第3話

10月の予選会は、大会6位の成績で突破することができた。

他の大学はどうか知らないが、俺らの大学の予選会メンバーは3、4年で構成されていた。

その際、箱根を走ったことがあるメンバーはエントリーから外し、まだ一度もエントリー経験のないメンバーを優先的に選出する。

なるべく部員全員に走るチャンスを与えるためと、主力メンバーの温存を兼ねた監督の計らいだ。

その予選会で頭角を現したメンバーは、もちろん本番のエントリーも期待できる。

夢の舞台に立てるかもしれない、という想いが、予選会選抜メンバーの士気を高めた。

無事箱根への切符を手にした瞬間から、本番に向けての猛烈な追い込みが始まる。

ここで今までのチームを一旦解体して、タイプ別にチームを編成しなおす。

それが箱根区間にそのまま結びつく。

俺と卓は、ここで同じBチームに所属した。

これは区間で言えば、往復の表裏、2区と9区に相当する。

両区の特徴をしっかり捉えて、それに合わせたトレーニングを積み重ねる。

そして、チームから各区の走者を選出して箱根にエントリーするという方法だ。

エントリーから漏れた部員は、サポーターとしてサイドからチームを支える。

例えば、コース途中の給水だ。

エントリーされていても、本番では選手以外はすべてサポーターになる。

誰もが選手を支えられるように、あらゆる場面を想定しながら何度もコースの確認を行っていく。

テレビや、沿道での応援では見えなかった裏方の大きな力は、こうして作りあげられていくんだ……。

ここに来るまでは、走ることだけを夢見てきた。

でもそれだけじゃない、ひとつの目標に全員で向かっている勢いの中に居られることが、俺を熱くさせていた。

11月から卓は上級生に混じって部活後もトレーニングを続けていて、例のコンビニパンの時間は自然消滅していた。

12月が近づくと、いよいよ最終調整に入っていく。

陸上部は授業も欠席して、ひたすら練習に明け暮れていた。

12月頭、出場メンバー登録締切日前日、部員全員の前で正式にエントリーメンバー16名の発表があった。

そして12月下旬の各区選手登録で、卓は正式に2区のランナーとして名前が挙がった。

各校のエースが投入される、通称“花の2区”。

予想していたと言えど、ここに未経験の1年を投入する監督の大胆さには驚かされた。

それだけ卓に期待と信頼を置いているのだろう。

9区には、去年も本番を走った3年の先輩が選出された。

全コースの選出メンバーに補欠が6名、大会運営スタッフ“補助員”に20名、計36名の名前が挙げられ、一気に本番直前の緊張感に空気が張り詰めた。


「卓、頑張れよ」


発表後俺は、何気なく卓の肩にポンと手を置いて言葉をかけた。

卓は無邪気な顔でニコッと笑うと、いきなり肩にあった俺の手をグッと握りしめてきた。


「優、戸塚中継所で俺を待ってて」


切れ長の目が、真直ぐ俺を見た。

その射貫くような視線と掴まれた手に込められた力が、俺を戸惑わせる。

監督のエントリーメンバーを呼ぶ声がして、卓はそのままツイっと離れて行ってしまった。

残された俺は、掴まれていた手をもう一方の手で確かめるように擦って、その後姿をずっと眺めていた。


  

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