第13話 サルマとリーシ
警備戦士たちがアルゴの船の中でサルマを捜している。リーシも船室に入り、戦士の一人に声をかける。
「どう? 見つかった?」
「それが……まだ見つかりません」
「……そう。いいわ。このままヤツを捜しなさい」
リーシはそう言って戦士と別れたあと、船室内の階段を降りてゆき、食堂にやってくる。そこで別の戦士がやってきてリーシに声をかける。
「隊長……!」
「何? サルマを見つけたの?」
「見つけたのは見つけたんですけど……サルマじゃねぇです」
「え……どういうこと?」
リーシは戦士に案内されて食堂の隅の、大きな木箱がいくつか置かれている場所にやってくる。
戦士に促されて木箱の中を
「え……女の子じゃない! なぜこんなところに……とりあえず
リーシに言われて、警備戦士がアイラのさるぐつわと手足の縛りを解く。
「プハァ!」
アイラは口が自由になったところで大きく息をつく。リーシは心配そうにアイラを見つめる。
「大丈夫?」
「は、はい……!」
「これは、誰にやられたの? アルゴたちに?」
「ううん、違う」
アイラは首を横に振る。
「じゃあ……サルマね?」
「え、う、ううん、違うよ!」
アイラは少し困ったような表情で否定する。
「じゃあ、いったい誰に……」
「隊長、アルゴ海賊団の奴らにこの子のことを聞いてみましょうか」
先程の戦士が提案する。
「そうね、お願い」
リーシが頷くと、戦士はその場から去ってゆく。
「あ、あの……」
アイラがおずおずと口を開く。
「隊長って呼ばれてたけど……お姉さんが、戦士隊長の……」
「そう、警備戦士隊長の一人、リーシよ」
リーシはアイラを見て微笑む。
「そうなんだ、女の人だったんだ……。優しそうだし、綺麗な人だし……なんだか聞いてた話と違うなぁ。リーシって戦士隊長は凶暴で、見つかったら何をされるかわからないって聞いてて、もっと怖い人かと思ってたけど……」
「……サルマね」
リーシは目を閉じて呟く。
「……え?」
アイラはギクリとした様子でリーシを見る。
「私のことを凶暴だって言うのは……サルマくらいしか思い当たらないわ。あなた、サルマのことを知っているのね?」
「あ……えっと……。う、うん……」
「じゃあ、サルマのヤツはどこに隠れているのか、教えてくれる?」
「そ、それはわかんない……。わたしは閉じ込められた後、何も見えなくなったから……」
「……やっぱりサルマに閉じ込められたのね」
「う、うん……嘘ついてごめんなさい」
アイラは申し訳なさそうな顔で
「いいのよ。全く……女の子を箱の中に閉じ込めるなんて、相変わらず最低なヤツね。まあ、総出で捜しているんだし、見つかるのは時間の問題でしょう」
リーシはそう言って食堂をぐるりと見渡し、ぼそりと呟く。
「もしかして……あそこかしら」
「え………?」
リーシはオーブンの前まで歩いてゆき、鉄でできている黒い
「サルマ、観念なさい。ここに居るのはわかってるのよ」
リーシがそう言っても、オーブンの中からは反応がない。リーシは持ち手を引っ張りながら、黙ったまま手を振って、近くにいた警備戦士を二人呼び寄せて言う。
「アンタたち、このオーブンに火をくべなさい!」
「ええっ⁉」
アイラが身を乗り出してそう叫ぶと同時にガチャリという音がし、オーブンの
中から
サルマは目を見開いて剣先を見つめ、唾をごくりと飲み込む。
「…………鬼め」
サルマが剣先から目を離し、リーシを思いっきり睨みつける。
「アンタがそんなとこに隠れるからよ。開かないように中から細工したとしても、火をくべたら出てこざるを得ないからね」
「オマエは料理なんかしねぇから気づかねぇだろうって、昔家のオーブンに隠れた時は……考えが当たって見つからずに済んだのによ」
「……ずいぶん舐められたものね。同じ手に二度もひっかかる私じゃないわ。それを思い出して、またここに隠れたんじゃないかって睨んだのよ」
「……覚えてやがったのか」
サルマが呟くと、リーシは剣先をサルマの喉元近くに突きつける。その目は赤い炎のように燃え……怒りに満ちている。
「本当はここでアンタを殺してやりたいところだけど……とりあえずは
「抵抗なんてしねぇよ。俺はもう剣を捨てたんだ」
「……ブレイズ家の恥さらしめ」
リーシはサルマを睨んでそう呟いた後、後ろにいる警備戦士たちに声をかける。
「アンタたち! さっさとサルマを捕らえなさい!」
戦士たちがサルマに縄をかける。それを少し離れたところで見つつ、リーシはサルマに言う。
「……船は返してもらうわ。アンタなんかが警備戦士のシンボルである紅竜のついた船を乗りまわしてるなんて、警備戦士の名折れになるわ」
「……くっ……」
サルマは戦士たちに連れて行かれて食堂から出て行く。リーシは辺りを見渡し、残っている警備戦士たちに向かって言う。
「サルマのヤツは見つかったわ! さ、
リーシは食堂から出て階段を
「そうだ、まだあなたのことを聞いていなかったわね。あなたはなぜあのサルマと一緒に……」
「うん、わたしアイラっていうの。リーシさん、そのこと話す前にちょっとお願いがあるんだけど……」
「お願い? 何かしら」
「わたし、ちょうど警備戦士の
リーシはそれを聞いて少し首をかしげる。
「……父に話すこと?」
「えっ、父……って……?」
アイラは目を丸くしてきょとんとしている。リーシはアイラの顔を見て笑う。
「
「あ……ありがとう!」
アイラの顔がぱっと輝く。
「じゃあアイラちゃん、私の船に行きましょう」
「うん!」
二人は階段を上り、船室から甲板へ出る。アイラは海を見るとはっとして叫ぶ。
「あ、リーシさん! ちょっと待って!」
「? どうかしたの?」
リーシは歩みを止めてアイラの方を振り返る。
「あの、
「えっと……そうね、ちょうど南くらいになるかしら」
そう言ってリーシは、自分の船が停まっている方向を指差す。
「そ、そうなんだ……」
アイラは急いで荷物の中からコンパスを探す。
(どうしよう、コンパスはさっき北西を示してたけど、コンパスの示すとおりに行った方がいいの……? でもサルマさんと離れて、今は一人で船で旅を続けられる状態じゃないんだし……。それに、メリス
アイラはコンパスを取り出し、表にして針を見る。
「‼」
アイラは思わずコンパスを二度見する。針は、リーシの船の停まっている方を……ここから南をまっすぐに指していた。
(南を……向いてる! わたしの願いを……聞き入れてくれたのかな……?)
立ち止まったままのアイラに気づき、前を歩きかけていたリーシが戻ってくる。
「どうしたの、アイラちゃん。こっちよ」
「う、うん!」
アイラはコンパスをぎゅっと握りしめ、南の空を見る。
(とりあえず行ってみよう、
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