第二話 異世界管理は意外と大変
全力で頭を下げる不審者さんは頭を挙げることを私が促しても「だめです!OKもらうまではこの状態から動きません!」と言って、かたくなに土下座をやめようとしなかった。勘弁してくれ。
ひとまず、なだめること1時間。さすがに足がしびれてきたのか、説得が利いたのか、足を崩してくれたのでどういうことなのか説明を求める。
「実はですね、ここだけの話世界線は複数に分かれていて、こことは別の世界がほかにいくつもあるんですよ。いわゆる、超SFの世界もあれば、世紀末救世主とかが闊歩するような世界もあるんです」
なにそれ、全部行きたい。
「で、その世界一つ一つにその世界を管理する神様がいて、私が別世界から人を読んでくる役割を負ったんですよ」
すごい世界の秘密みたいなことを聞いた。まぁ、壁に張り付くようなことをしてる人?だし本当なのだろう。そういうことにしておこう。
不審者さんはしびれた足をさすりながら説明を続ける。
「それでですね、なぜ人をほかの世界から呼ぶことになったかといいますと、実はそのたくさんある世界のうち、いわゆるファンタジーの世界が少し厄介なことになっているんですよね」
え、神様だしいじれるとか、そういうわけでもないのか。
「あ、別に神様が管理を失敗したとかじゃないですよ?ただ、このままいくと望んでなかった方向に進むらしいのでどうにかして思ったようなストーリーに仕上げたいのだ、と言っておられました」
それを管理が失敗したっていうんじゃねぇかなぁ。
「なので別世界の神様に許可をもらって、人材をいただいてこちらの世界に招かせていただき未来を変えてもらおうという話なのです。ここまではいいですかね?」
「話は大体わかったんだが…これ、もし断ったらどうなるんだ?」
そう聞くと、不審者さんは肩をビクッとさせ
「べ、別にどうもしないですよ?今、この話に関する記憶だけを消して日常に戻ってもらうだけですので、お気になさらず…あとは私の頭がぼこぼこになるだけですが…」
せ、切実だな…。
「そ、それでは話を続けますよ?もちろん、何も戦いに心得のない一般人などをファンタジーの世界にいきなり連れていくのは酷です。なので、転生という形で魂と記憶を引き継ぐ形で異世界に来ていただくことになります。もちろん、生まれる際は赤ちゃんですし、生まれる家庭はランダムですが、おそらく捨て子でスタートということはないと思います」
まぁ、人生ハードモードでハッピーエンドはなぁ。
「で、もちろん来ていただくわけですのでいくつか特典を付けることで転生をしていただくということになりますね。いらなければ、それはそれで問題ないですが」
「なるほど、ちなみに異世界に行った後、この世界では私はどういうことになるんだ?まさか、失踪?」
人一人いきなりいなくなるなんてあったら、普通に考えて事件だしな。
「いえいえ、急に消えたりしたらこちらの世界にもご迷惑がかかりますので、問題ない範囲でこの世界の神様に過去の改ざんをしていただきます。おそらくは、少し前に死んだことになったり、もともといなかったりになるんじゃないですかね」
あっさりと存在をいじくられるとかこえぇな神様、消そうと思えば一瞬で消せるということですか…ひぃ。
「それで特典の話になるのですが、あちらの文明を壊したりするようなトンデモなものを持っていったりすることはできません。あくまであちらの文明に適応した、もしくはあちらの文明で再現可能なものまでものを持っていったりすることができます」
「あ、質問いい?」
「はい、なんですか?」
「ファンタジーの世界っていうことはステータス画面とかスキル画面とかはどうやって確認できんの?レベルとかそこらへんも詳しく」
急に転生したはいいものの、チュートリアルのない操作不可能ゲームじゃあ何もしようがないし。
「はい、あちらの世界ではステータス画面があるわけではないのですが、あちらの世界に住む人はあちらの世界の人特有の感覚でうっすらと自分の持ってるスキルなどを確認することができます。スキルを手に入れた際もなんとなくでわかるそうですね」
異世界人は異世界人の文化っていうことね。
「ですが、田中さんは異世界からくるわけですし、そんな感覚は持ち合わせていませんね?なので、精神統一という形で意識を内側に向けていただくときにウインドウという形でステータスが文字で確認できるようにいたします。後、スキルを手に入れた際も戦闘中の可能性があるので視界の隅に表示されるようにしますね」
サポートがしっかりしてて至れり尽くせりだね…。変な詐欺通って疑いたくなるほどに…まぁ、それはないだろうけどさ。
「また、レベルですがあちらの世界では神の祝福という形で敵を倒すことで得られる経験値を手に入れてレベルが上がると特有のファンファーレが鳴り、レベルの上昇を教えてくれます。聞こえるのはレベルが上がった人だけですね。あちらの世界の人もレベルが上がると聞こえますのでご心配なく」
ドラ○エかF○か気になるなレベルアップ音。
「それでレベルはどうやって見るのかというと、あちらの世界に存在する冒険者ギルドで冒険者カードを作ることで見ることができます。なので、これを目安にしていただければいいですね。もちろんステータスを確認することで田中さんはいつでも自分のレベルを確認することができますよ」
「ステータスの確認の仕方はわかったけど、魔力の集中で間違って出るとかは?」
「魔力の生成とは集中の仕方が違うのでたぶん大丈夫…だと思います」
本当かよ…すごい心もとなさそうに言ってるけど…。
責めても仕方ないので、特典の話について聞く。
「はい、特典ですが基本的には何でもいいです。こちらがだめといわなければ、オッケーですね。あちらの世界のスキルでもいいですし、便利な道具でもいいですよ。
もちろん、幻の聖剣とかになるとあちらの世界に影響が出たりしますので、そういうのはあちらでとっていただくことになりますが」
「なるほどね…」
「そ、それでですね?結局のところ転生してくれるんですかね?」
不安そうに不審者さんは言う。断られたら困るのだろう、すごーく心配そうな雰囲気だけはマントをかぶって顔が見えないのに伝わってくる。
「んー、急な話だからなぁ…後日ってのは無理なの?」
「それがこちらも人手が大変足りなくてすぐにでも次の人に回れと言われてるんです…」
あー、じゃなきゃ私の前に12人もフられているような人を回さないか。ということは結構せっぱつまってるっていうことなのかねぇ。
「んじゃ、行くよ。仕方ないし」
「そうですよね、急な話でオッケーするわけ…え"?」
悲壮感あふれる雰囲気が一気に吹き飛んで驚いたのがわかる、すごいな表情が体に出るってこういうことなんだな。
念のためもう一度言う。
「行くよ、異世界。行ってみたいなぁって話を今日飲み仲間としたばっかだし」
「ほ、ほんとですか?キャンセルとかないですよ?いいんですか?」
「いいよ、異世界自体少し憧れてるんだから。それに特典も付けてくれるならすぐには死なないだろうし、大丈夫でしょ」
多少楽観的ではあるが、今のようにただ生きてるのもつまらない、というのが本音だ。こんな年になってもまだ冒険にあこがれてるのは、我ながらどうなのかと思うがな。
………ただ、あいつらと会えなくなるのは、少し寂しいな。
「う"ぇ"ぇ"ぇ"あ"り"が"と"う"こ"さ"い"ま"す"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"」
「ちょ、泣かないでください!」
うわ、マントの下から涙やら鼻水やらが出てる!床がああああああ!!!
泣き止ませること再び30分、さすがに深夜という時間帯なので静かにしよう…はて?
「そういや、結構騒いでるけど周りから苦情来ないんだけど?」
「あ、窓からお邪魔する際にすでに防音の結界を作ってますのでそこはご安心を」
おおすごいな、ファンタジー。なんでもありか。
「それで特典はどうします?今回は上限ギリギリまでやっちゃいますよぉ!」
ぶんぶんと腕を振りながら張り切る不審者さん、不審者さんっていうのも変だしマントさんでいこうかな。
「それじゃあ、マントさんは連れていけるの?」
「え?私ですか?問題はありませんが…いいんですか?」
驚くマントさん。まぁ、そりゃあいろいろもらえるのにっていう話だよな。でも、行けるんだな、意外だな。
「まぁ、仲間がいるに越したことはないしね、是非是非」
「わかりました。さすがに赤ん坊の時点で会うわけにはいかないので、冒険者ギルドであうということで。」
「そういえば、思ったより驚いてないけど過去にもあったの?」
「これでも十分驚いてますよ!でも、確かに過去にもこうやって連れていくパターンはありましたね。前例があったからこそ、特にとめはされないんですが、ここ100年ほどはなかったので珍しい部類とは言えますね」
100年も前からこんなのやってたのか、戦争中の人もびっくりだろうな。
「まだもう少し、ほかにも特典が付けられますがどうします?」
「んーそうだなぁ」
まぁ、なんでそんなことしたかっていえば能力とか何かを特典でもらうにしても思いつかなかったのが大きな理由だ。平凡なサラリーマンが超能力をいきなりもらうといわれても何も思いつかんて。
「それじゃあ、剣と魔法が使える素養とかは?」
「そういった、基本的な才能はこちらのご厚意ですべてつけさせてもらってますね。さすがに何も戦えないでは生きていくのに難しいですし」
まぁ、そりゃそうか。じゃあ、無難なところでスキルって話だよな。
「スキルとかってどんなのでもいいの?」
「基本的に何でもなのは変わらないですね。ただ、空間転移などは魔法でも相当難しい部類に入りますので、そういうのになると特典はそれでおしまい、という感じですね」
「じゃあ、マントさんはどういったことができるの?」
「わたしは身体強化系の魔法と先ほどの防音魔法、つまり風系統の魔法を習得してますね。あとはダガー系を少し使えますので、戦力としては並々です」
まー即戦力がいるだけ十分だよな、信頼できる仲間なんてあちらの世界で簡単に手に入るとは限らないし、普通に戦えるでも十分だろう。
………ん、閃いた。
「じゃあ、私にも身体強化の魔法と…」
「はい、それと?」
「イケメンになりたい」
切実であった。
バカにされたって構わない!人間生きていくためにはモテるという自尊心を満たすことも必要なのです!
現代で負け組だったのは察してくれ。
「わかりました。あともう一つくらい行けそうですがどうします?」
あっさり通ったけど…やっぱみんなそこは気になるんだよね…そういうことだよね…うん。私だけじゃないよ。うん
でも、そうだな。あとファンタジー能力的なところのカバーがもう少し欲しいな。
せめて、他よりもぬきんでて自慢できるスキルがないと…あ、そうだ、これいけるかな。
「人のスキルを見ることで覚えるスキルとかはどう?もちろん人に限らず、モンスターも」
「あー、一応ありますが大丈夫かなぁ。確認とってみますね」
今のでたぶんギリギリでしょうし、といいつつ連絡を取るために席を立って部屋の隅のほうに行くマントさん。連絡はまさかのケータイだった。さすが、ケータイ。
それから、10分ほどして戻ってきた。
「確認が取れました。以上の内容であればオッケーだそうです。あと、私の身分もあちらで合流後一般冒険者の扱いになるようです」
申請は無事オッケーか。もしだめならイケメンを外さなければいけなくなったがすごく安心した。いや、ほんとに。
「ではこれで転生を始めますか?」
「あ、ちょっとまって」
転生がすぐにでも始まりそうだったので、一つだけ聞きたかったことを聞く。
「マントさんの素顔はみれないの?」
一番気になっていたことでもある。後で仲間になるなら今のうちに見ておいたほうがいいだろう。
「そうですね、あちらの世界で仲間になる際にはこちらから話をかけますのでその時に。勤務中は原則これなので外すわけにはいかないんですよね」
「なるほどわかりました、じゃあ、お願いします」
勤務中はだめだというなら仕方ない。なによりそれが趣味ではないということがわかって安心した。ずっとマントつけたままの人とかさすがにいやすぎるし。
「では、転生を開始します!転生者が一花咲かせることをお祈りします!」
マントさんのお祈りをバックに転生が始まった。
「あと、転生先は初心者冒険者の集う街の予定なので、そこは安心を!」
あ、それを聞くのを忘れてた。教えてくれてありがたい。スタート地点がいきなりモンスター出てくるとかだったらシャレにならんしな。
転生が順調に進んでいるのか意識が遠のいていく。新たな人生スタートを華々しくしたいものだ、がんばろう!
……そういや転生先の管理者さんは何をどういう風にするのがお望みなんだろう、ゴール聞いてなかったぞ、おい。
スタート地点からゴールを見失っていたことに今更気が付いた。
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