魔法が入れば更なる戦力強化待ったなしだな、わくわくだぜ。


 さて、何もせずにいるのも暇だし、どうするかなぁ。

 ルーテシアのことはしばらくは秘密のままにしておきたい。奥の手は残しておきたいから、闇魔法も覚えても使えないか。学園の授業でどれだけ教えてもらえるか次第か。火魔法をおぼえればとりあえず、ごまかしは利くし、簡単な魔法をガルド先生に聞いてみるか。


 ひとまず、暇なので外で瞑想していた。低いステータスは器用さなのでそっちを挙げてもいいが、まぁ、そんな時間もないだろう。


 体感で30分ほどすると、あくびをしながらフィーが出てきた。


 「おはようございます、フィー」

 「おはよう…zzz」


 立ったまま寝ようとしてる…器用だな。会社の通勤とかでよく見かけるけどね。

 幸いにもすぐにハッと気が付いたフィーを首をぶんぶんと振り、井戸の水をくみ上げて顔を洗う。すっきりした面持ちで再び家の中へ入っていった。おそらく料理をするのだろう。

 どうせだし、手伝い…いや、料理はからっきしなんだよな…。仕方ないし、まき割りをすることで手伝いということにさせてもらおう。


 瞑想をやめてまき割りを開始する。太く、そのまま置けば椅子としても使えそうなものを切り株の上にセットし、斧を振り下ろす。

 昨日のことでわかったが、まき割りというと上からスカーンと振り下ろすイメージだが、実際は軽く刺さる程度に斧をあて、引っ付いた後にそのままもう一回おろすらしい。そのままの状態で割ろうとするとセットしたのが飛んで行ったりして危ないんだとか。

 まぁ、力があれば、一気にスカーンってやってもいいんだけどね。気持ちいいし。


 そんなことを考えながら結構な数のまきができたところで、フィーと同じく貫頭衣をだらしなく着たガルド先生が家から出てきた。

 片手で腹をかき、あくびをしている。休日のおっさんかよ。すごい既視感あるぞ。


 そして、井戸で顔を洗っている。それを見ながら、俺も手元の作業を続ける。うむ、スカーンといい音が出るな。


 音に気付いたのか、ガルド先生がこちらに来る。

 

 「おはよう、ウィル。寝れたか?」

 「ええ。しっかりと」


 やっていたまき割りを中断するため、切り株に斧を振り下ろす。持ち手がきれいに平行になるように刺さった。


 「そうか、そうか。今日はたぶん春休み明けということで学年ごとに合同で魔法試験があると思うから頑張ってな!」


 ほー、そんな試験が…んじゃあ、先に頼んどくかな。


 「ガルド先生、一つお願いが…」

 「ん?なんだ?」

 「ガルド先生の火魔法の簡単な奴でいいのでいくつか見せてもらえませんかね?」


 エルルにも火属性で通してるから、2,3個は覚えてないとまずいからなぁ。


 「かまわんが、なんだ、何も覚えてないのか?」

 「当たり前ですよ、僕を何歳だと思ってるんですか」


 幼児がファイアボールとか覚えてたら一瞬で火事だろ、普通。


 「あーそうだったな、昨日のことを考えると歳のことを忘れるな、ガッハッハ!」


 笑ってごまかすガルド先生。ごまかしきれてないけど。

 まぁ、何でもいいのでさっさと見せてもらうとしよう。


 笑い終えたガルド先生は俺が割っていた、まきを一つとり、近くの何もないところにまきを置いた。


 「いいか、周囲を巻き込まない火魔法ということでひとまず、3つ見せよう」


 そういって1つ指を立てるガルド先生。


 「1つ目は初歩の初歩、ファイアボールだ。特に特筆することもないが威力次第ではとんでもない技になる。ひとまず、あのまきに撃つぞ」


 というと、ガルド先生は右手をまきにむけ、


 「ファイアーボール!」


 といった。するとガルド先生の右手からめらめらと燃える火の玉が出て、そのまままきへとぶつかり燃えた。


 「次はフレイムアーマー、こいつは自分が敵だと思う相手だけにダメージを負わせるもので、ダメージが下がるものではないからな」


 と言って、ガルド先生が自然体になる。そして、


 「フレイムアーマー!」


 と、唱えると、うっすらと燃えているような鎧が見える。燃えている甲冑というのも変な話だが、そう表現するしかないな。

 触ろうとしてみたが、実体はなかった。敵だと思う相手にはダメージがという話だから、おそらくこの炎がダメージになるのだろう。


 「じゃあ、最後に中級、フレイムピラーを教えよう。火の柱を突っ立てる技だ、見た目はすごいぞー」


 そういっていると、先ほど燃えていて今は黒焦げのまきに向かってフレイムボールと同様に、


 「フレイムピラー!」


 と唱えると想像通りの火の柱が立った。高さはビル5階くらいか、結構だな。


 「この3つだけ覚えてれば、まぁ、十分だろう。あと今回はわかりやすくするために魔法名を叫んだが、基本はイメージだ。それさえできれば魔法を口に出す必要はない。初心者はイメージの補強のために叫ぶことが多いから、唱えるものと思っているやつも多いがな」


 無詠唱が基本の世界か、マジシャン実は強い系か。


 「といっても、魔法の中にも段階があってな。初級、中級、上級、超上級、最上級の5つに分類されるが、最上級の魔法は発動が難しいんだ」


 まぁ、そんなポンポン打てたら困るわな。魔力あれば国士無双だし。


 「なんでかっていうと、魔法は発動するために現実でのその魔法の効果をイメージしなきゃいけない。基本はイメージの具現化だから、何でもできるが、その分魔力を使うし、効果もでかい。だから、イメージもそれに合わせてしっかりしなきゃいけなくなるんだ」


 なるほど、それでイメージ大変だから、すぐには出せない、と。


 「その場その場でイメージをし直す必要があるから、そこも注意だ。まぁ、今教えた以上の魔法はお前の魔力だと1発か2発だろうがな!ガッハッハ」


 そういって家の中へ入っていくガルド先生。


 「ご教授ありがとうございました!」


 頭を軽く下げて礼を言う。ガルド先生は入る前に背中を向けながら左手を振って答えた。

 たぶんスキルにも入っただろうし、これで火魔法が使えるだろう。確認してもいいが、そろそろいい時間だし、朝食ができてるか見に行くか。


 案の定、すでに食器への盛り付けが完了する手前だったようで、漂ってくる香りが味噌汁っぽい白い液体の汁物や、米、魚が朝食であった。

 どれも美味で、唯一謎の白の汁物はクルアータと呼ばれるものらしいが、見た目を除けば味噌汁なのでおいしくいただいた。うむ、うまい。


 朝食の時間もすぐに終わり、ガルド先生が先に学園へ向かう。

 自分も向かうため、服に着替えてる時にふと気になった。


 「フィーはお留守番か?」

 「うん、外危ないからここで過ごせって」


 まぁ、ヒト属じゃないから仕方ないのだろうか。めんどくさいこだわりだよなぁ。こんなかわいい獣人を…うわー…ちょうど制服着るために立ち上がってるから、座っている状態から見上げられて話されると上目遣いのきれいな瞳がかわいすぎんぞこんちくしょう!

 柄にもなくジタバタとその場で地団太踏んでしまうわ!8歳の体ではまだ小さくて12歳くらいの大きさのフィーだとしがみつくようになる自分の体がぐわーー!!!!!

 ハッ、いかんいかん。すごい不思議そうな目で見られてた。


 「ごほん、じゃあ、僕も行ってくるね」

 「いってらっしゃーい」


 ぼんやりと間延びした声でフィーが送り出してくれる。あー、前の生活ではほとんど聞くことがなかったなぁ。なんせ一人暮らしだから「いってきまーす」「ただいまー」を一人でつぶやいてるからな…うう、涙が。

 そんな風に楽しく学園へと向かった。


 やはりというべきか、帝国内に入るときは身分証明を求められたので、入学式の日にもらっていた学園の生徒手帳を見せた。それであっさりととおるのだから、学園への信頼は厚いのだろうなぁ。


 学園へ向かう道は朝なのだからか、人通りも多く結構がやがやしていた。とか伊野駅前みたいなレベルで混んでたから8歳児からすると建物が動いてるように見えて怖かったわ。まぁ、さすがにそれを気にしない人ばかりでもなく、ある程度は道を開けてくれたので、何とかなったが。

 学園に到着後、廊下を悠々と歩いて、教室のドアの前へ着く。そしてなかに…



 さて、ここで思い出そうか。



 前に教室から出るとき、おれはどうしたでしょうか。



 さて、答え合わせです。



 何の気もなしにドアを開けるとすでに全員そろっていた。一同はドアの音に顔を向けると……一斉にこちらに来た。入学試験以来のズドドドである。

 驚きで硬直している間に、まだ名前を憶えていない男2人が両腕をロックし俺の席まで運ばれる。

 あぁ…逃げられないやつですね…。



 この後、些細なことばかりではあったが、めちゃくちゃ質問された。


 まぁ、珍しいからだろうし。少しすれば飽きるだろう、とあきらめた…が、いつまでたっても終わらず、いつの間にか入っていた、テムル先生はこちらにサムズアップして沈静化する気はなかった。


 大丈夫かよ、おい。

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