第8話 二日目 函館→長万部
駅に戻ると私の乗る長万部行は既に入線していた。二両編成だが、後部は森止まりである。車両はキハ40という国鉄時代のもので、鋼鉄製だ。どちらも今回の旅では初めてである。719系をJR型とするかは議論があり微妙なところであるが。しかし、ステンレス製車両だけで北海道に上陸できるとは驚きだ。
ボックスシートもあるが、すべてに人がいる状態であった。人がいるところに座るのもなんだかなぁと思い、ロングシート部に座る。その後も続々と乗ってくる。
向かいのホームにステンレス製の電車が来た。種別表示は試運転。ダイヤ改正から走るはこだてライナーの試運転だ。はこだてライナーは函館と新函館北斗を結び、新幹線と接続する快速列車である。かつての新幹線リレー号みたいなものだ。目新しいものを見れて嬉しい。
14時27分、函館発車。同好の士と見受けられる乗客も多いが、大半は地元客だろう。新しい架線柱が立ち並ぶ複線を行く。途中の桔梗でボックスシートに移動した。
七飯を出ると高架線が右手に分かれていく。藤城支線と通称される線路だ。これは駒ヶ岳方面への勾配を緩和するために敷設された線路で、現在は優等列車と貨物列車、一部の普通列車が経由している。前にはまなすに乗った時に通っているはずだが、寝ててよくわからない。もう一度乗るべきなのだろうが、新幹線が開業すると特急列車は本線にある新函館北斗を経由するようになり、藤城支線を通るのは数本の普通列車だけとなってしまう。もう一度乗る機会が来るかはわからぬ。
新幹線が左から合流してきて留置線を見た後、14時52分、渡島大野着。ダイヤ改正からは新函館北斗と改称する駅だ。電化区間はここまでである。駅は新幹線に合わせて立派であるが、まだ閑散としている。今後に期待だ。
14時53分発車。ここから勾配区間だ。エンジン音が鳴り響く。別荘地のような仁山を過ぎ、藤城支線が合流してくると湖岸に出る。大沼だ。その奥には駒ヶ岳が見え、良い車窓だ。そのまま沼に沿い、大沼駅に着く。この辺りまで来ると地元客も減り、ボックスシートを一人か二人で使えるようになった。
大沼まで二手に分かれていたが、大沼からも二手に分かれる。片方は森まで駒ヶ岳の裾野を突っ切る路線で、これが元からの本線である。もう一方は海岸線に沿って森に向かう路線で、渡島砂原を経由することから砂原支線と通称される。これも藤城支線と同様に勾配を緩和するために敷設された線路だ。この列車は砂原支線を通る。
15時11分、大沼発車。前回北海道に来たときに乗った下りはまなすも上り北斗星も本線経由だったので、砂原支線に乗るのは初めてである。左手には引き続き大沼が望める。
二駅目の流山温泉の景色に見覚えがあると思ったら、かつて東北新幹線の200系が置かれていた場所だった。北海道新幹線開業への願いを込めて北海道に持ってきたものだったが、開業を待たずして2013年に解体されてしまった。私が見たのはその200系の記事の写真だった。
次の銚子口を出ると海に向かって下り始める。右手に海が見えてくる。鹿部、渡島沼尻と駒ヶ岳の東側を回り、15時46分渡島砂原着。ここから森までは、戦前にあった渡島海岸鉄道の路盤を流用している区間が多いという。
渡島砂原の次の掛澗で貨物列車と交換する。元々貨物列車のための勾配緩和だが、現在でもその用途で使われている。
東森を過ぎるとすぐに本線と合流し、16時01分、森着。一番線である。海岸近くで、鶴見線の海芝浦ほどではないにしても信越本線の青海川や五能線の驫木と同じくらいの海の近さに思える。二番線には函館行の普通列車が停まっている。16時11分発の渡島砂原経由函館行である。十一分停車なのだが、特にすることもないので後部の車両の切り離し作業を眺めていた。切り離されたのは折り返して本線経由大沼行になるようである。こっちは19分発なのだが、走行距離の差で大沼には11分発よりも先に着く。何かのトリックに使えそうだが、時間差が少なすぎるかもしれない。
16時08分、下りの貨物列車が通過した。これの退避も兼ねていたのだろう。道路で東京と繋がっていない北海道では貨物列車の需要が大きい。本州では貨物列車が普通列車を退避することの方が多いと思うが、北海道では貨物が大きな顔をしている。
11分に上り函館行が出て、13分には私の乗る長万部行も出た。乗車率は高いが、この中に地元客は何割いるのだろうか。いつの間にか曇りになっていて、薄暗い。線路は分水嶺と海の間の狭い平地を行く。津軽半島でも同じようなところを通ったし、松前半島も似た感じだった。似た地形ばかりである。右手の噴火湾の奥には対岸がうっすらと見えている。伊達や室蘭の辺りだろう。森と室蘭を結ぶ定期航路は現在無いが、北海道新幹線開業後の観光客需要開拓の為のクルーザーによる試験運航では一時間四十分程で室蘭まで着けるらしい。一方私は東室蘭着が19時12分だから、ほぼ三時間だ。
いかめしを食べている人がちらほらと見受けられる。森の駅弁として有名であるが、昼食はラッキーピエロで食べたので買わなかった。見てると美味しそうで、買えばよかったかな、という気持ちも少しする。
石倉、落部、野田生と駅ごとに漁港があり、ブイが積んである。噴火湾はホタテ養殖が盛んであるから、その関係だろう。漁村である。
16時52分、八雲着。平野が広がっていて、森から長万部の間では最も大きい街である。特急も停まる。八雲は尾張藩が入植し、木彫り熊発祥の地らしい。地名は「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣を」というスサノオノミコトが詠んだとされる和歌にちなむそうだ。
八雲の次は鷲ノ巣で、現在JR北海道の駅としては最西端に当たる駅であるが、次のダイヤ改正で廃止される。車内から駅名表を撮る同好の士が何人かいる。
八雲の平地を抜けるとまた山と海の狭間であるが、畑だか牧場だか荒地だかの中を行く。夕暮れで暗くなってきてて、余計に鄙びて見える。
17時18分、国縫着。かつてはここから瀬棚線が分岐していたが、廃止された今となっては周りと同じ小さな集落でしかない。違うのは高速道路のインターチェンジがあるくらいだろうか。
17時29分、長万部着。
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