第2話 失踪

 そこで灰原はいばら響夜きょうやは目を覚ました。あの光に似た柔らかな光がうざったい。今回はまるで夢のような体験をしたと思ったが実際に夢だったらしい。今考えれば普通にわかる事だ。

 世界とは空虚でつまらないものである。そこに御伽噺のような魔法、絶対的な世界の救世主というものは存在しない。否、存在してはいけない。存在しているとするならば世界のバランスが大きく偏っているということだ。万が一にもあってはいけない事である。そう自分に言い聞かせ響夜きょうやは自分を律した。

 どこか期待していた自分に苛立ちを覚えていたのだろう。半ば無意識に布団を乱暴にどかし、ドアを開け自分の部屋を立ち去った。


 響夜きょうやが下に着くとテーブルには既に湯気が立つ程にホカホカの朝食が四つ並んでいる。トーストにスクランブルエッグ、ソーセージと普通の美味しそうな朝食がそこにはあった。だが、家族の姿は無い。

 もちろん四つ並んでいることからわかるように彼の家ではなんとか時間を合わせて家族全員で朝食を食べている。もしも起きれなかったのなら食卓に温かいご飯が並んでいるわけがない。

ーーー家族に何かあったのではないか

 そんな嫌な考えが響夜の頭をよぎったが母だけ起きて作って寝てしまった可能性も充分ある。最悪の可能性を覚悟しつつ両親の寝室に行った。


誰も居ない。


 妹の部屋をノックした。返事が無かったので入ると


誰も居ない。


 その後あらゆる可能性を考慮して響夜は家内捜索したものの誰も居なかった。全員の携帯電話に掛けたが誰にも繋がらない。

響夜は覚悟をしていたのに現実を受け止めきれず呆然と立ち尽くした。


 彼が小1時間立ち尽くしているとプルル、プルル、据え置きの電話が鳴り出した。

 家族のいずれかだと思ったのか獅子奮迅の勢いで電話に向かう。受話器を勢い良く取り息切れしたまま電話に出た。

「ハァハァ」

「?大和高校の1年4組の担任、松本まつもと 香澄かすみです。灰原君が来てないのですがご病気でしょうか??」


 響夜きょうやは家族でなかったことに落胆を覚えると共に学校があることを思い出した。

 (このまま1人で居てもどうせ帰ってくることは無い。なら学校に行って徒党を組むのが一番である)正常な思考に戻りつつある彼はそう結論を出し寝坊したことにして電話を切った。

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