異星の彼女

多摩川多摩

第1話

 宇宙人はいるか?

 答えはYESだ。

 証拠はほら、僕の隣にいる、この少女。

 僕の隣でパイン味の飴を舐めているこの娘、どうやら宇宙出身らしい。彼女から異性ではなく異星を感じるとすれば、その容姿、その雰囲気だろう。彼女の髪は、色こそ黒だ。けど、その髪は濡れたように光っている。その長い髪は、ある種、彼女のトレードマークのようなものだ。それが、宇宙人であることを示しているのかもしれない。

 故郷に未練があるのかもしれない。彼女は公園のベンチに背中を預け、宇宙を見ていた。口の中に飴を入れているせいか、頬が膨らんでいる。

 僕は彼女の頬をつついてみた。ド田舎の、誰もいない公園じゃないと、こんなことはできない。僕は思春期だ。そういえば、宇宙人に思春期はあるのかな。

 彼女はつついた僕の人差し指に、かぷりと食いついた。頬を膨らませたままちゅーちゅーと吸ってきた。何やってんの。

 僕はびっくりして、自分の指を引っ張った。そうすると、彼女は僕の指を放した。出てきた指は少し濡れていた。ついでにパインの匂いが漂ってきた。

「宇宙人なら人差し指同士をくっつけたりしなよ」

「なんでそんなことしなくちゃいけないの? 指をくっつけてなんか楽しいの? こうやって君の指吸っている方が有意義じゃん」

 完全にいーてぃーを敵に回していた。危ない娘だ。

「いやいや、あのね。百歩譲って、SF映画批判は許すよ。だけど、なんで僕の指に吸い付くの?」

「だから、いつも言ってるじゃない」

 そう言って、彼女は僕の頬を撫でる。柔らかい指が僕の顔に触れて、少しくすぐったかった。

「私は、あなたの全てが好きなの。愛してるの」

 耳にたこができるほど聞いた言葉だった。僕はたびたび、愛をささやかれていた。

「本当なら、君の指、頬、目まで、体の全てを舐めまわしたいぐらいなの」

「そこまでされたら僕も困るよ。僕だって、生きてるんですよ」

 あまりの押しの強さにちょっと引いた。そんなことをされたら、僕の心がオーバーヒートして死にそうだ。

 怒らせないように、結局敬語になるあたり、僕はビビりなのかもしれない。

「そうでしょ? だから、君の指を吸えば君の成分が得られるかなって思ったの」

「……どうだった、の? 僕の指は」

 羞恥心で顔が熱暴走しそうだった。僕の顔は今頃赤く染まっているだろう。興味本位で聞くんじゃなかったと後悔する。

 僕の表情を見てか、彼女はニヤりと口元を緩めた。

「あまずっぱかった。地球的に言えば、青春の味ね」

 いや、すっぱいは飴の味じゃないかな? 

 ん、それだと僕の指が甘いということになるわけで。あれ?

「あと、そうね、言い変えるなら――美味しかったわ。君の指は」

 彼女は言った。

 そんなことを堂々と、恥じらいもなく言う宇宙人に、思春期なんて概念はないんだろう。

 僕は、そう思った。

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異星の彼女 多摩川多摩 @Tama

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