第4話 路地裏の不審人物
ーギルド 受付ー
「クエストの報告ですね? では冒険者カードと使用した武器を提出してください」
「武器?」
受付の人の言葉に首をかしげる俺。無事に初クエストを終えた俺達はギルドに戻ってそれを報告に来ていたのだが……
何故だ?と後ろのセレスタに聞いてみると……
「?……そりゃ、殺された生き物が持っていた生命力は殺した本人とその時使ってた武器に移るから……知らなかった?」
「なにそれ知らん」
話を聞くに、ゲームの経験値みたいな物のようだ。そういえばブレークソード物語は敵を倒すと武器のレベルも上がるシステムだったな。武器が魔剣で固定の主人公以外は次の町で新しい武器買った方が強いという残念仕様だったので気にも留めていなかったが。
「なるほど、カードと武器の経験値を見ればちゃんとモンスター狩ってきたかわかるってことか」
……あれ?ちょっと待て。倒すのに使った武器ということはアレか。今俺が手に持っているこの紙を提出するのか。"まず服を脱ぎます"から始まるこの文書を。
「……? どうされましたか?」
「あ、いやその……」
「何やってるの?」
どうしたものかと俺が固まっているとセレスタが俺の手から例の紙を取り上げて自分の杖と一緒に提出してしまった。
案の定、紙を受け取った受付の人が変な顔のままフリーズしている。
「……見たことも無い文字ですね。これは……古代語で書かれた呪文書?」
そして盛大に何かを勘違いした。呪文書と言うのは消費することで一回だけ誰でも特定の魔法が撃てるというアイテムだ。そしてあなたが持ってるソレはただの紙です受付さん。
「そういえばアレ、ただの紙なのは知ってるけど、なんて書いてあるの? 読んだとき何か文句言ってたのは聞こえたけど。もしかして異世界語?」
と、セレスタまで小声でそんな事を言ってくる。
どうやらあの紙は俺にしか読めないらしい。
ということはやはりこの世界で日本語が使われているのではなく、俺が無意識のうちに翻訳しているということか。無断で人の頭に何しやがった女神。いや、おかげで助かってるけど。
と、受付の人が突然素っ頓狂な声を上げた。
「えぇ!? 何ですかこれ! 22体!?」
回りの冒険者達の視線が一気に集まり、あわててペコリと頭を下げた。
「失礼しました。その、こちらの紙による討伐数に驚いてしまって……よほど強力な魔法が込められていたんですね」
どうやら俺とセレスタが話している間に手に持った虫眼鏡みたいな道具で例の紙の経験値を調べていたらしい。うん、紙切れにそんな経験値入ってたらびっくりするよな。
最後にボソリと「店で買ったらいくらするのやら……こんな貴重なもの、なんで雑草に撃ってしまったんだろうこの人」と付け加えた。
俺はそんな大層なものではなくただの紙に過ぎないと分かっているので思わず苦笑いしつつ、
「まあ、明日になればまた撃てますんで……」
と返した。
その瞬間、場の空気が凍りつく。受付の人が何か信じられない事を聞いたような顔のままこっちを見てくる。
「……マジで言ってます?」
「え?……まあ、マジです」
「使い捨てじゃない呪文書なんて聞いたこともないですよ……こんなもの一体どこで?」
あ、余計なこと言ったわ俺。
女神にもらったスキルは冒険者カードに記載されていなかったので、紙じゃなくて俺の力だと言っても信じてはもらえないだろう。
つまりこの紙が"素人でも強力な魔法を毎日撃てるアイテム"という、ものすごい貴重品って事になったわけで(無論、実際はただの紙切れ)……
ー数十分後 人気のない路地ー
「へへへ……命が惜しければ例の呪文書を渡してもらおうか」
「今日はもう使えねえんだろ? 大人しく渡した方がいいと思うぜぇ?」
……こうなる。
無事に雑草どもの討伐の確認がとれて報酬を貰い、安い宿の場所を聞いてから外に出た。
そして宿を目指して歩いていたところをこの暗い路地に俺一人だけ引っ張り込まれたのだ。目の前には布で顔を隠した二人組。受付での会話を盗み聞きしていたのだろう。要求はもちろん例の紙切れだ。
さて、まずいことになった。別にただの紙切れなんぞ渡してもなにも問題はないが素直に応じたところで無事に帰らせてくれるのか微妙なところだ。こいつら、目がヤバい。
……となれば今の俺にできることは一つだ。
「……ククク」
「何がおかしいんだ? てめぇ」
突然笑い出した俺に警戒するようなそぶりを見せる二人組。俺は精一杯、不敵な笑みを取り繕う。セレスタが探してくれていることを祈って時間稼ぎだ。二人に勝てるわけないし逃げきる自信もないからな。
「お前ら、俺が一枚しか呪文書を持ってないと思ってるのか? ……そんなわけないだろ」
大嘘だ。今の俺はザ・一般人。会話してる間は飛びかかるのを待ってくれるかもしれないと思ってとりあえず言ってみただけだ。話題は何だっていい。さてどこまで引き延ばせるか……正直テンパってて自信がない。
「え!? マジかよ……どうする?」
「どうするったってなぁ……あれ? 俺たちヤバくねえか?」
あ、信じちゃうんだ。純粋!
目がヤバいとか思って悪かった。
意外と人のいいらしい二人組は続ける。
「……あんた、俺たちの顔見てないよな?」
「ああ、見てない」
俺がそう答えた瞬間、二人組は背中を見せて走り出す。
「「逃げろおお!!」」
まさかあんなクソ演技に本気で引っかかってくれるとは。助かった。
二人組の姿はあっという間に路地の反対側に消えていき……
「うわあああああああ!」
「どうなってやがんだ!?」
「し、知らねえよ!」
何やら叫びながら戻ってきた。
俺が道をふさぐ格好になってしまったため、何かから逃げるように走ってきた二人は俺の少し前まで来たところで止まる。
そこで二人組の後ろから声が聞こえてきた。
「危ないところでしたね。この人たちは一度立ち去ったふりをして、油断した相手を刺して持ち物を奪っていく卑劣な強盗なんです。見失ったら最後ですよ」
少女の声だ。見れば俺くらいの身長の人影がこちらへ歩いてきていた。
路地が薄暗いせいで顔などはまだ分からない。
二人組が戻ってきたのは逃げた先にこの少女がいたからか。
しかしなるほど、俺のクソ演技に引っかかった訳じゃなかったのか。危うく死ぬところだった。何故そんな回りくどいことをしてるのかは分からんが。
「さてあなたたち。ようやく追い詰めましたよ、おとなしく……」
少女が近づいてくる。陰になっていて分からなかったその姿がよく見えるようになった。俺はその姿を見て絶句する。
「……財布返してください」
少女の胸にはナイフが深々と突き刺さっており、長い銀色の髪と異様に白い肌を血が赤く染めていた。
例えるなら、スプラッター映画に出てくるゾンビみたいだ。
路地裏に男3人分の悲鳴が木霊した。
1日10秒しか勇者になれない俺が魔王の命助けに異世界まで行く羽目に。 コケシK9 @kokeshi-k9
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