第2話ハセさん

働くことになった近所のスーパー

週に1度は買い物に行ってました。

いつも行っている店で働くってなんだか不思議な気分です。

スーパーには青果や精肉、鮮魚や日用品など扱うものごとに部門に分かれています。

わたしは日販品を扱うデイリー部門で働くことになりました。

働くことが決まって、初めてお店に行く日まで

緊張しっぱなしでした。

仕事内容は商品の品出しくらいしか聞いてないので

具体的に4時間何をするんだろう?

ずっと商品を出し続けるんだろうか?

それだとすごい筋肉痛になりそうだなあ・・

何もする時間がなくってひまな時間とかあるんだろうか?

いろんな想像してました。


そんなこんなでいざ当日。

事務所で必要な書類を渡して、制服を支給されたのでロッカーで着替えて

再び事務所へ。

事務の管理さんに1階の店へ案内されました。


いろいろな部門のパートさんに挨拶をしましたが、

とにかく覚えられません。

もともと人の顔と名前を覚えるのが下手です。

でもみなさん名札をつけてるのでなんとかなりそうです。

それにしても

そこで働いている人たちのことって、なんとなくしか覚えていないもんです。


レジさんに挨拶したときのことです。

「さくらえびさんっていうんだ~、ちょこちょこ来てたの覚えてるよ!」

「え!そうなんですか?」

「うん、最初は小さい赤ちゃん連れてたでしょう?」

びっくりしました。

お店側の人は結構お客さんの顔、覚えるもんだそうで。

覚えてもらって嬉しかった以上に

「さくらえびさん、穏やかそうな人だなって思ってたから

きてくれてなんか嬉しいなあ」

オカさんと言いました。その一言でオカさんが好きになりました。

単純なんです。

歓迎してくれる人がいるって思うだけで

不安がちょっと減りました。


さていよいよデイリーへ。

そこでは

ちょっと小さめの、ちょっとふくよかな

私より年配の女性が待っていました。

デイリーのマネージャーです。

見た感じはほんわりしたおばさま

にこにこしながらの挨拶を交わし

他のデイリーで働くパートさんを紹介してくれました。


身長162cmの私と同じくらいですらっとした細身のハセさん

ちゃきちゃきした感じの私服はお洒落そうなイケさん

二人とも私と同じ昼までのパートさんです。

この人達と一緒にお仕事するんだなあと

ちょっとドキドキ

さあいよいよ仕事を始めようなんですが

開店は10時。

9時に来て1時間で開店までの作業をします。

とにかく忙しそうです。

「さくらえびさんは、とりあえず商品出して」

ダンボールに入った商品を開けて、陳列していきます。


最初は出し終わった箱のつぶし方すらよくわからず

そばで作業していたハセさんに手取り足取り教えてもらいました。

忙しい中でいちいちハセさんの手を止めさせちゃうのが

申し訳なくって

「すみません、ありがとうございます。」

を、連発していたら

ハセさんが笑って

「いやあねぇ、さくらえびさん、最初はわかんなくって当然じゃない

そんなに恐縮しなくっていいのよ~」


社会人になってというか

40年ちょい生きてきて

ハセさんの言葉に

泣きそうになりました。

そりゃもう緊張していたんです。


その日私が出した商品はシュークリームやプリン、タルトなんかの

デザートでした。

ショートケーキなんて恐る・・

シュークリームの箱を開けると

ふんわりカスタードの甘い香りが漂います。


並べるときは

新しい日付は奥に入れて

古い日付のものは手前におくことを教わりました。

並べながら

買うときって・・後ろの新しいのを取ってるなあ

なんて思いながらていねいに並べました。


開店すると

今度はハセさんに教えてもらって

値下げの作業です。

夕方とか閉店間際に張ってある値下げシールを

ここでは朝からしていきます。


ラベル(値札)を付けるラベラーという機械で

値下げをする商品にラベルをつけて

値下げシールを出すために

値下げ機も使います。

「結構機械を使うよ。覚えていこうね」

ハセさんが言います

ハセさんがラベラーを使うと

リズムよく商品にラベルが付いていきます。

私がやると

まずうまくラベルも出せない。

「コツだからね!」

とハセさん


初めてだから

もったもたで焦る私に

ハセさんは終始こんなの覚えれば

全然たいした作業じゃないよって

励ましてくれました。


今思っても

ハセさんがいなかったら

とっくに辞めてたんだろうなあと思います。


この二つの作業で

初日の私はいっぱいいっぱい。


店内で作業していて

「いらっしゃいませ」

を言う余裕すらなかったのを

覚えてます。


家に帰ったら

ものすごく疲れていましたが

仕事したんだ!

その嬉しさのほうが大きかったのでした。










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