第13話:少年はソレを我慢することができない


『なぜ魔王に対し国の軍を動かしたりせず、勇者とその仲間数名を差し向けるのか』


 国民的な王道ファンタジーRPGをやって、誰もが一度は抱いた疑問だろう。

 魔王が勇者でなければ決して倒せない存在であるなど、理由付けは作品により様々。

 このグレートヴィナス島では、魔物こそが原因だった。


 人間領と、魔族ことダークの民が暮らすネビュラの森。その間に横たわる《飢餓の荒野》を、かつてマーデガイン王国は最新の魔導兵器による大軍で踏破しようとした。

 結果、夥しい数の魔物に襲われて王国軍は全滅。

 その後も三度の踏破を試み、一つの事実が浮かび上がった。

 魔物は魔導科学の原動力、魔力結晶のエネルギーに引き寄せられる習性があるのだ。


 大量かつ高エネルギーの魔導兵器を持ちだすほど、その戦力を遥かに上回る数で魔物が発生する。汚染された大地が広がる飢餓の荒野では、迂回する余地もない。戦闘の手段も魔導科学に依存した人類にとっては致命的な問題となった。

 そこで人類は魔導科学に頼らず強大な力、それこそ単騎で魔族領を突破し魔王を倒せるような力の持ち主として、女神が遣わす勇者を求めたのだ。


 大地を自在に潜行する特性を持つ魔物は、いかなる障害にも阻まれず王都にまで出没する。そして物理的な破壊活動に留まらず、環境の汚染にそこから発生する疫病など、多くの施設や人々に被害をもたらしていた。

 この魔族の尖兵である魔物の被害こそ、人類が魔族を憎悪する直接的な要因なのだ。







「また久しぶりに現れましたね。しかしこれは……」

「なんか凄い大きいんだけどー!?」


 しかし今、その魔物が魔族と呼ばれる二人の存在にも構わず襲いかかってきていた。

 闇夜こそ似つかわしいであろうおぞましい姿を、穏やかな午後の日差しの下でもなんら憚ることなく、魔物はこちらを踏み潰そうと前足を上げる。その動きは顔を除いて象に似た巨体の見かけ通りに鈍重だ。

 それでもフレイたちが大袈裟なくらいに魔物から距離を取ったのは、触れられただけで十分に致命傷となるためだった。


 この島でいう《魔物》は、ネビュラの森に住まうモンスターとは完全に別の存在だ。

 そもそも、厳密には生物ですらない。

 汚染された土塊の身体に汚濁の血流が巡る、さしずめゴーレムのゾンビとでも呼ぶべき姿。生物のような振る舞いを見せても、自我や意思があるわけではない。害獣というより、むしろ津波や竜巻といった自然災害の類に近い存在なのだ。


 その汚染された身体に触れられただけで、猛毒の汚染物質が全身を蝕む。やがて不治の疫病を発症し、最悪死に至る。


(まずいぞ、こんな大型の魔物なんて初めて見た!)


 フレイが知る魔物はせいぜい猟犬ほど、大きくても獅子などの大型肉食獣くらいだ。

 身体の大きさは攻撃範囲の広さに比例する。それだけで危険度もフレイが戦ってきた魔物とは比べ物にならない。


「ミクス、こいつらは――!」

「わかっています。戦うのは初めてではありませんから」


 冷静なミクスの発言に、フレイの胸がズキリと傷む。

 それはここで暮らすうち、自分の中で膨らみ続けた疑念を決定づけるものだったからだ。


「【集中しなさい!】【ダークを全身に展開!】」

「お、応っ!」


 真言による一喝は、余計な思考に囚われかけたフレイの頭をガツンと打ち据えた。

 我に返ったフレイもミクスとリオに続き、《闇》を纏って全身を漆黒に燃やす。

 すると、魔物はこちらを見下ろしていた頭を上げ、なにかを探すように首を巡らした。


「俺たちを見失った?」

「魔物は魔導科学のエネルギーの次に、生物の体温やマナに引かれる習性があります。だから熱を喰らう《ダーク》に包まれた私たちの体温やマナは、魔物から見て感知できなくなるんです。目のような穴が二つ空いてても、視覚があるわけではありませんからね」

「でもこいつ、ほっといたら村に向かっちゃうよ?」


 リオの言う通り、魔物は既に村の方角へと視線? を定めていた。

 村に入られただけで、汚染物質が村に甚大な被害を撒き散らす。

 となれば、選択肢は一つだ。今ここで魔物を駆除するしかない。


「いつものように、リオは炎で注意を引いてください。私が魔術で動きを止めて、一気に《核》を撃ち抜きます。フレイは魔術を構築する間、私を魔物の泥から守ってください」

「わかった。気をつけろよ、リオ!」

「どっちもりょーかい! ……あの臭いに近づくのはすごーく嫌だけど」


 さらに距離を取ってミクスが杖を掲げ、その前にフレイが盾を構えて立つ。

 そしてリオは半獣半狼に変異すると、魔物に向かって疾走した。

 漲るようなリオの魔力を感知し、魔物が動き出す。

 本物の象と違って耳も鼻も牙もない魔物の攻撃手段は、せいぜい前足の踏みつけや鈍い足取りでの体当たりくらいのもの。

 しかし本体は勿論、飛び散る土や泥に触れただけでアウトだ。

 それでもリオの表情に、不安や迷いは微塵ない。


「アハハハハハハ! 当たらないよーっだ!」


 飛び散る泥を高速のステップで掻い潜り、炎を帯びた爪で魔物の足を引っかく。

 深々と爪痕で魔物の足が抉られるが、すぐ元通りに塞がった。土塊で作られた身体に、表面を削るだけの攻撃は無意味だ。リオも炎と《闇》で汚染物質から守られているとはいえ、これではキリがない。


 魔物の活動を停止させるには、汚染物質が結晶化した《核》を破壊する必要がある。その核も生物の内臓と違い、収まっている個所は個体ごとにランダムだ。

 だからこそリオは闘争心を抑えて陽動に徹し、ミクスが魔物を討つための魔術を構築する。


 魔術を構築する魔力は魔物に感知されるが、魔物はより近くで、かつ高温を放つリオを優先して襲う。敵の意図を察したり、どちらを優先的に排除するべきかを判断したりするような意志が、命無き土塊である魔物にはない。


「【流れろ、水よ】【吹き荒べ、風よ】」


 ミクスの口から、意志の力を乗せて紡がれる真言。

 それにまず呼応したのは、ミクスが腰から下げた水筒だった。

 蓋がひとりでに外れ、中身の水が宙に浮かび上がる。

 水の塊は空気中の水分を取り込んで体積を増していき、さらに水の塊を取り囲むように風が吹き荒れた。


 ――少なくとも、ダークの民が用いる魔術は、無から有を生み出すような代物ではない。

 元々そこに在るモノの力を増幅させたり、力の方向性を操作したりする術なのだ。

 だから火の魔術を操るにはマッチほどでいいから火種がいるし、水の魔術を使うならミクスのように、水筒などである程度の水を持ち歩く必要がある。魔力を注ぐことで火や水を大きくし、指向性を与えることで攻撃手段に昇華するのだ。

 空気中の水分で一から……という手もあるにはあるが、そういった域の芸当は高位の魔術師レベルの魔力がないと難しいらしい。


「【凍れ】【凍れ】【冷やせ】【凍てつけ】【風は熱を奪い】【水の流れは停止する】【生じるは氷】【宿すは吹雪】【形作るは一条の矢】【吹雪く風は冷たく】【冷たく】【炎も凍えるほどに】【矢の切っ先は鋭く】【鋭く】【鋭利に】【鋭角に】【鋼を貫くほどに】【氷は密度を増す】【固く】【固く】【固く】【鋼に等しくなるほどに】――」


 真言は紡いだ言葉の通りに事象を操る。

 それは言い換えれば、「言葉にしなければその通りに操れない」ということだ。

 故に真言を用いた魔術の詠唱は、ただ大仰なだけの詩の一文では到底足りず、より直接的な言葉の積み重ねを要する。

 とはいえ、ただ同じ言葉を連呼すれば単純に効果が上がるものでもない。


 たとえば今、ミクスが詠唱しているのは氷の矢で攻撃する魔法。

 水筒から取り出し増幅させた水に【凍れ】と二回重ねて命じた後、【冷やせ】【凍てつけ】など同じ意味の言葉を違う言い回しで重ねた。さらに【風は熱を奪い】【水の流れは停止する】と結果的に凍結を早める命令を二つ追加。こうして命令の言い回しや過程を変えることで、真言を効率的に重複させ、効果を高めることが可能なのだ。

 これに後半の【炎も凍えるほどに】【鋼を貫くほどに】【鋼に等しくなるほどに】といった形容も交えることで、魔術はより高位の域に達する。


 要は小説や詩と同じだ。万物共通言語の真言といえども、単調な言葉では事象を動かせない。起こしたい事象のイメージを、働きかける対象という読者へより明確に伝えるための言葉を尽くすこと。それが真言を用いた魔術の要点なのである。


「【射抜け、《氷結の矢》!】」


 そして構築完了を示す真言で締めくくられ、ミクスの魔術はその力を解き放つ。

 完成した氷の矢が風を切り、一直線に魔物の窪んだ両眼の間に突き刺さった。

 リオの爪と同様、数センチ抉っただけの損傷など、魔物にはなんのダメージにもならない。

 しかし――


「【爆ぜよ】」


 ミクスが真言で告げると同時、矢が弾け、中から溢れ出した冷気が魔物を包み込む。

 汚濁で湿った土塊の身体はたちまち凍りつき、魔物の動きを完全に封殺した。

【宿すは吹雪】【吹雪く風は冷たく】【冷たく】【炎も凍えるほどに】

 これらの真言が、氷の矢に極低温の冷気を内包させていたのだ。


「凄いな……」

「構築に時間がかかる分、こうして言葉の選びようでいくらでも状況に応じた調整が利くのが、真言魔術の強みですからね」


 後は核の場所を特定して破壊すれば終わりだが、この巨体に直接触れず、核だけを破壊するのは骨が折れそうだ。

 そうフレイが頭を掻くと、ミクスはなんてことないように言う。


「ここは私に任せなさい。風魔術の応用で魔物の体内に音を流し込めば、その反響で核の位置を特定できます。できればもう少し場所を変えて破壊したいところですが、この大きさではしょうがないですね」


 核を破壊された魔物はただの土塊に還るが、汚染はそのままだ。

 朽ちた大地にはこれから先何十年経とうと、草花が芽吹くことはない。

 枯れたツキメグリの花を見つめる、ミクスの悲しげな瞳に、フレイはかけられる言葉もなく視線を背けた。


「なんでもいいから、早く壊しちゃおうよー。もう臭くて臭くて――え!? ちょ、嘘っ。この臭いって……!」


 鼻をグニグニ摘まんでいたリオが、突然ぎょっとした顔で叫んだ。

 次いでフレイの鼻が感じたのは、奇妙な臭いの変化。

 悪臭に変わりはないのだが魔物のそれに、なにか別の臭いが混じっていた。

 新たに混じった臭いに、やはりフレイは覚えがあった。おそらくミクスとリオにも。

 これは――人間の死臭だ。


「ミ……グ、ズゥゥ……」

「なっ!?」


 声帯など持たないはずの氷漬けになった魔物が、声を発した。

 それもくぐもってはいるが、確かにミクスの名を呼んで。

 なぜと疑問を抱く間もなく事態は急変する。


 魔物を覆う氷に亀裂が走り、氷を突き破って魔物の身体が膨れ上がる。

 死肉だ。朽ちた土塊の下から、腐ってグズグズに崩れかかった生物の肉塊が溢れ出て、魔物の体積を増やしていく。よりおぞましさを増した身体は象より熊に近いモノへ体形を変え、手足には爪が、大きく裂けた口には牙が生えた。

 そして頭部にねじれた双角と、最後に浮かび上がったのは人間の顔。


 目鼻の配置が崩れつつも、かろうじて人間の体を保ったその顔は、フレイたち三人がよく知る人物のそれだった。


「バルゴス……!?」

「ミクス、危ない!」

「ミィィグゥゥズウウウウ!」


 咄嗟にミクスを突き飛ばしたフレイに、魔物の角が激突する。

 ねじれ曲がっているため先端が刺さりこそしなかったが、衝撃がフレイの臓腑まで震わした。


「が、はっ」

「フレイ!」

「グギョオオアアアア!」


 魔物はフレイを角で持ち上げたまま、森の中を走り出す。

 突進で折られた木々が一瞬で枯れ、踏み荒らした大地が真っ黒に朽ちる。

 何度も木や岩に叩きつけられたフレイは、やがて開けた場所に放り出された。

 そこはバルゴスの罠でディノガーに襲われた、そしてフレイに宿る邪悪なソウルが最初に目覚めた場所だった。あのときより新しい破壊の跡がいくつも刻まれ、北の方角には魔物が通ってきたと思しき朽ちた大地が広がっている。

 遮る木々もなく日の光で曝け出された惨状に、フレイは言葉を失う。


「テメエの……せいだああああ!」


 そこに、死んだ土塊と人肉の入り交じった巨腕が襲いかかった。

 素早く飛び退いて爪を躱すが、抉られた土砂がわずかに触れただけで竜の鎧が煙を上げる。鋼も弾く竜の鱗が、甲殻が、土砂の汚染物質に蝕まれ溶けかかったのだ。

 ダークによるマナや体温の隠蔽も、肉眼を持つこのバケモノには通じていない。

 そもそも、バルゴスの顔を浮かび上がらせたコレは一体なんなのか。


「テメエのせいでオレはオレはオレは! クソ! クソ! ディノガーが、あのクソトカゲ野郎が……オレの腕を、腕をっ。そこに魔物まで出てきやがって……俺の身体が、カラダが……からだガガガガ!」


 瞳に正気と狂気の色を明滅させながら、錯乱したようにバケモノは腕を無茶苦茶に振り回す。

 いつの間にか《闇》を腕に帯びているが、それもダークの民が本来纏うものとは色合いがまるで異なっていた。本来のものが《炎》だとすれば、この怪物が纏うのはさしずめ《泥》。滴るような粘度と、漆黒には程遠い濁り切った黒さの汚泥だ。

 しかし《闇》にせよ、喚き散らす発言にせよ、信じがたいことだが、これは魔物と同化したバルゴスに相違ないようだ。


 バルゴスに下された罰は《贄刑》……モンスターの縄張りに装備なしの状態で拘束され、置き去りにされる。言葉の通りにモンスターの生贄となる刑だ。万が一生き延びれば、森からは追放となるもののそれ以上の責は問われない。尤も、かつて成功した者はいないそうだ。

 バルゴスの場合、フレイが仕留めたディノガーのつがいが現れる可能性を考え、割れた卵とディノガーの痕跡が残るここに放置されたのだ。


 そして案の定つがいのディノガーが現れ、バルゴスはまず腕を千切られた。

 さらにそこへ魔物が、おそらくはディノガーの強大なマナに引かれて出現したのだろう。

 汚染物質の塊である魔物と戦う意味がなく、ディノガーが退散したのもわかる。

 わからないのは、なぜバルゴスが魔物と同化してしまったのかだ。

 王国でも、魔物がこんな風に他の生物と同化する現象など聞いたことがない。


「てめえのせいだ! そうだ! 全部、ゼンブッ、全部テメエのせいだ!」

「こ、の……!」


 汚染物質の身体へうかつに剣を向けることもできず、フレイは攻めあぐねる。

 あくまで土塊の魔物にはない膂力で振るわれる巨腕に、ひたすらの回避を強いられた。


「俺がこんな姿になってるのも、元はといえば……“テメエら王国が作った魔物”のセイでええええ!」

「っ! ――ゴハッ!」


 しかし無視できない言葉に、足が縫い付けられたように止まってしまう。

 そこへすかさず襲いかかったバルゴスの右手が、フレイを踏み潰した。

 仰向けに身体が地面に埋まり、凄まじい圧力に鎧がミシミシと悲鳴を上げる。さらに汚染物質が鎧と、鎧の隙間から生身の部分を蝕み始めた。

 無数の寄生虫にじわじわと肉を食い千切られる激痛。そして本当に食われたかのように、蝕まれて黒ずんだ箇所の感覚が欠けていく。


「が、あ、ああああ!」


 おぞましい喪失感に悲鳴を上げるフレイ。

 それを見下ろしながら、バルゴスが思い出に浸るような陶酔した声を零す。


「ああ……あの頃はヨカッタ。俺は村一番の戦士だった。誰もが俺に感謝して、媚びへつらって……。なんでもやりたい放題だった。こうして役立たずのゴミをいたぶるのも、柔らかいメス肉をヒイヒイよがり鳴かせるのも、とってもとってもタノシカッタナア……。それなのに、それなのにヨオオオオ!」


 ブツン。


 電源を切るように突然、身体を襲う激痛も、バルゴスの汚い喚き声も気にならなくなった。

 フレイの目に、覚えのないバルゴスの姿や顔が、いくつも今のバルゴスに重なって見える。


「村の連中め! ちょっと四人や五人コロシタくらいで、俺を追放しやがって! 新しい村のジジイどもめ! この俺に偉そうな口で指図しやがって! どいつもこいつも、俺をコケニシヤガッテエエエエ!」


 ――拳を振りかざし、蹴りを飛ばし、自分を見下ろして嘲笑うバルゴス。

 ――自分を地面に組み敷き、怖気の走る顔で舌なめずりするバルゴス。

 ――モンスターの巣穴に突き落とし、食われる自分を見世物のように眺めるバルゴス。


 おぞましい光景。おぞましい感覚。おぞましい記憶が、フレイの中で溢れ出す。


「オレが一番獲物を狩ってんだ! 俺がイチバンてめえらを食わせてやってんだ! だから俺が一番凄いんだ! 偉いんだ! 特別なんだ! だから俺がザコどもをどう使おうが、女どもをどう使おうが、俺の自由ジャネエカ! それなのに、それなのによくも!」


 ブツン。ブツン。ブツン。

 ベキャッ。

 理性。常識。道徳。人間がそう呼ぶ心の鎖が千切れ飛ぶ。

 粉々に砕けた心の底から、黒く醜い激情が堰を切って噴き出した。


「俺に刃向かいやがって! 逆らいやがって! 見下しやがって! 俺はジャクシャなんかじゃねえ! 俺はオロカモノなんかじゃねえ! 俺の、オレの思い通りにならねえヤツなんか、ミンナシンジマエエエエエエエエ!」


 フレイを握り潰そうと、バルゴスが右手に力を込める。

 その手が、炎に呑まれて消し飛んだ。

 爆発ではない。音もなく生じた血色の炎が、灰も残さず土塊と死肉の腕を一瞬で焼き尽くしたのだ。空間ごと削り取られたかのような右腕の傷痕は、ディノガーの致命傷となった胸の風穴と同じモノだった。


「【――結局のところ、その五歳児以下の幼稚な傲慢さがお前の本性ってわけだ】」


 それほどの炎にバルゴスの右手ごと巻き込まれながら、フレイは炎の中より平然と姿を現す。

 ディノガーを惨殺したときと同じく、その半身を黒殻に覆われた赫炎と化して。


「アギ!? あ、ぎっ、ぎゃああああ!」

「【ありがとう。これで俺は、心の底から愉快な気分でお前を嬲り殺せる】」


 左の眼窩より炎を迸らせながら、黒殻に覆われた顔でフレイは邪悪に嗤った。


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