第3話 登校
正常な思考に戻りつつあるといっても家族を失うというのは大きなショックを受ける出来事である。彼はまるで底がない谷のような深さの悲しみを覚えていた。夢とは対照的に彼はふらふらとおぼつかない足取りで最寄駅へと向かっていた。
今日は晴れ晴れとした天気にも関わらず
駅の敷地まで何とか辿り着き大きく深呼吸した。「スゥーーーハァーーー」時間が経ったからか幾分か心が落ち着いてきた。行ける。
響夜の足はまだ震えていたもののしっかりとした足取りだった。一歩一歩着実に地面に足をつけ、蹴り、電車へのホームへと向かう。
彼が電車のホームに着いた時にはもう11時である。随分と着くのに時間がかかっしまったことがそこから伺えた。高校は最寄り駅から2駅。電車を使うまで遠くは無い。バス所かむしろ普通は自転車で通っているぐらいだ。
勿論、今の彼に自転車で通う気力など無かった。
電車の窓から見える景色が響夜にはすべて同じに見えた。窓から見える景色は温もりなど感じれぬ硬いコンクリートの壁が全てを埋め尽くし草木は1本も生えていない。そんな景色だったからだ。
世界は残酷だ。世界は人類で手一杯で草木の場所すら与えてやれない。それは世界が残酷ではなく人間が残酷なのか。
黄昏ていると見慣れた高校が見えた。どうやらもう着いたらしい。彼は朧気にそう思い、電車を反射的に降りる。
道は覚えていない、景色はすべてが灰色、そんな中響夜は学校だけはハッキリと見えていた。ただ、ひたすら高校を目指す。無心で高校へと歩いた。考えると嫌なことが浮びそうだったから。
駆け足でクラスへの道を走破して行く。一刻も早く安心が欲しかったのだ。そして辿り着き勢いよくドアを開けるとそこにはいつもと変わらぬクラスメート、授業風景があった。
いや、いつも通りではない。空席だったはずの響夜の左隣に女の子が居た。銀髪長髪のメガネを掛けているもの静かな子が。
「灰原君、こっちですよ」
そのやけに聞きなれた透き通るような声に、彼は胸の鼓動を高鳴らせた。
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