2話 フェルザン公国北部振興局にて
前回述べた内務省の2人、サストラとティルタの二人の苦労についてはおいおい語るとして、今回はそもそものきっかけとなった「魔王軍」がいかにしてフェルザン公国を脅かすに至ったかの経緯について触れておきたい。
今から約15年前、公国暦134年(世界統一暦398年)の夏の終わり、北方のウタレシア大陸と南方のスラタリカ大陸の間にある小さな島に突如、「魔王」とその配下たちが出現した。
彼らが住み付いた島は自然発生的に「魔王島」と呼ばれ、ここが彼らの拠点となった。各国の自称ジャーナリストたちは限界ギリギリまで島に近づいて、「魔王」達の姿を収めようと、発明されたばかりの写真機を構えて躍起になっていた。
粘り強い取材が実ったか、記者の一人が運よく魔王の姿を激写することに成功した。やはりその姿は大方の予想通り、ぎょろっとした眼に人間離れした青白い肌、そして普通の人間より明らかに逞しい体躯と、いかにも「魔王」らしいものであった。
しかし、派手に出現した割には、彼らの動きは非常に地味なものであった。周囲の小さな無人島に少しずつ拠点を広げる他は特にこれといった動きもなく、魔王軍とされる配下の魔物たちも、いつも変わり映えしない顔ぶれで、少しずつ記者たちの興味は他のものへと移っていった。
ところが、彼らが出現してから10年後の公国暦144年(世界統一暦408年)の春、彼らは前触れもなく突然スラタリカ大陸北部地帯への侵攻を開始した。
スラタリカ大陸の北部はほとんど砂漠で、貧しい国々ばかりで構成された地域だったため、国際社会の動きは鈍く、その年の暮れには大陸の三分の一が、魔王軍の手に落ちてしまった。
スラタリカ大陸の侵攻後、魔王軍は再び不気味な沈黙を続けていたが、その後も徐々にスラタリカ大陸の東にあるオストベヌア亜大陸や、ウタレシア大陸の西にあるヴェラレノ大陸に散発的な侵攻を続けていた。
しかし、公国暦146年(世界統一暦410年)、これまで北方のウタレシア大陸には全く手を出すことのなかった魔王軍が、突如大陸南部にある中進国スラタスタンの小さな港町、スラタポルタへと侵攻を開始したのである。
ウタレシア大陸は、世界で最も大きな大陸にして、最も豊かな国々がひしめき合う、いわば世界の表舞台といってもいい場所である。これまで他の大陸の貧しい国々が侵攻されていても、文字通り対岸の火事だったが、この事件を期に各国の動きは一気にあわただしくなる。
ウタレシア大陸の最大国家パルタマ共和国では、これを受けて多国籍軍を結成、魔王軍が一時占領したスラタポルタを解放したことにより、ようやく世界を挙げて、魔王軍の排除へと動きだしていった。
そんな矢先の公国暦147年(世界統一暦411年)11月23日早朝、フェルザン公国北部にある出先機関、北部振興局から、首都フェルザリーノにある内務省へ向けて至急の電文が発出された。
”公国北部振興局発、内務省危機管理局宛。昨夜何者による襲撃あり、ケガ人多数。現在は襲撃は収束しており、これ以上被害の拡大はない模様。なお近隣では爆発音が連続して発生しており、国民への被害状況は現在調査中”
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