第6話 こぼれ話①…軍人に嫁ぐとは
さてさて、ちょっとここで話しはそれてのこぼれ話ですが、13歳で軍人に嫁ぐことが決まった祖母に重大な問題が発生しました。
それは何かというと、祖母の家は商家であったため身近に日本刀というものがなかったことです。
でも、嫁入りの準備(軍人の妻としての心構えとして)に、どうしても日本刀がいるということになり、「さて、どうしものか」と祖母の周りの大人達は大騒ぎになったのだそうです。
この話しを聞いて、なぜ軍人に嫁ぐからといって日本刀がいるのか?と疑問に思った私が祖母に尋ねると・・、
「それはね、もし敵に寝込みを襲われて死んだとしても、乱れることなく、まるで眠っているように死ぬためよ」と言いました。
「眠っているように死ぬ?」と私がもう一度尋ねると。
・・はっきりいって、眠っているように“死ぬ”の意味が分かりません。・・
祖母がいうには、軍人というのは国内にいても敵が多い。
まして、国の外に出ればそれだけ敵の数も多くなる。
中には本人を狙わずに家族を狙う
・・信じられないことですが、そんなことが有りの時代だったのです。・・
でも正直な話し、そんなことが本当にできるのか?です。
それに、なぜその為に日本刀かいるのかが次の疑問として私の頭の中に浮かんだので、
「眠っているように死ぬのに、どうして日本刀がいるの?」と思ったことを正直に祖母に聞いてみますと、その使い方というか、それを本当にしたのですか?と私はまじまじと祖母の顔を見てしまいました。
「ねぇ、おばあちゃん、眠っているように死ぬのに、どうして日本刀がいるの?」と聞く私。
「日本刀の刃を立てて、自分の顔の両端に置いて寝るのよ」と祖母はさらりと言いました。
「えっ、日本刀に顔を挟まれて寝るっていうこと?」
「そうよ、もし寝返りを打って横を向けば自分の頬が切れるでしょう」
・・確かに、間違いなく切れます。怖いです。・・
「それでおばあちゃんは、本当に日本刀を顔の横に置いて寝たの?」
「寝たわよ、ただし、おばあちゃんの家は商家で、お武家さんの家ではなかったから日本刀がなくてね。お父さんが親戚の人と一緒に、そこいら中を探し回って長いカミソリを見つけてきてくれたの、それを顔の両端に置いて寝たのよ」と、さも当然というように祖母は言います。
でも日本刀の代わりになるような、そんな長いカミソリなんてあるのでしょうか?
私の知っているカミソリの長さは、せいぜい長くても5㎝くらいの認識しかありません。
ちょっとそれでは「眠っているように死ぬ」という言葉の意味を支えるには、なぜだか迫力不足のような気がしました。
だから・・、
「でも、おばあちゃん、カミソリって長くてもこれくらいの長さしかないよ」と私は、親指と人差し指を使い、それでも少し遠慮して、自分が思っていたよりは長めの8㎝ほどの長さを表していましたが、
それを見た祖母が、「そんな短いカミソリでは役に立たないでしょう」と言います。
・・確かに、なんの役にも立たないような気がする・・
でも私には、それ以上に長いカミソリがあるのか?という単純な疑問が頭の中に広がりましたが、「そんな長いカミソリなんてあるのか?」などと失礼な言葉で祖母に聞くことが出来ずにいました。
なぜならそんな言葉を使って聞くことは、祖母が嘘をついているのだと言っているのと同じことになるからです。
だから私が心の中で、「あるのだろうか?そんな長いカミソリが…」の不思議に思ったことが言葉にはでずとも、そのとき私の顔に現れていたのだと思います。
「それがね、探してみるとあるもね20㎝くらいの長さで、普通のカミソリよりも遥かに大きくて頑丈な刀みたいなカミソリを、おばちゃんのお父さんは見つけてきたのよ。それを二本、毎晩顔の横に立てて寝たのよ」と祖母は平然と言いました。
「眠れたの?」
「いいえ、三日間は怖くて一睡も出来なかったわね、後の一週間近くはうつらうつらと眠っているような、起きているような自分でもよく分からない夜を過ごして、十日目にやっと眠れたけれど、ほんの小さな物音にでもすぐに反応して目が覚めるようになったわ」と祖母は言いました。
・・それって、ある意味、夜中に敵が忍んできたとしても、自分の身に危険が迫っているということが、本能的に分かるという能力が、刃物を二本顔の横に置いて寝ることで自然に身についたということなのでしょうか・・
そして最後に祖母は、
「おばあちゃんはまだましよ、軍人さんとの結婚が決まったからだからね。
でもね、皇族や華族のおひいさん(お姫様)は、小さい頃からおばあちゃんとは違って本物の日本刀を二本、顔の両脇に立てて寝るのよ。
だから、おばあちゃんは大人になってからだからまだましよ」と言いました。
祖母かいうように13歳を大人というのかは疑問ですが、今では考えられない、その時代の常識というこぼれ話です。
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