フェルザン公国ただいま勇者募集中

虎尾伴内

1話 宮廷前広場にて

 公国暦149年(世界統一暦413年)6月4日の朝、北方のウタレシア大陸に位置する小国、フェルザン公国首都、フェルザリーナ市中心部にある宮廷前広場には、数十人もの若者が集まっていた。

「これより、フェルザン公国を代表する『勇者』の試験、および面接を行う!受験番号1番から30番までは右のテントへ、31番から53番までは左のテントで受付を行うこと!」

 公国政府の試験担当者の呼びかけに従い、53名の勇者志願者たちがぞろぞろと左右のテントへと別れて入っていった。


 志願者達がテントへ吸い込まれるのとほぼ同時に、先ほどまで威勢のいい声で志願者たちを捌いていた担当者の男が、あくびが混じった愚痴をこぼす。

「それにしても、どうしてこんな事のために、休日潰さないといけファ~……」

「愚痴くらい最後まで言えよ。ま、今朝は早かったが、昼までには片付く仕事だぜ。明日は代休もらったし、午後から二人で飲み行こうぜ!」

 同僚の担当者が務めて明るく慰めるものの、彼の顔は浮かないままだ。

「大体さぁ、俺未だにこの件は国防軍の担当だって思ってっからね?それをあいつらうまいこと逃げやがって……」

 さっきから仏頂面で愚痴るのは、フェルザン公国の危機管理部門を所管する内務省の若手職員、サストラ・ロンバルド。そして彼を宥めているのは同僚にしてサストラの親友、ティルタ・メラート、共にまだ二十五歳だ。彼らは内務省危機対策局に勤務し、国内で発生した災害や事故、そして魔王軍の襲撃といった事態に、日々対処している。とはいっても彼らはあくまで事務方にすぎず、国内の被害状況をとりまとめて上司に報告するような、地味な仕事がメインだ。


 そんなサストラとティルタが担当する勇者の募集試験が決定したのはおよそ半年前、つまり公国暦148年の暮れも押し迫った時期のことだった。

 二年ほど前から頻発する「魔王軍」の襲撃には、これまで義勇軍的に現れた民間の「勇者」たちが、散発的に魔王に立ち向かっては命を散らすという事件が続き、国としては有効な対策をとれないままであった。

 また一方で、勇者を騙る輩が寄付を募ってそのままドロン……という「勇者詐欺」や、民間勇者の一部が暴徒化して強盗を働く「勇者強盗」も続出していた。

 こうした状況を問題視する公国議会が昨年秋に行った、大公に対する要望決議により、政府はこの度、国として公式に勇者を募集し、魔王討伐へ向かわせることを余儀なくされたのである。


 しかし、フェルザン公国には警察、軍はあっても、「勇者」というものを募集した経験はない。そこで周辺各国や、国内の類似事例をあたりながら、どうにかして募集に漕ぎつけたのである。この前代未聞の「勇者試験」の業務を実際に担当したのが、広場で駄弁っているサストラとティルタの二人だった、というわけである。


 この物語は、この二人が担当者として勇者を募集するまでの経緯を主に描くため、一般的に期待されるような勇者の成長物語であるとか、そういった類の話は残念ながら一切出てこない。

 しかし、あなたがかつてどこかの世界で「勇者」だった頃、旅立つ時に与えられた装備品が、思ったよりも貧弱で不満だ、という思いが少しでも残っているのならば、この話はその不満を少し、和らげてくれるかもしれない。

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