第4話 魔法

 響夜きょうやは一瞬転校生に気を取られたものの遅刻したことを報告しなければいけないことに気づき言葉を発そうとした。「・・・・・」言っているはずなのに全く自分の声は聞こえない。

 喉でもやられたのか、と思い響夜きょうやは喉に注視した。すると透明なものが喉に巻きついているように見える。その透明なものには僅かに妙なキラリと光る粉が混ざっていた。


「灰原君、見えるとは流石ですね」

 そう言うと銀髪の転校生はパチンと指を鳴らした。すると透明な物はスゥーと空気に浸透し消えていく。響夜は僅かに身を近づけて質問した。

「見えるのが流石ということは見えることが凄いのか??」

「そうですよ。それは間違いなく一般人には見えません。発動後は魔法の中でも高い隠蔽性を誇る詠唱魔法による魔力ですから」

「魔法!?何を馬鹿なことを言ってる!!」

 

 響夜きょうやは否定しつつも若干興奮している。彼は世界が空虚なものだと知っていた。だが、世界が夢に溢れていることを心の底では願っているのだ。そんな複雑な心中を驚くべき速さで察した転校生は淡々と言った。


「さっき声がでなかったのは魔法です。魔法は科学では説明出来ません」


 そして今度は優しく。


「魔法はファンタジーで夢が詰ってます。例え科学に組み込まれることになっても夢の技術であることは変わりません。世界に夢は存在します。空虚だと思うと世界は空虚に見えますよ。魔法が世界に夢があることの証明です。夢を持って....いいんですよ」

「そんなはずはない」


 そういう響夜きょうやの声は震えている。形だけの否定だった。その妙に聞き慣れた透き通る声が彼の心の壁を透き通り夢という概念を浸透させていたのだ。

 普通ならば受け止めがたいことだったが認めようとあっさりすぐに彼は思った。認めて前へ進もうという気持ちにあの子はさせてくれていると自分でも響夜きょうやは実感する。


「認めてくれました?」

「認めるよ。それにしても俺の心中を読み取るのが速すぎる。さすがにどんな頭が良くても不可能だ。そして声が聞き慣れている感じがする。もしかして君は過去に俺と仲が良かったのか??」

「魔法ですよ」


 彼女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべて言うのだった。

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