第八話 戦闘経験

 「今から練習試合、ですか」


 唖然としながら聞き返す俺に、笑顔で返すガルド先生。


 「そうだ、今からだ」

 「だれとだれがですか」

 「俺とお前だ、ウィル」


 勘違いではないようだ。8歳の駆け出し冒険者ですらない俺と、元S級冒険者の練習試合らしい……はぁ?


 「いくらなんでもきつくないですかね?」

 「もちろん、俺は手を抜くさ。全力でやったら、死んでしまうだろう?俺は素手でやるつもりだしな」


 まぁ、全力でやるっていうなら全力で逃げてたがな。


 「勝負方法は?」

 「5分間俺を攻撃し続けろ、1回でも当てられればよしだ。逆に俺はお前を攻撃しないからな、あてられるまでは明日からこの訓練を繰り返す」


 今の時刻は夕方くらいだ。太陽が沈みかけているのでこの1回だけなのだろう。


 「では、始めるぞ」

 「わかりました、お願いします」


 試合開始…の前にガルドさんのステータスを見ておくか。


_______________________

名前:ガルド=ガイアス(学園長)

状態:良好

職業:ウォリアー

レベル:132


筋力:4812

敏捷:3203

魔力:2386

器用:2741

精神:4152

運:38


_______________________


 なるほど、強い。

 スキルや魔法、称号は見れないようだが、それを視なくても俺が勝てる相手じゃないな。俺でB級並みとすると、頑張ってもA級だから…A級の下とS級の差がこれだけあるということなのか。やばいな。勝てる気がしないぞ。

 不意打ちで1発入るか…試すしかないな。


 ガルド先生の合図が出る。


 「では…はじめ!」


 合図とともに全力でダッシュ、距離は走って3歩ほど。もちろんフィジカルブーストは既に使っている。一発で決めるしかない!

 ダッシュで懐に入り、一気に右腕を突き出す。


 手ごたえは…………なかった。


 刺さったと思ったのは残像で、すでに本体のガルド先生は2歩ほど悠々と後ろに下がっていた。余裕綽々と言った顔で笑っていた。


 「今のは少しヒヤッとしたよ。だが、若いねぇ。それで決められなきゃ死んでたぞ?」


 くっそ、そんなことはわかってる!攻撃がないからやってんだよ!

 

 お小言お構いなしに、再び一気に近距離に近づき両手を交互にひたすら突き出す。たまに横から腕で薙ぎ払うように振るが全部よけられる。後ろによけるのではなく上下左右に体を移動させることでだ。


 「まぁまぁ、早いね。これなら確かにB級の上級者だな。うまくいけばA級の一部に勝つこともできるかもしれないな。だが、まだまだだな。今日で君が俺を攻撃することはまず無理だろう。」


 やはり余裕の表情は崩さず、お小言を言うガルド先生。

 くっそ、言ってくれるな!なら、これはどうだ!


 再び腕でなぐ払うと見せかけて、足払いを仕掛ける。上体を反らすか、下げるなら足元はお留守だろう。

 と、思ったが難なくガルド先生は後ろに下がってよけた。それであっという間に5分がたつ。


 「はい、終了だ。筋はいいが能力がまだまだだな。こればっかしは鍛えるしかあるまいな」

 「はい、ありがとうございました。」


 圧倒的な能力差は工夫じゃ埋まらないか、爪も使うのは今日が初めてだしな。仕方ないか。


 自分の戦闘結果に残念感を抱いていると、突然、ファンファーレが聞こえた。これはレベルアップか。戦闘経験を積んだから経験値をもらったのか…見てみるか。



_______________________


状態:良好

職業:武爪家

レベル:14


筋力:338

敏捷:357

魔力:608

器用:102

精神:151

運:79


<スキル>

【スキルコピー】【すべてをこなせる才能】【剣術の心得】

【看破】【精霊生成】【大剣術の極】【槍術の心得】【斧術の心得】

【武闘術の心得】【武爪術の心得】

<魔法>

【身体強化】

<称号>

『転生者』


_______________________


 ……………完全に格上と戦ったから一気に上がったんだな…上がりすぎだろ。

 約3倍くらいか。これはデカいな。これなら結構なペースで上げられそうだな、ありがたい。ガルドさんも俺のレベルアップに気づいたのか、


 「どうだ、上がったか?」


 と、聞いてきた。もちろん一気に上がったのだが、手の内をさらけ出さないでおこう。勝つために。


 「1回ほどですね」

 「そうかそうか、それじゃあ明日は楽しみだな!ガッハッハ」


 何が面白いかはわからないが、まぁよしとしよう。

 その後、装備品を片付けて家に戻る。家の前まで来ると、食べ物のいい香りがしてきた。この世界のも、いわゆる米が存在していて、とてもおいしい。名前は違えど、おいしいのです…。

 ガルド先生が先に家に入る。


 「フィー、帰ったぞー」

 「おかえり~」


 中に入ると、台所でフィーが食事を作っていた。だいぶ手馴れているらしく、作業もスムーズだ。身長が足りない分、踏み台を使っている。手元では野菜と思わしき物を包丁で切っている。

 匂いを嗅いでるとおなかが減ってくる…あとどれくらいだろうか。

 ガルド先生もおなかが減ったのか、できる時間を聞く。


 「あと、どれくらいだ~?」

 「もう少し待ってーすぐだからー」


 てきぱきと作業を進めながらそう返すフィー。


 「じゃあ、それまで装備の手入れとまき割りやってるからできたら言ってくれー」

 「はーい」


 そういっている間に奥に行くガルド先生。自分もそれに続く。

 作業できそうな広さのあるところで、ガルド先生とおれはその場に座るために訓練場に持っていた装備品を置いた。


 「その爪の装備はやるから手入れも自分でできるようにしとけよ」


 と、ガルド先生に言われた。装備を暮れるのはありがたいな。


 「その装備は基本的には刃の部分が重要だ。ちゃんと研いでおけよ。あと、その刃の部分はグローブの手に持つところにあるつかみの部分に魔力を注いでイメージすることで、収納したり刃の形を変えられるすぐれもんだ」


 ほーそんな機能があるのか…便利だな。うまくやれば研がなくてもいいんじゃね?

 試しに刃の収納をやってみた。グローブの中にある棒のようなものをつかんでそこに魔力を注ぐ。イメージは出てる刃を消すイメージで…お、消えた。


 見ていたガルド先生も満足げにうなずく。


 「お、うまくできたな。あとは刃の変化イメージだが、これはうまくできないかもしれないな。だから研いでおけ、とも言ったんだがな」


 そうなのか…試しに刃のイメージもしてみよう。

 刃を出すときはグローブに出すように…うん、これはできるな。


 先ほどまであったのと同じ手のつかみのような感じだ。刃こぼれはしてないが、傷などはそのままだ。

 

 ここから刃の形状を変える…そうだな、まっすぐな剣がグーにしたときの指の隙間にあるように…魔力を込める。

 消す出すとは違い魔力を使うのを体感しながら刃の形状を変える。イメージ通りだな、うん。

 見ていたガルド先生も軽く驚きながら、


 「おー、できたか。使う魔力量は消したり出したりよりも多いからできないと思ったが余裕そうだな。さすがに優秀だな」

 「いえいえ、先生のご教授のたまものですよ」

 「ガッハッハ、そう思ってない顔でお世辞を言われるのが腹立つがまぁいい!じゃあ残りの装備もさっさと整備して、外に出るぞ!」


 笑顔でバシバシ背中をたたかれる。能力差で結構痛いんですが!背中が真っ赤になってそうなんですが!


 2,3分ほどで装備の手入れが終わったので、2人でまきを割に行く。

 ガルド先生もおれも斧が使えるので結構なペースでまき割りが進んだ。といってもガルド先生はおれの3倍速でまきを割っていたが、それでもゆっくりらしい。おれ全力でやってたんですが…。


 そうやって10分くらい経った頃に、家の中からフィーが、


 「できたよーきてー」


 というので、使っていた斧をまき割りに使っていた切り株に振り下ろして刺し、中に入る。

 中に入れば、すでに食事が並んであった。食器は周りの木から彫りだしたのであろう、木製だった。ガルド先生がきり出したらしい。なのに、表面がきれいに削れてるのは、ガルド先生の器用さのせいか。

 フィーはすでに食事の場所に座っていて、自分たちもちゃぶ台に並べてある食事が食べたいので席に着く。

 そして、全員がちゃぶ台にあるそれぞれの飲物、といっても水が入っているだけの木の容器だが、それをもって、ガルド先生が一言。


 「ウィル君のこれからの生活に祝して!」

 「「「かんぱい!」」」


 3人で容器をぶつけた。この世界にもかんぱいはあるんだな。


 食事は美味しく、物の2、30分で食べ終わった。片づけはやはりフィーがやってくれてとてもありがたい限りである。

 食べ終わることには夜も深くなってきたので全員さっさと寝ることになった。おれの寝床は訓練に行く前に考えていた通りの場所に布団を敷いて寝ることにした。


 さて、それからしばらく経っておそらく深夜になったころ。

 おれは寝静まった2人をしり目に家を出て、再び訓練場にいた。習得したスキルの【精霊生成】を試すためだ。


 さーて、どんなのつくろうかなー。精霊っていうとおれはピクシーとか想像しちゃうけど光の精霊とかだとウィルオ○ィスプとかもいたよなー。あれは結構好きだったんだよなぁ。ゲームとかで結構使いやすかったから重宝してたわ。

 しかし、よく考えるのだ。このスキルは精霊の特徴とか属性とかきめられるんだぜ…。

 神秘的なのもいいが使い魔出来なのもありだ。使い魔といえばケルベロスとかが頭に浮かぶのはやはり厨二心くすぐられますよねぇ。火を噴く地獄の番犬ケルベロスに乗りながら…うーむかっこいい。

 実に夢が膨らみますな。どこの誰だかわかりませんが、スキル使っててくれてありがとう!


 そういえば、ファンタジー系の小説読んでるとモンスターが仲間になって擬人化とかあるけどあんのかねぇ、あったらすごいワクワクだよな。

 定番だとスライムとかなー。まぁ、仲間になるかは分かんないんだけどさー。

 しかし、精霊だし人型は個人的に外せない。美少女系は王道だろうしな。


 …あ、いいこと思いついた♪


 さっそくスキルを発動する。頭の中でイメージを作り、精霊のスキルなども大まかに頭に浮かばせる。

 すると目の前の空間が真っ暗になり、歪む。そして、元からそこにあったように何かが現れる。


 あらわれたのは人型で身長が小さく、黒のゴスロリ服を来ていた。その長い髪は服よりもさらに黒く感じられる漆黒。それに対して肌は大丈夫かと心配になるほど白い。顔は言うまでもなく美少女である。目が赤く、まつ毛が長く、どこか妖艶さを持っていた。そして、ひざを折ってかしずき、彼女は桜色のくちびるを開いて、告げる。


 「精霊『ルーテシア』、主人ウィルの名のもとにただいま参りました」

 




 ………………………………………………完璧ではないか(恍惚)。


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