第5話 転移

 響夜の胸の高鳴りが一層ひどくなる。バクバクと心臓は節操なしに動き、このまま行ってしまえば爆発しそうだった。その原因である目の前の少女は全く気づいていない様で楽しく元気そうに響夜きょうやに話しかけた。


「この授業が終わったら、魔法の練習をしましょう!!」

「おう、そうだな」


 丁度チャイムは終わりを告げた。彼はそれには気づかなかった。あの素っ気無い返事をするだけで鼓動は早さを増してそれどころでは無かったのだ。響夜のこれは間違いなく恋というやつだろう。

 (恋なんてしたのはだいぶ前のことだったはずだ。全く内容を覚えてはいないけどあったことは覚えてるな。あの子はどんな人だっただろうか)そんなことを響夜は何となく思いながら少女を見る。


「今から練習する為の場所に行きましょう」

「練習するための場所??」

「そうです。教室全体に魔法を張り巡らせていますから魔法を防ぐための結界も張るのはそれに干渉します。それにここじゃ圧迫感を感じたり遠慮したりして本来のスペックが出せないでしょうから」

「何か魔法が張り巡らされているのか。。。それに魔法を防ぐための結界もあるのか」

「魔法を防ぐための結界はそれ専用の魔法があれば少ない魔力で解除出来てしまいますけどね」 

「あ、そういえばもう終わってたのか」

「そうですよ」

 

 「心配です」とでかでかと顔に貼り付けられていると言っても過言ではないその表情に、響夜きょうやはやるせない気持ちになった。だが、ここで本当の事を言えるわけも無い。


「考え事をしていたから気づかなかった」

「そうですか」


 そのわざとではないかと思えるほどの大袈裟な安堵に響夜は自分でも安堵を覚えた。彼はホッとしてくれてホッとしたのである。

 安心した彼女は態度を一転して凛と佇む。すると魔力の粒子が桜吹雪のように彼女の周りを舞った。そして彼女は力を込めて大声で言い放つ。


「Doコマンド、コール1467!!」

「座標指定X Image Y Image 」


 すると瞬く間に魔方陣が少女と響夜の下に出現した。それに響夜きょうやが気付いた瞬間、どこかへと転移する。転移した先は響夜には驚きの光景が広がっていた。


 彼が夢で見た、花で埋め尽くされた地面と古代ローマ風の教会そのものが鎮座していたのだから。

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