『父と子』他数編
一編さんは、凄まじい速さで執筆していく。
検閲さんも、凄まじい勢いで検閲していく。
「はい出来た」
「検閲」
「出来た」
「ほぉ~」
「ほい出来た」
「検閲」
「出来ました」
「ふーむ」
「はいどうぞ」
『父と子』
【単身赴任直前。
「これから暫くはこれをお父さんだと思って遊ぶんだ。大切にするんだぞお?」
彼がそう言って私に渡したのはヒーローの剣のおもちゃでした。お父さん、か。
「分かったよ、これがお父さんなんだね。でも・・・」
「そうだな。寂しいよな。お父さん、頑張ってすぐ帰って来れるようにするから」
彼は嬉しそうに答えます。
「そうじゃなくて、もっと薄くて四角くて顔と数字がかいてあるお父さんが何人か欲しいな!そしたら寂しくないよ!」
彼は黙って私に三人のお父さんをくれました。これで色んなお父さんが買えます。お父さんが居て良かった。】
「ブラックですね。検閲」
「はーい書けた」
「検閲」
「これでどうだ!」
「先生、先生の字は汚くて読み辛いです。楔形文字ですか」
「違うよ、別に文字が繋がってたりしてないだろ」
「・・・先生、もしかして楔と鎖を間違えてます?」
「違うの?鎖型文字がなまって楔形文字になっ・・・」
「鎖型文字などありません。良いですか?楔というのは、物を割ったり、物と物が離れないように圧迫する為の主にVの字ないし三角形の道具です!ちょうどこんな感じです!」
検閲さん、短剣を抜いて机の紙に刺す。
「検閲」
「まだ途中なのに。検閲ってさ、何でその剣で行う必要があるわけ?」
「これは権力の象徴なんです。剣とはその昔高価で貴重な物でしたからね。ですから、私はこの剣を以て検閲する権力を与えられたという訳です」
「出来た」
「検閲」
「はい」
「まあ、良いでしょう。先生、床掃除しましょうか」
「別にいいよ、戒めだ戒め、もう検閲されない為の。はいできた」
『馬と貴族』
【とある貴族が乗馬を楽しむ為、従者に馬の躾をさせていました。
従者はかつて流鏑馬の選手で、馬の扱いには慣れていたのです。
ある時貴族が美女を見つけると、良い所を見せたいが為に、まだ躾の終わっていない馬に乗ってしまいました。馬は暴れて貴族を振り落とし、従者の元へと走りました。
怒った貴族は従者に馬の処分を命じました。従者は泣きながら弓で射止めました。従者は馬を埋葬し、弓矢を墓標としました。
しかし、いつの間にか弓矢と馬は掘り返されていました。
「馬の肉は旨いだろ?」
「馬の肉は旨いわね」】
「検閲。戒めになってないでしょ」
「出来たよ」
「検閲」
「あらよっと」
「検閲」
「もいっちょ」
「検閲」
「あどした」
「・・・」
『くるしたのし』
【「ああ、苦しい」
「ああ、凄い血だ」
「どなたです?私は目をやられているんだ」
「私はただの通りすがりだ。医者を呼んでこようか」
「止めて下さい。私はもう駄目だ」
「ではせめて、私に殺させて下さい。それ以上苦しむ姿を見ていられない」
「それは駄目だ。私は苦しむことが楽しいのだ。それにもう、この国は負けた。今殺せば、あなたは唯の人殺しになってしまう」
「ちっ、何だもう勝っちまったのか。お前殺して手柄にしようと思ったのによ。じゃあこの剣だけもらっていくぜ。せいぜい苦しんで、いや楽しんで死んでいくんだな」
「ああ、楽しいいなああ。・・・はあ、楽しかった」】
「ほお」
「あれ、検閲しないの?人死ぬよ、殺しそうだったよ」
「検閲対象外です。これは戦争の話ですよね?戦争で人を殺すのは当たり前です」
「へえ。戦争なら殺していいんだ」
「お国の為に戦っているのです。死ぬのも殺すことも、尊い事です」
「結局「お国」なんだな」
「何ですか」
「出来たんだな」
「検閲」
「はい」
「検閲」
「はい」
「はい」
「ピーン!はい」
「検閲」
「はいポーン!」
「検閲」
「プンプン」
「検閲」
「あっ(ペン落とす)。ペン」
「はい、どうぞ」
「はい、『パン』」
「・・・パン?・・・これは食物を粗末にしています。それにいじめ教唆です。検閲」
「・・・そうですか」
「検閲」
「検閲」
「はいはい」
「検閲。検閲。検閲。・・・」
作品の数々は検閲されたか否かに関わらず、机や床の上に散らばっていた。
まあほとんどが検閲対象であり大きく赤い×印がかなりの確率で見て取れる。
足の踏み場も無くなっていくのは時間の問題である。
続く。
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