第9話 二日目 長万部→札幌

 長万部は四番線着だった。接続列車は三番線に二両、縦列停車している。前方が17時37分発の室蘭本線東室蘭行で、車両はここまでと同じキハ40。後方が17時43分発の函館本線小樽行で、車両はキハ150というJR化後に製造された気動車である。私は東室蘭行に乗る。

 私はボックス席を確保しようと東室蘭行に急いだのだが、以外にも乗ってきたのは自分以外に数人だった。ボックス席確保なんぞに急ぐ必要もなく、拍子抜けである。ほとんどは小樽行に流れたらしい。なんでだろうと思い、時刻表を確認してみると函館本線経由のほうが十四分早く札幌に着く。この為だろうか。函館本線の残りには後日乗る予定である。

 17時37分、定刻通り長万部を発車した。乗客は自分含めて六人で、外の暗さも相まって物悲しい。長万部から二駅目が秘境駅として有名な小幌である。今度のダイヤ改正で廃止になる瀬戸際で地元自治体に救われた。日は沈み、ほとんど外は見えないが、何とかホームの周りは確認できる。いずれ時間のある時に来てみたいものだ。

 小幌から一人乗ってきて乗客は七人になった。車窓は暗闇に覆われ、車内からの反射が目立つ。初めて乗る区間ではないが、例によって前回に乗った時も前々回に乗った時も夜だったため車窓は知らない。準未乗区間のまま残される。

 18時19分、洞爺着。サミットのあった洞爺湖の最寄だ。晴れていれば有珠山や昭和新山が見えるのかもしれないが、夜では見えるものも見えない。

 18時40分、伊達紋別着。仙台の伊達家が入植した土地だ。国鉄時代には胆振線が分岐していた。この辺りでは大きな町である。乗客も増えた。

 三分停車で発車し、闇夜を突き進む。三十分ほどで市街地に入り、19時12分東室蘭着。

 室蘭は砂州の街だ。太平洋に突き出た砂州の内側は天然の良港であり、そこを中心に市街地が広がっている。しかし、鉄道を通すには不向きな地形だ。室蘭まで通せばいいのならともかく、西の方への接続を取るのに一々市街地中央まで別個の線路を敷くのは不都合である。この辺りは同じ砂州の街である函館も同じで、函館の場合は砂州の付け根の五稜郭が函館本線と江差線の接続駅であった。室蘭に於いて五稜郭に当たるのが東室蘭である。

 室蘭では接続時間が三十分あった。今夜の札幌の着時刻は22時近い。この辺りで夕食を取りたいと思い、キオスクへ向かう。キオスクには駅弁なのだかただの弁当なのだかわからないが、ホタテと豚肉の弁当が売っている。それを買った。

 三番線に苫小牧行が入線する。電化区間なのだが車両はキハ143という気動車であった。もともと客車だったのを気動車に改造した、なかなか面白い経歴の車両である。車内は二人掛けのボックス席と四人掛けのボックス席が並んでいて、私は二人掛けに座った。

 19時43分、東室蘭発車。時間が遅くなってきたが、高校生の集団が乗っている。部活帰りのようだ。大学受験の話などをしている。

 各駅に停まり、高校生が少しずつ減っていく。今朝の奥羽本線もそうだが、高校生が目立って乗っているという状況に東京ではならない。こういうのもなんだが、列車本数の少なく、自動車社会の地方ならではの光景と言えるのかもしれない。

 温泉で有名な登別や、ポロトコタンのある白老を通り、一時間と少しで苫小牧に着いた。白老から苫小牧の先までは日本で一番長い直線区間らしいのだが、実感は無い。五分乗り換えで札幌行に乗る。車両は731系という新しい電車で、ここまでとは面目を一新したのだが、ロングシートなのが少々不満だ。しかし、札幌近辺の通勤輸送に用いられることを考えたら仕方がないとも思う。

 苫小牧から7分、次の駅の沼ノ端に着く。実際にウトナイ湖という湖の端にあり、かつては駅のそばまで湿原が広がっていたが、苫小牧の発展に伴って干拓だか埋め立てだかされてしまい、今では住宅地になっているようだ。大学受験の際に地理の過去問で見た地形図が丁度この辺りで、それを思い出す。

 沼ノ端から千歳線に入り、札幌へ針路を向ける。左手に千歳空港が見えると南千歳で、ここの辺りが現在では北海道の玄関と言えるだろう。千歳から先は人家やオフィスビルの灯りが増え、札幌の通勤圏に入ったという気がする。

 21時33分、北広島着。北広島市は広島県からの入植で開拓された地である。西広島駅と東広島駅は広島県内にあるのに、北広島駅は遠く離れた北海道にあるという変わったことになっている。私がここまで乗ってきた電車は北広島で9分停車し、後続の快速エアポート213号に追い越される。乗り換えることにする。

 快速エアポート213号は札幌から特急スーパーカムイ43号となる列車で、車両も789系1000番台という特急用のものを使っている。昼に乗ったスーパー白鳥の車両のマイナーチェンジバージョンだ。私のような旅行客からすれば、快速で特急用車両に乗れるなんて乗り得だと思うが、地元客からはドアの少なさから乗りづらく不評らしい。次のダイヤ改正でなくなるとのことである。

 乗ってみると当然ながら飛行機からの客で混んでいて、何とか端の一席を確保した。しかし、混んでいるとはいえ特急用の座席、快適である。新札幌、白石と停まり、21時55分、札幌着。

 今日はここで終了し、宿へ向かうつもりであった。だが、四番線に目を向けると青い客車の姿が。急行はまなすだ。見られる機会ももうないと思い、カメラを片手に4番線へ向かった。はまなすは22時発であり、五分ほどしか見られなかったが、失念していただけに嬉しい。走り去る客車の中を覗いていると、自由席に空き席が見られる。乗れる気がしてきた。

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