第一章 異世界転生&学園編
第三話 異世界
エルガルド大陸、クラーム地方を占める一大勢力、ウォルド帝国。
小国がいくつかほかにもあったが、大部分を占めるのは帝国だ。屈強な戦力を保有し、小国すべてが束になっても勝つことができないほどに城の守りもかたいためにその地位は完璧なものとなっていた。
反対側、エルム地方を占めるのは魔王側の戦力、とはいってもほとんどがダンジョンの中に潜んでいるため、並みの冒険者では入り口付近で戦うのが精いっぱいなために奥に進むのは手練れの冒険者のみとなっている。
さて、無事転生を果たした私は帝国の庶民の家庭の長男として生まれた。父、ソル=エルスタと母、ミル=エルスタとの間に生まれた。
もちろん、赤ん坊から始まったために思考能力なんてあるはずもなく物心をつくことができたのは2歳になってからだ。58にもなって、再びミルクを吸うとは思ってもみなかった。
両親はこれまた普通で父親は詰め所の兵士、母は冒険者たちに簡単な回復薬を売る仕事だった。父親の仕事次第で薬草を採取することがあるので、それを回復薬にして売っているというようなものだった。うまくできてるなぁ。
まずは異世界の基本的な情報を集めたいので父親と母親にいろいろなことを聞いた。庶民レベルで知っていることは少なくとも必要知識だろう。
まだうまく言葉がしゃべれないのと、すぐに眠くなることもあって大体のことを聞くだけでも2年が経過した。赤ん坊というのはなかなか不便だ。
名前は平凡じゃないといいなぁ、と思いつつ名前を聞くとどうやら、ウィル=エルスタという名前になったようだった。結局のところ、田中太郎と同レベルらしい、無念。こればっかしは仕方ないし、あきらめるとしよう。
とりあえず、ざっくり得た情報を頭の中で整理しよう。
まず、帝国側の戦力は魔王に対して結構攻勢に出ているということだ。まったく不利ではない、とまではいわないが、問題なく魔王と渡り合えているということだそうだ。だとすると、神様の望んでいる終わり方は何なのだろうか…?
2つ目は母親のアイテム関連の話だ。回復薬にかぎらず、すべてのアイテムには上中下が存在しており、母が売るのは基本的にすべて下級だそうだ。また、下級ポーションはちゃんとすればだれでも作れるが、中級以上になると水属性の魔法を使わないとできないらしい。
3つ目は父親の兵士としての知識で、魔法や武術を学ぶために学校が存在するということだ。これは大変ありがたい。なにより冒険者が多いこの世界ではそういったことを学ぶのは当然とされており学ぶ費用は無料だそうだ。もっとも極めるためには先生に弟子入りを頼むしかないらしいが。
4つ目は冒険者の数は順調に増えているということだ。まぁ戦い方を教える場所があるのだし、それは当然といえるか。
大体の情勢はこれで理解した。あとはこの世界に来る際に聞いた、ステータスについてみておこう。
確か、意識を内側に向けるんだったかな…こうか?
_______________________
状態:良好
職業:赤ん坊
レベル:1
筋力:1
敏捷:1
魔力:1
器用:1
精神:1
運:78
<スキル>
【スキルコピー】【すべてをこなせる才能】
<魔法>
【
<称号>
『転生者』
_______________________
まぁ、赤ん坊だし能力値が低いのは当然か。というかなんだ職業赤ん坊って。それ職業か?
【すべてをこなせる才能】は多分特典外でつけてもらったすべてを習得できる可能性か、まぁ、便利だな。
あとは頼んだ通りのものがついてる感じだし。よしとしよう。
それから2年が過ぎた。
この世界での成人は18歳らしく、それまでにとくに義務教育があるわけでもないらしい。なので完全ニートとして過ごすこともできるがそのためには金が要る。何もせずに稼げるほどこの世界も甘くないため、ニートはとうぜんいないわけだ。
そういえば、顔も悪くないように育った。どちらかというと母親に似て育ったのもあるのか童顔っぽくなったが、母親はとても喜んでいた。個人的には父親の渋さのほうが好きであったが、美形ではあるので要望通りだ。モテ期こい!
さてある程度落ち着いてきたのだが、6歳で何かをするにはまだ早い。この年の子供は大抵、子供同士で遊ぶのだろうが、どうせならステータスの上昇をさせたほうがいいだろう。そこらへんは58歳の精神が勝るのだ。
父親に頼み、剣のふりかたであったりとか筋力トレーニングを始めた。体は資本だ。体力はつけとくに限るし、剣技は小さい頃のほうが体に染みつくだろう。スキルコピーもあるので父親の技は見れば盗めるしな。
また、母も魔術知識については少し学んでいたらしい。魔力の生成は体力と同じようで使うことで上昇する。なので小さいときに簡単な魔法を覚えることでそれを繰り返し使えば、能力も上がるということだ。
一応自分には【
初めて魔法を使ったときは大変だった。使ったのは夜の寝る前。スキルや魔法の効果がわからない時はステータスを出したときと同じく、それを思い浮かべれば詳細が出たのでいいのだが、使うときは体の中で意識すればよかった。ここまではいいのだが、年は少ししかないので魔力量もあまり多いとは言えない。なので使った瞬間に体を動かすことすらままならなかった。体力というよりやる気のような見えない何かがごっそり持ってかれる感じだった。何度も繰り返しやらなければいけないということを考えると1回目で心が折れそうだった。
2,3か月もそんな生活をつづけ、魔力切れも2回魔法を使わなければ大丈夫になったのでステータスを見てみる。
_______________________
状態:良好
職業:子供
レベル:1
筋力:22
敏捷:32
魔力:40
器用さ:15
精神:13
運:78
<スキル>
【スキルコピー】【すべてをこなせる才能】【剣術の心得】
<魔法>
【
<称号>
『転生者』
_______________________
新しく手に入ったスキルは剣術の補正が入るというものだった。練習していることである程度力がついたということだろう。剣を振っているときも動きに少し補正があるのがわかる。自動で補正がかかるというのも変な感じではあったが。
あと、父親によれば、レベルも結局は目安のようなものでレベルにあってない能力値を持つ冒険者もいるのだとか。そもそも能力が数値化されて見えるのは自分だけのため、これがすごいのかはわからない。
実践に出ればいいのだろうけど、さすがにそんなことをすれば二人が心配するのでそこは控えた。
学園に入学できるのは8歳かららしく、それまでは自分のステータスの上昇に努めることにした。基礎能力は大事だし、あげてて損はないしね。
それからしばらくは自分で剣術を研究したり、魔力の上昇のために使う日々が続いた。現代日本では学ぶことのない剣術だが、いろいろ考察するのも悪くない、あちらでの
筋力トレーニングも家でできるものだけでは筋力のステータスに傾くことをふまえ、身体強化の魔法も併用することで少し早いランニングという形でトレーニングをした。このほうが効率的であるし、腕立てとかよりは町のいろいろな情報も見れるので一石二鳥だ。
そういえば、近隣は住宅街なのでよく子供が遊んでいた。何度か遊ぶのを誘われたが、研究に没頭したいので丁重にお断りした。もちろん、子供たちは面白くないようだったが、それでいじめられることなどはなかった。よくできた子供たちだった。
そうやって再びはや2年。修行の毎日を話しても、日本のころと同じくルーティンワークだから語ることも少ない。元々、そういうのが得意だったのもあるから、あっという間に2年が過ぎてしまった。
あれからステータスはぐんぐん伸び、
_______________________
状態:良好
職業:子供
レベル:1
筋力:94
敏捷:102
魔力:197
器用:32
精神:48
運:79
<スキル>
【スキルコピー】【すべてをこなせる才能】【剣術の心得】
<魔法>
【
<称号>
『転生者』
_______________________
それでもやはりあげ方がわからなかった器用さや、精神などは低迷した。ほかのステータスは同世代の子供からすれば、おそらく高いと思われる…高いはずだよね?
さて、学園の入学だが、誰にでも門扉が開かれてるとはいえ全員をランダムで一緒にすると授業レベルの差が付けづらい。なので、最初にある程度の試験が行われる。
もちろん、ふるい落とすのが目的ではなく能力を測るためだ。
(ここでしっかりとした成績を出して上のクラスに行きたいな)
ここまで来て残念ながら、一番最低クラスです!というわけにもいかない。
入学試験当日では両親がとても心配していた、ただの試験なんだけどなぁ…意外に親バカっぽいぞ…。
「ウィル、無理せずに頑張ってきてね!応援してるよ!お弁当はいる?体調に変なところはない?」
「大丈夫だよ、母さん。僕ももう8歳だよ?そんなに子供じゃないよ!」
自分で行ってて思ったけど8歳って子供じゃねぇか。いや、中身はおっさんなんだけどさ。
「そう?でも母さん心配で…」
「ミル、ウィルももう8歳なんだ、黙って送り出してやるのが、親の務めだぞ…!」
いや、父さん、そんな唇から血が出そうな勢いで口をかみしめて目に涙浮かべてるあんたのほうが大概だよ。今から試験いくだけで今生の別れみたいになってるよ?大丈夫か?
「それじゃあ、行ってくるね。結果期待してて!」
「気を付けてね~!」
「頑張れよ"ぉ"ぉ"ぉ"!」
………父さん、出た後まで涙声で送り出さないでください。
でも、心配されるのは昔以来で、不思議とうれしくはなった。あったかい親ってのはどこでもいるんだな…。
最初の試験は体力テストだった。8歳ということもあり簡単なかけっこであった。
場所を移動し、運動場のような広い場所に連れていかれた。コースは簡単な直進コース、距離でいえば100m位だろうか。8歳の子供だと全力で走れば息も絶え絶えだろう。
受ける子供たちは約200人ほど、貴族庶民が一切関係がないために人が多い。さすがに多いため順番に走るのだが、5人ほど同時に走らせる形のようだ。
私…いや、さすがに異世界に来たのだし、ここはあえて俺でいきましょうか。俺の順番は199番目、まさかのブービーだった…いや、最終的に結果出せばいんだよ…。
少ししょぼくれていると走るタイミングが同じなのであろう子供が隣に来た。
200番目の隣の子供は少女のようで短い黒髪のショートカットの子だった。服装はみんな同じような動きやすい半そで半ズボンの格好であまりオシャレなものではないが、とてもかわいらしく見えた。
「ん、なぁに?」
「いや、なんでもないよ。気にしないで」
いかんいかん、少し見すぎたか。
謝りつつ反対のほうに目を向ける。
反対側、つまり198番目の子供は対照的にいかつい顔をしていた。金髪で頭がとげとげしていたので一瞬不良かよ、と思うレベルだった。
もちろん速攻で目は背けましたがね。
(あぁいうのもいるんだなぁ、こわいこわい)
そんなことを考えつつ前のほうのグループが走っているのを見る。思った通りそこまで早いわけでもないようだ、近所の子供よりは早いが、それでもフーンといえるレベルが多かった。
これはある意味チャンスだろう。やるっきゃない。
そうして、自分の前のグループが終わり自分たちの番が来た。
走るのタイミングは日本の時よろしくの「よーいドン!」だ。いっとくけどTV番組じゃないからね?
特にパッとしない先生と思わしき人がタイミングを言ってくれる。
「では、位置について!」
ここで【身体強化】を発動させておく。体に力が回る感じがわかる。
「よーい!…ドン!」
手加減なしで本気で足で地面を蹴りだした。走ってる時は地面を見て倒れこむように走るのがコツだと言っていたので、全力で走った。
数秒後、ゴールして後ろを振り返った。
子供たちが出発してまだ20m位の地点にいて、先生が唖然としてこちらを見ているのがわかった。
…………やりすぎたやつですね、わかります。
こうして、俺の新しい異世界ライフはそれまでの平凡ライフに別れを告げ、華々しいスタートを飾った…はずだ。
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