第九話 闇の精霊

 改めて状況整理だ。いやとは言わせねぇ。

 まず第一に、いつの間にやら【精霊生成】なる謎スキルが手に入った。なぜかはわからないが調べようもないので良しとしよう。

 そして、訓練所にこっそりときて精霊を作ろうと試みた。まぁ、早めに作って損はないしな。

 そして…その結果が、今目の前にいる黒い少女だ。


 名前は彼女曰く、ルーテシアというらしい。というのも名前は考えていなかったのだ。足りない部分は自動的に補うようだ。それ以外は完全に自分で考えてます。妄想マッハです、文句あるならその喧嘩を買うぞ!

 ケルベロス系とかはどうしたんだ!そういうやつもいるだろう、だが焦るな。おれの想像通りならおそらく大丈夫だ。


 「ルーテシア、姿?」

 「はい」

 「では、やって見せてくれ」

 「了解しました、ご主人様マスター


 その場で立ち上がり、何かを唱えるルーテシア。足元には魔法陣のようなものができていき、自然ではない風が周りにふく。徐々に彼女の姿が闇に覆われていき、完全に見えなくなる。

 そして、ひときわ魔方陣が光った瞬間に、闇が一気に晴れる。


 そこにいたのは大好きな地獄の番犬、ケルベロスです。3つの犬の頭にまっくろな胴体。大きさは2階建てアパートくらいはある。まじでけぇ。

 これでも会話ができるか、聞いてみよう。


 「ルーテシア、その状態でも話せるか?」

 『大丈夫です。ただ、肉声は出せませんので念話になりますが』


 こいつ…直接頭の中に…!

 違う、そうじゃない。これは便利だな。ケルベロスの状態で意志疎通できなかったらどうしようかと思ったわ。さて、スキル的にはどうなるかなー。

 一応想像では全属性を使えるようにしたが、どうなるのだろう。

 早く聞きたいが、ひとまず人型に戻ってもらおう。


 「ルーテシア、ありがとう。ひとまず、また人型に戻ってくれ」

 「かしこまりました」


 ケルベロスになる時と同様に彼女自身のからだが闇に解け、再び最初の時と同じ状態になる。完全に戻ったのを確認して、質問してみる。


 「質問なんだが、人型の時とケルベロスの時とで何ができる?もちろん能力的な意味で。あと死んだりとか、飯とかはあるのかな?」

 「順番に答えますね、マスター」


 おっと、焦って一気に質問してしまった。異世界人っていうのを隠さないでいいのは楽だから気が抜けたわ。


 「まず、人型の時ですが、マスターは全属性の精霊を作ろうとしましたよね?」

 「そうだな」


 どうせできるなら、そのほうがいいと思ったがまずかったか?

 少し不安を感じているおれを置いて、ルーテシアが説明してくれる。


 「基本的に全属性の精霊は存在しません。その代わりに一般的にはあまり知られていない、光と闇の存在が出てきます。」

 「4属性が全部じゃないのか?」


 確か、火、水、風、地ですべてのはずだが…


 「確かに基本属性はそれですべてです。魔法もそのいくつかを混ぜることで複合属性にすることができます。ですが、精霊は1属性のみをつかさどることしか許されません。なので、ここで光属性と闇属性が出てきます」


 ルーテシアは黒の薄い手袋で地面に円をそれぞれが重なるように書く。


 「魔法では複合属性魔法が存在しますが、精霊はない。なので、すべての属性が重なるこの中心に闇属性が位置します」


 そういってルーテシアが円の全部が重なったところを指す。


 「逆にすべての属性が干渉しない外側、これは無属性ということになるのですが、魔法でも精霊でも無属性は存在しません。なので、ここに光属性が位置します」


 ルーテシアはすべての円の外側を指す。


 「じゃあ、属性を調べる試験があったんだが、その中には光属性の人もいるのか?」


 入学試験の際には4属性しか調べられなかった。可能性はあるのか?


 「いえ、光属性と闇属性はすべての属性をつかえたうえでのみ可能です。なのでどの属性も使えない人には光と闇を含め、どの属性も使えません」


 あらら、そう都合よくはいかないのか。


 「そして、マスターは私にすべての属性をつかえるようにしていただいたので、闇属性の魔法を使うことができます」


 なるほどね。大体納得した。


 「闇属性と光属性の特徴は?」

 「闇属性は4属性に対して有利な立場になります。同じ威力の魔法をぶつけても闇属性が勝ちます」


 なにそれ、すごい。


 「逆に光属性は4属性すべてに対して弱いです。ですが、闇属性に対しては有利となります。」


 変則三すくみってところか。つまり、闇属性のルーテシアにとっては光属性だけが弱点か。


 「話を戻しますが、結果的に言えば私は闇属性の精霊となったわけです。人型の時は闇属性の魔法が使えますし、変身時は魔法に加え、火のブレスや身体強化がかかっています」

 「人型でもある程度力はあるのか?」

 「いわゆる上級冒険者くらいのステータスはあるのではないかと」


 なにそれおれより強いじゃん、怖い。


 「次に、私の死亡や食事に関してですが、死ぬことはありません。魔力を使い果たすと、自動的に召喚が解除され、別次元に戻ります。食事もいりませんが代わりにマスターの魔力を必要とします」


 まぁ、精霊だしそれはそうか。


 「召喚された時はされる前に別次元で空気中の魔力をためていますので、十分な時間が置いてあれば、通常生活をしているなら1か月は生活可能です。ただ、全力戦闘を続ける場合は1日が限界でしょう」


 長期戦は無理、か。


 「もちろん、召喚されている間にマスターに魔力を注いでくだされば、補充も可能です」


 魔力ごっそり持ってかれそうだが、まぁ、緊急手段なんだろうな。


 「魔力の補充はどれくらいなんだ?」

 「自然に回復するなら1日もあれば十分です。今のマスターの魔力量であれば4分の1も注いでくだされば困りはしません」


 燃費がいいようです。楽でいいからありがたい限りだけどね。

 4分の1って多いように感じるけど、おれの魔力量も増えたとはいえ、ガルド先生に比べれば全然だからね。そう考えると少ないもんだよ。


 「また待機してる間でも、念話でおよびいただければお話しすることも可能です。もちろん、マスターの補助をすることも可能ですので、ぜひおよびください」


 何とも便利だなぁ。至れり尽くせりじゃないか。


 「じゃあ、試しに戻ってもらって念話してみるか」

 「わかりました、では失礼します」


 そういって、ルーテシアはゴスロリドレスの両端をもってお嬢様のような挨拶をしたのちにその場から消えた。姿が薄くなって気づけば消えていた感じだ。


 さて、試しに念話をしてみよう、こう頭の中で独り言を飛ばす感じで…


 『ルーテシア、聞こえるか?』

 『はい、大丈夫です。さすがマスター』


 お、無事にできたようだ。


 『普段からおれの状態を確認して補助してもらうことってできるか?』

 『可能です、魔力消費もしないのでいつでもこういった風に念話が可能ですので、身の回りで何かあればお伝えしますか?』

 『それで頼む』


 頭の後ろにも目がつくことができたようで何より。


 『了解しました。あと、闇属性での補助ならマスターが唱えずとも私が代わりにできますので何なりとお申し付けください。いざという時の危険も私が適切に処理しますね』

 『わかった、これからよろしく頼む、ルーテシア』


 いざというときもこれで怖くないな、いきなり矢が飛んできたりとかね…とんでもなくありがたい。それにきれいどころの女の子イメージしてほんとによかったと自負しております。



 実験も無事完了したので家に戻る。中に入ると2人ともまだぐっすりと寝ていた。

 ガルド先生なんていびきかいてるよ。完全におやじだな。

 こっそりと布団に入って明日に備えて寝ることにしよう。明日から授業だしな。


 『おやすみ、ルーテシア』

 『おやすみなさいませ、よい夢を』


 ルーテシアに念話でおやすみといい、眠る。家族ができたようでうれしい限りだ。…なんか脳内妄想で生活してる人間みたいだな。いや、存在してるから違うんだけどさ。まぁいいか。



 明日はどれだけクラスのメンバーと差が出るかも楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る