5話 宮殿にて
「報告はまだか!」
フェルザン大公カルディス二世は苛立ちを隠せない。
それもそのはず、公国の元首である彼への報告よりも、首相記者会見の方が前になってしまったのだから、「順番が逆ではないか!」と憤るのは当然だ。
首相官邸にほど近い大公宮殿で、いらいらしながら報告を待つカルディス二世の元へようやく首相が訪れたのは、記者会見から二時間後の、午後二時のことであった。
「遅いぞマルティ!」
大公の叱責が飛ぶ。
「申し訳ございません殿下!新聞その他メディアからの強い要望がございましたので、記者会見の方を、先にさせていただきました!」
いくら首相とはいっても、大公の前では平身低頭、身を小さくしてただひたすらに許しを乞わねばならない身である。
ひとしきり叱責を受けた後で、ようやく今回の魔王襲撃に対する正式な報告が行われた。大公は死者がいなかったことに、笑顔を見せながら国の元首らしい調子で
「死んだ者がいなかったのは、ひとまず良かった。今後とも事態の収拾に努め、再度このようなことがないようにせよ」
とマルティに指示した。
その後今後のについての通り一遍の指示が大公から出され、首相が宮殿から辞去しようとした、その時だった。
「おい、今日のわが国の人口はどうなってる!50万人へはあとどれぐらいで到達できるのだ?」
大公の急な質問に、首相は完全に困惑気味だ。
「殿下、このような時にそのお話はちょっと……一応非常事態ですよ?」
大公が首相に早く会いたがっていたのは、表向きは魔王の襲撃報告を受けたい、ということだったが、実際のところは、公国の人口が気になって仕方なかったのだ。
では、大公は国の人口をそんなに気にするのか。それはこの国の成り立ちが関係している。
このフェルザン公国は、およそ150年前に、ウタレシア大陸の北部を領有していた大帝国、旧ロムジャ帝国が解体された際に独立した、まことに小さな国である。当時の人口は24万人。同時に独立した国々の中でも、最小規模だった。
当初、王国としての独立を希望していた初代大公アレクタ一世だったが、あまりに小規模であったため、旧ロムジャ帝室や、その他の国々から認められず、やむなく格下の公国として出発したという経緯がある。
その際に、同時に独立した国々で、王国を名乗ることができたのが50万人以上の人口を有する国々だけだったので、フェルザン公国人口の50万人達成と王国への昇格は、歴代君主の悲願となったのだ。
「一刻も早く、私を国王に、わが国を王国に昇格させるのだ!頼んだぞマルティよ!」
「かしこまりました!」
こんなやりとりが、マルティが首相に就任してからずっと続いているのだから、マルティにとっては堪らない。それだけに、今回の襲撃で死者が出なくてよかった……という安堵も一入だ。もし死者が出ていたら、国の人口が減るからである。
閑話休題、フェルザン公国がついに魔王の襲撃を受けた!というニュースは国際社会にも当然いち早く発信され、無線通信や、新聞等々のメディアでも伝えられた。
そしてこの重大ニュースを受けた国際社会の反応は一貫したものであった。
「え?フェルザンってどこ?」
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