就職活動と教育実習ー2
この説明会ですが、「合同説明会」に参加するのはもちろん、それぞれの企業で個別に行う説明会も当たり前ですが行われます。こちらの方がくせ者で、「合同説明会」では整理券さえ持っていけば入場できたのですが、こちらの企業別の説明会はまず予約を入れるところから始まります。「何だそんなことか」と思うのかもしれませんが、この予約が一番大変なのです。名の知れていない企業ならまだしも、誰もが耳にしたことがあるような企業ともなるとアイドルコンサートのチケットを取るよりも倍率が高く難しいのです。説明会の予約をするにはまず就職活動サイトで告知があり、いつから予約が始まるのかが知らされます。チケットでいえば何日の何時から販売開始といった感じです。すると大人気の企業であればその日時に準備をしなければなりません。なぜなら、それこそ人気アイドルのコンサートチケットと同じで受付開始直後に満席になってしまうからです。なので同じバイト先にいた友人などはわざわざバイトを抜けさせてもらい、事務所のパソコンを借りて受付開始10分前からスタンバイしていたというような人もいました。僕自身も何度もそれをやったことがあり、受け付け開始直後はなんとか座席が取れたものの、次に画面を更新するともう受付終了になっているということも多々ありました。後はキャンセル待ちや追加日程を待たなければならないという状態でした。なぜそんなに必死になって予約するのかというと、大企業になればなるほどその説明会に参加することが第一条件とする企業も少なくなかったからです。また、この説明会でエントリーシートを得ることが出来るということもよくありました。しかしこの倍率の中で参加権を手に入れることが出来るとそれだけでなんだかほっとした気持ちになったりもしましたね。
そうして説明会という段階を終えると次にエントリーシートが待っています。さて先ほどから出てくるこのエントリーシートですが、履歴書とはまた少し違ったものになります。企業によってはエントリーシートそのものを履歴書にする場合もありましたが、大体の企業は履歴書とは別にこのエントリーシートを提出しなければなりませんでした。エントリーシートとはいわば課題のようなものです。なので形式は様々でした。一番多い形式はレポート形式。課題が与えられその課題について文章を書く。その他にもイラストや絵を描くもの、実際に企画書を作るというもの、僕が実際に体験した中で珍しかったのは大切な人に贈る手作りのプレゼントを作って来てそれをプレゼンするというものや、パワーポイントでプレゼン資料を作り実際に試験管の前でプレゼンを行うというもの、自社の製品を試食し、その場でその感想を書くというもの、動画を作成しそれを提出するというものなど本当に様々でした。このエントリーシートを作るのに何度も書き直しをしたり、徹夜で作業をしたりとバタバタしていました。履歴書はもちろんですが、この作業が一番辛かったのを覚えています。
そうこうしていると今度は教育実習の本格的な準備が始まります。就職活動の最中リクルートスーツでそのまま学校へ担当教官との打ち合わせをしに行ったりしました。そうしてやがて担当学年や僕が実際にやる授業範囲が決められます。教科書や資料集、実際に使う問題集などをお借りし、迫って来る本番まで単元準備もします。一つの単元に関して何処の何を聞かれてもいいように完璧に調べ上げ、関連するや教科書に載っていないことも万が一に備えて勉強しておきます。僕は「現代社会」の教科担当だったのでここ数年の実際のニュースなども関連付けて知っておかなければならなかった為、単元に関することは全て調べていきました。この時の単元は社会保険に関して、社会福祉に関しての単元が僕の担当範囲でした。となると範囲も広く、とても大変でした。
もちろんこの間にも劇団の公演活動もあり、アルバイトも続けていました。演劇の公演準備に面接が重なりスーツ姿で稽古に行ったり、シフトの時間が重なりそのままアルバイトに行ったりしたことも珍しく無く、あちらこちら走り回っていました。
4年生に上がる頃には既に僕自身100近くの企業を受けては落ちを繰り返していました。この時よく言われた
「お祈りメール」
はなによりも心折れるものでした。この「お祈りメール」とは、企業から落選を知らされる通知で、通知の最後に「今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」という言葉が必ず付いてきたことから、「お祈りメール」イコールまた落ちたなということでした。僕もこの頃にはこの「お祈りメール」に何度も心折れていました。この時点で僕の周りでは内定をもらったという報告はほとんどありませんでした。僕達の中でも「内定」というものが本当に存在するのか、「内定」とは幻の生き物なのではないかとさえ言われたほどです。この時すでにほとんどの人が何十、何百とエントリーし続け、第一志望の企業なんかもうとっくの昔に落ちたよ、という人ばかりでなんとかどこかの内定に引っかかろうとしている人で溢れていました。大体皆か行きたがっている大企業というのは何百人受けて採用5名とかそういう世界だったのでほとんどの人はどこでもいいから「内定」をくれという気持ちでやっていたと思います。
4年生の5月ごろには就職活動もピークを迎えます。もうこちらが企業を選りすぐっている暇はありません。その間にも少しでもいいと思える企業の定員はどんどん埋まっていくのですから、残るは有名なブラック企業やパチンコばかりになってしまいます。この頃には皆も焦ってきていました。合同説明会でも既に名の知れた企業はだんだんと参加しなくなり、名前の知らない企業が目立つようになってきました。規模もどこかの会議室を使うだけという小さなものになってきて、徐々に追い込まれ焦ってきていました。もちろん僕もその一人だったわけですが何せ教育実習を最優先にしなければならず、予定では教育実習が始まるまでに内定を一つでも貰うつもりでしたが、それも叶いそうにありませんでした。
そうして6月になるといよいよ教育実習が始まります。しかしここで恐れていた事態が発生してしまいました。この直前に2つだけ順調に進んでいる企業があったのです。その2つの最終試験がなんとどちらも教育実習と重なってしまったのです。「ああ、もうだめだ、諦めよう」と思い2社には手厚く断りの電話を入れました。まず1社目、理由を話し最終面接に行けない旨を伝えると、
「教育実習頑張ってください。鶴田さんの今後のご健闘をお祈りします。」
とやはりお祈りされました。そうして2社目、まあ同じ結果だろう思っていると。
「教育実習はいつ終わりますか。終わってからでいいので日程の打ち合わせをしましょう。」
ということになりなんと教育実習が終わるのを待ってくれるというのです。なんと言う器の大きな企業だろうと思いました。これが何を隠そう今勤めている会社になるのですが。
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