第10話 三日目 札幌→新十津川
昨夜、はまなすを見た後宿で乗れないか検討してみた。五日目の函館本線をあきらめれば乗れる。結局どうするかは結論を出せずに寝た。
6時45分、札幌駅。今日は札沼線からスタートする。札沼線は札幌の隣の桑園から新十津川までの76.5kmを結ぶ路線であるが、実態としては桑園から北海道医療大学とそこから先の二つに分割されている。北海道医療大学までは学園都市線の愛称がつけられ、2012年には電化されるなど札幌への通勤・通学路線としての印象が強い。しかし、北海道医療大学から先、新十津川までは非電化単行で、新十津川まで行くのは一日三往復とローカル線としての印象が強くなる。輸送密度もJR北海道中最低であり、その影響か知らないが、今度のダイヤ改正でただでさえ少ない新十津川行が一日一本になってしまう。
札幌十番線に入線した電車は六両編成で、席は乗客で埋まった。若者が多いのは沿線に複数の大学があるからであろう。
6時59分、札幌発。電車は三両編成が二つ連なっているのだが、前半はロングシートで後半が転換クロスシートである。私は後車に乗った。桑園まで函館本線と並走する札沼線専用の単線を行く。
二分で桑園に着く。乗客はあるが、札幌方面ほどではない。7時02分に発車。右手に札幌競馬場が見えると函館本線から分離し、札沼線に入る。高架複線と電化路線では珍しくない光景だが、非電化時代は非電化で高架複線だったのはJRではここだけだった。
八軒、新川と走り、新琴似に着く。新琴似とはいうものの琴似からは結構距離があるのではないか。近くには地下鉄南北線の麻生駅がある。新琴似から先は地上に降り、住宅街の中を行く。途中でランドセルを背負った小学生が何人も乗ってきたが、電車に乗らねば小学校に行けない程小学校が少ないのだろうか。地図を見る限りそんなことはなさそげなのだが。
7時23分、あいの里教育大着。小学生や高校生、大学生らしき人など若者が一斉に降りた。駅周辺に小学校が三つ、大学が二つ、専門学校が一つある。確かに学園都市である。
あいの里教育大から単線になる。次のあいの里教育公園で上り列車と交換。そこを出ると石狩川を渡る。この橋を複線にしたくなかったのかな、と邪推する。石狩川で札幌からの住宅街は終わり、雪原が広がった。地図では格子状に道の走った屯田兵村が広がっているはずなのだが、農道などは除雪されていないから畑の境がいまいちよくわからない。屯田兵村というと北海道らしい風景の一つであるから、それを実感できないのは残念である。
7時38分、石狩当別着。この電車は次の北海道医療大学まで行くが、新十津川行がここから出るので乗り換える。いくら新十津川行が単行で本数少ないといっても、平日だからそんなに混んでいないだろう、と思って新十津川行の気動車に乗り換えたのだが、期待は裏切られた。席は大体埋まっていた。何とかボックスシートの端を確保できたが、通路側かつ後ろ向きと条件は良くない。想定外であった。
7時45分、石狩当別発車。駅周辺は市街地化しているが、すぐに雪原風景になる。日本よりは北米とか欧州の風景に近いように思う。四分で札幌医療大学に着いた。割と下車する人がいて、車内は少し空いた。残っているのはほぼ同好の士だろう。まともな客はどれだけいるのか。
札幌医療大学を出ると、左手に山が迫ってくる。北は暑寒別岳に連なる山々の端だ。しかし、すでに札幌市ではないし、市街地ですらないこの土地で札幌を名乗る大学名はどうなのだろうか。
石狩金沢、本中小屋、中小屋と三連続で貨物列車の緩急車を改造した駅舎を持つ駅を過ぎ、この辺りは戦時中に不要不急線として休線になっていた。今、周りを見ても左手は山、右手は雪原と人家はほとんど見られない。人家があったとしても車を使うと思う。
8時18分、石狩月形着。上りと交換するために二十一分間の停車時間がある。同好の士達もホームに降りて写真を撮ったり、切符を買いに行ったりしている。石狩月形は札沼線の内、最北の有人駅であり、交換駅である。
せっかくなので自分も切符を買うことにした。販売しているのは近隣の駅までの乗車券と入場券だけなのだが、乗車券は補充券と呼ばれる元から印刷されたピンクの切符で、入場券は硬券と呼ばれる、旧態然とした硬い切符である。双方珍しいので買った。切符を買っている間に上りの石狩当別行が入線した。石狩月形から先はスタフ閉塞と呼ばれる閉塞を使っている。
閉塞とは、列車同士が衝突しないようにするための保安システムのことであり、スタフ閉塞とは、スタフと呼ばれる棒やらタブレットと呼ばれる金属板やらを持っている列車でないとその閉塞に進入できないようになっている保安システムである。札沼線の石狩月形から新十津川、これで一閉塞なのだが、そこでは後者のタブレットを使用している。
で、そのタブレットの交換が行われたはずなのだが、どうも見た記憶がない。見逃したようである。自分は何かを見に行ったりしたときに大事なものを見落とすということが良くあるが、またやってしまったようである。治そうと思っているのだが、なかなか治らない。どうしたものか。
8時40分、石狩月形発車。景色が何か変わったということはない。次の豊ヶ岡までは山と雪ばかりである。
豊ヶ岡を出ると山から離れた。左手にも雪原が広がるようになる。視界が広がったおかげで遠くの山まで見えるようになった。方角的には日本海沿いの安瀬山か濃昼山だろう。断言はできない。
9時05分、浦臼着。新十津川まででは一等発展しているところで、ここで折り返しになる列車もある。右手遠くには石狩川が流れていて、その更に向こうには函館本線が走っている。並行線があって向こうの方が便利となると、札沼線の現状にも頷ける。
浦臼を出て、屯田兵村の雪原を北北東へ行く。下徳富を出ると次が終点新十津川だ。網棚にリュックサックやらコートやらのうち、とりあえずコートを着た。
8時28分、新十津川着。事件はここで起きる。
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