就職活動と教育実習ー3

 そしていよいよ迎えた教育実習。僕の担当は1年1組のクラス。生徒達もまだ入学してそんなに経っていない初々しい子たちの揃うクラスでした。もちろん担当範囲も1年生。初日の登校日は懐かしいものでした。さすがに自転車での通学はきつかったので地下鉄で登校し、生徒達よりも早い時間に学校に着きます。久々に上履きというものを履いて校内へ入ると緊張感が高まります。この時一緒に教育実習を受けたのは数名の学生でした。男子は僕の他にもう一人。そして僕は浪人していたこともありその子たちとは学年が違ったのですが、一人だけ同級生の女の子がいました。そんなメンバーで僕たちは与えられた控室で授業準備などを共にします。朝はまず校門挨拶から。登校してくる生徒達を見ているだけでなんだか楽しくなります。生徒指導の先生に混じって僕らも服装や風紀の乱れている生徒には注意をきちんとするよう言われます。そうして校舎に戻るとまずは職員朝礼に出席。僕は1年1組の担任の先生のもとで一緒に出席します。初めに前に立たされて自己紹介をし、いよいよこれから始まるんだという気持ちになったのも覚えています。そうしてやってきたホームルーム。担任の先生と共にクラスへ行った時、ホームルームを任されていたのでこの初めての朝のホームルームはかなり緊張しました。そこで僕は短い間だけれども少しでも生徒のかをと名前を覚えようと教壇から生徒の顔を一人一人見ていました。そんな生徒達もこの頃はまだ「ゆとり教育」真只中だったのではなかったでしょうか。もちろん僕自身そんなこと気にしませんでしたが、やはりゆとり教育という言葉はこのころすでにマイナスイメージが根強くなっていました。

 教育実習はおよそ2週間行われます。朝のホームルームを終えると自分の授業がある人は自分の授業をしにクラスへ。僕も初めて教壇に立った時は緊張そのものでしたし、不安がいっぱいでした。手元には自分の作った資料を置き、自作のプリントで授業を進めていきます。授業が終わると教科担当の先生に指導を貰います。これがまた厳しく、かなり細かいところまで指摘され心が折れそうになるほどでした。同じ授業を何度か行うこともあるのでその度に改善をしていきます。その他ん時間は担当の先生の授業を見に行ったり、他の教育実習生の授業を見に行ったり、自分の授業の準備をしたり、プリントを作ったり、課題のレポートを書いたりとかなりハードでした。お昼休みには自分のクラスへ行って生徒とお昼を一緒に食べさせてもらって話をしたり、時には一緒に遊んでみたり、ホームルームでは丁度あの2年に一度の文化祭に重なっていたのでクラスの出し物の準備を手伝ったり。この時は確かクラスで大きな張り絵か何かを作っていてそれを手伝っていた気がします。後は掃除時間の指導なども行いました。放課後僕は演劇部へ行っていました。たいそうな指導はできませんでしたが、顧問の先生にもきちんと挨拶をし、若干の指導をさせてもらいました。こちらも丁度文化祭に向けての稽古を行っていたのでその舞台の指導をしました。放課後も終わると時間の許す限り空き教室で授業の練習です。この時同級生の女の子と一緒に遅くまで残ってお互いの授業を見てアドバイスをしていました。彼女の方は国語だったので教科も違い、互いが生徒役となって色々と指摘しあっていました。そんな日々を送っていましたがこちらも別段キツイと感じたことはありませんでした。寧ろ充実して楽しかったのを覚えています。

 そして前述の通り教育実習中には文化祭が行われました。この時教育実習も半ばに差し掛かり、教育実習の最後に行われる「査定授業」の準備もしなければならずかなり大変な時期でした。この「査定授業」とは、この教育実習の集大成のようなもので、最終試験と言えば分かりやすいでしょうか。この査定授業で認めなければ教育実習を無事終えることが出来ないのです。しかし後半になるに従ってやらなければならない仕事は増え、文化祭の準備の手伝いや、生徒達の学級日誌の管理、小テストの採点や3年生向けに進学に向けた講演会の実施など、バタバタとしていました。文化祭では自分たちの仕事ではなく、なるべく生徒達の発表を見に校内を回るように言われていたので、もちろん言われたからという訳ではないのですが生徒達とのコミュニケーション、また、単純に後輩達の頑張りを見る為に文化祭の2日間はほぼ自分の仕事をしていませんでした。それでも文化祭で校内を回るのは、後輩達がどのようなことに興味を持っているのか、生徒とコミュニケーションを取る為にどうすればいいのかを知ることが出来ました。また、全校集会にも出席し、久しぶりに校歌を生徒と一緒に歌ったりといい時間を過ごせました。その代わり教育実習中に1日お休みがあったのですが、そのお休みも査定授業の準備などに費やし、そうしていよいよ最後の査定授業。

 ここにその時に僕が実際に書いた査定授業の報告書があったので紹介します。


査定授業報告

経済学部文化経済学科 4年 20※E※0※ 鶴田昇吾

【単元】

第2章 現代の経済と国民福祉   4豊かな生活の実現   ⑤社会保障の役割

実施校…………福岡県立福岡中央高等学校

実施日…………6月11日 金曜日第3限目

実施クラス……1年※組 ※※名(男子※※名 女子※※名)

実施場所………1年※組教室

指導教官名……※※※※

実習生名………鶴田昇吾


【指導案】

査定授業で提出した指導案は特に何も言われることはなかった。指導案の書き方のポイントとして、あまり詰め込み過ぎないこと、指導上の留意点などは細かく明記することを指摘された。

【準備】

授業プリントについては何度も担当教官と打ち合わせを繰り返し、作成を行った。プリント作成の際はその時間に終わる適切な量が必要になってくるので、綿密な計画が必要であることが指摘された。教科書や資料集は書いてあることから更に一歩踏み込んだ教材研究をしておくことが求められる。また、現代社会では時事問題を常に意識しながら教材研究をしなければならない。

【授業】

授業の良い点としては、声が大きく、説明や指示が明確に通っていたこと、教案の内容をその時間内に予定通り終わらせることができたことが挙げられた。特に、教案に書いてある範囲をしっかり教えることができた点は評価された。指摘された点は、主にプリントで授業を行う際の利点と落とし穴であった。プリントを使うことで、板書を少なくすることができるが、穴埋めの場合板書がただの回答集のようになってしまいがちである。そうならないような板書の工夫、また、補足事項をしっかり板書することを指摘された。特に、その回答の重要部分の色を変えることは回答集だけの板書にならない工夫の一つとして挙げられた。また、プリントにずっと目をやってしまっていることが多いため、生徒の顔をしっかり見て授業をすることが疎かになってしまっていた。そのため生徒の様子を見ることができずに授業を進行させていた為、寝ている生徒等に気が付きにくい状況が生まれていた。発問に関しても、現代の生徒に合った適切な発問を考えなければならないことを指摘された。その発問の仕方も、その時の状況に合わせて工夫していかなければ、同じ生徒が答え続ける、無駄に時間を使ってしまうなどの指摘を受けた。


 因みにここに出てくる教案というものは、授業を行う際のスケジュールのことで、その時間内にどの単元をどんな時間配分でどのように行うのかというものを細かく記したスケジュール表のようなものです。元々劇団の制作の仕事などでこういう作業を得意としていたので教案については案外あっさり乗り越えられたみたいですね。本当は第一難関として査定授業ではこの教案の作成があるのですが。劇団をやっていたせいか声の大きさが評価されたみたいですね。細かい指摘はあったものの無事査定授業も終わらせたようです。

 教育実習が終わった後、先生方が打ち上げを開いてくださいました。生徒と先生という間柄だったのが打ち上げという場でお酒を酌み交わすというのはなんだか不思議な気分でした。打ち上げには僕が高校時代お世話になった先生方も参加してくれて、そんな先生達が口をそろえて言うことはやはり


「教え子と飲むことが出来るようになるのは幸せだ。」


ということでした。僕達も先生達とお酒を飲むことが出来るようになったということに自分たちの成長を実感することが出来ました。高校時代見ることが出来なかった先生達の姿を見られるのも僕達にとっても嬉しいことでしたね。打ち上げはとある先生に2次会3次会、屋台にまで一緒に行き、教育実習という場に来たからでこそこうしていいお付き合いが出来たのだなと感じていました。とにかく教育実習は無事終了し、このことは今でも忘れられない人生の一つの経験となっています。

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