仕事観は?

 それでは本題に戻りまして、そこでまずは社会人になってからの繋がりとして仕事観について少し考えてみます。前述した通り僕達の就職活動時期は


「就職氷河期」


と呼ばれ内定一つもらうのに血の滲むような努力をした人が多くいた世代でした。これは直前に起こった「リーマンショック」が大きな原因となっています。とにかく職を得るということ、生きるために働くということを僕達の多くは実感したのではないでしょうか。そんな中で勝ち取った内定。そして就職してしまえば再就職、転職は難しいと言われた時代。僕達は自分に与えられた仕事、与えられた役目を必死でやり抜き、生きるために働くということに躍起になっています。なので簡単に諦めたり、放りだしたり、仕事の手を抜いたりするという人は少ないと思うのです。僕達はよく今でも後輩や新入社員に何か話す機会があればこういう話をします。


「私は就職活動の時何十社、何百社と受け、その度にふるいにかけられ捨てられてきました。しかしこの会社はそんな私を拾ってくれたのです。だからこんな私を拾ってくれた会社に感謝し、一生懸命に尽くそうと決めたのです。」


大体こういう話をするのが目立ちますし、実際同期と新入社員への講演会を行った時も僕を含めほとんどの人がこのような話を織り込んでいました。つまり僕達にとって会社はご主人様であり、何処からも内定をもらえなかった自分を拾ってくれた恩師的存在なのです。だから簡単に辞めようと考えたり、どんなに辛い仕事があってもどんなに酷い仕打ちを受けても今この会社を辞めてしまえば何処に行ったってこんな自分を拾ってくれる会社はない、ここで一生懸命働かなければならないのだというまるで宗教のような感覚にとらわれているのです。

 比べて最近入社してくる人達に多く見られるのが、仕事を簡単に考えている人が目立つということ。


「どうしてこの会社に入社したの。」


という質問をすると多くは、


「なんとなく内定がもらえたから、合わないと思えば辞めればいいかなと思って。とりあえず入社してみた。」


というような答えが帰ってきます。僕たちの世代からすればあり得ないような答えでした。実際僕達の代というのは入社してしばらくは辞めるというよりもせめてあと1年頑張ってみよう、もう少し頑張ってみようと考える人が多く、本当に精神的にも追い込まれてしまった同期はよく突然行方を眩ませて心配をかけるという人が後を絶ちませんでした。これは仕事が本当に合っていない、辛いと思いながらもやはり仕事を「辞める」ということがあり得ない、辞めても行き場がないと思い極限まで追い込まれ、どうしようもなくなって夜逃げしてしまうような人がいたからです。こういう人は同期や僕らあたりの世代では頻繁に起こっていましたが、今の世代の子たちは違って入社して半年もたたないうちに合わないからと会社を辞めてしまう人が目立ってきたのです。

 実際僕と仲の良かった同期も逃げ出した人がいます。その動機達はいずれも鬱病一歩手前まで行き、死を考えた人さえいたほどです。そんなに思い込むなど今の子たちにしたらばかばかしく思えるのかもしれませんが、恐らく仕事に対する重みが違うのではないかとも思っています。あれだけ必死で勝ち取った内定を簡単に捨てられない僕達は、ある意味その呪縛に悩まされているのかもしれません。

 しかし、入社4年は頑張れという言葉の元、転職適齢期も丁度30歳ということで最近になって本気で転職を考える人も周りには出てきています。ようやく呪縛が解かれる頃になったとでもいえばいいのでしょうか。そんな僕も今がそのタイミングかと少し焦っている一人であることは間違いないのですが。

 また、仕事観と言えば僕達の入社した頃は必死で仕事を覚えるのが当たり前、新人尚更提示を過ぎたとしても自ら仕事を覚える為に残ったり、言われた仕事はタイムカードを切ってでも必ず終わらせて帰っていたものでした。特に僕の仕事は職人の技術職なので自ら学ぶために朝は出勤よりもずっと早く、帰りは誰よりも遅くまで残っていたものでした。しかし、僕が初めて後輩を持った時のこと、その子は定時出勤の定時上がりにこだわりました。言われた仕事が終わらなければ、


「終わりませんでした、どうすればいいですか。」


と聞いてきます。


「終わらせなさい、もっとスピードを上げなさい。」


そう言われると僕ならいい返す言葉もなく


「はい。」


と言っていたのですが、今の子なら。


「それは無理なので残業の申請をしてきます。」


と言います。僕はこの時行為も仕事観というものに違いがあるのかと感じました。もちろん全員が全員そうだという訳ではありませんが、僕達の代、そして最近の代にはこのような傾向が目立ちます。

 しかしながら正解は後者です。サービス残業はいけないことだし、出来ない仕事を無理強いすることもよくありません。要は仕事に対する構え方がどうかという問題なのです。僕達の代はストイック過ぎるのでしょうか。

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