第7話 二日目 青函トンネル→函館

 トンネルを走ること十一分、吉岡定点を通過した。ここからが北海道である。実感は無い。さらに八分後、10時39分、青函トンネルを出た。

 出口すぐにあるのが湯の里知内信号所で、貨物列車の退避設備がある。2014年までは知内駅であった。それからまたトンネルの連続になり、次に開けるのは木古内である。木古内手前で新幹線と在来線が分離され、10時47分木古内着。

 木古内では蟹田から乗ってきた青春18きっぷ客を降ろし、いくばかのビジネスマンを乗せた。一分停車で発車する。木古内から先は江差線になる。江差線は木古内から江差は2014年に廃止されたので、江差線を名乗るのに江差まで行かない。名称詐欺のような気もするが、横浜駅に行かない横浜線や奈良県に行かない奈良線があるから問題ないのかもしれぬ。もっとも、新幹線が開業するとJRから経営分離されて道南いさりび鉄道になるので、名称詐欺ももうすぐ解消されるのだが。

 木古内を出ると海岸と山に挟まれた狭い平地を松前国道と並走する。新幹線はトンネルで山を貫くコースだ。札苅、泉沢と通過し、北東へと進路を変更すると海の向こうに函館市街が見えてきた。かつての青函連絡船とは異なる風景だが、通ずるものはあるだろう。座席が東向きだから日光が少々暑い。海の景色を見たいと思って選んだが、正解だったかはよくわからぬ。

 11時09分、渡島当別着。クッキーの有名なトラピスト修道院の最寄り駅である。ここで普通列車と交換する。ホームでは駅名標が取り外されている。経営分離への準備だろう。

 11時20分、上磯通過。このあたりから平地が広がる。二駅先の久根別で運転停車する。久根別は二面三線であり、五分停車の間に普通列車と白鳥22号が来た。スーパー白鳥95号と普通列車が停まっている間に通過線を白鳥22号が通過した形である。

 東久根別、七重浜と通過し、11時36分五稜郭通過。ここから函館までの一駅は函館本線である。EH800という青函トンネル用の電気機関車が貨物列車の入替をしていた。

 右手に広い留置線が広がってくると函館駅で、11時40分着。

 函館で昼食を取ろうと思う。前々から函館に来たらラッキーピエロのハンバーガーを食べようと思っていたので、行ってみることにした。

 ラッキーピエロは函館を拠点に店舗を展開するハンバーガーショップであり、函館では他のハンバーガーチェーン店を凌ぐほどの人気だという。函館以外には展開しておらず、集中化戦略のモデルとして扱われることもあるらしい。

 ラッキーピエロ函館駅前店は駅から歩いてすぐのビルの一階にあった。混んでいる。入りにくさを覚えながらも勇気を出して入り、少し待って注文の番が来た。メニューにはハンバーガー系統以外にもカレーライスやオムライスなどもあり、ハンバーガーショップと呼ぶのが妥当なのか悩ましいところだ。今回は初めてということで、定番であるというチャイニーズチキンバーガーとラキポテを注文した。ラキポテとやらが普通のポテトと何が違うのかはまだ知らない。

 座席で待つシステムなのだが、店内は混んでいて座席がなかなか見つからない。奥に行けば空いてるかと見てみると鏡である。それでもなんとか一人分の座席を見つけて座る。客層は若い女性の団体から一人客のおっさんまで幅広い。客層が広いということはそれだけ受け入れられているということだろうか。

 しばらく待って注文した品が届く。チャイニーズチキンバーガーは大きなチキンとレタスがバンズに挟まったバーガー、ラキポテはマグカップに入ったポテトにチーズがかかっているものだった。チャイニーズチキンバーガーはもちろんのことだが、ラキポテは東京でも食べたい味である。そこらのフライドポテトなんぞより工夫がなされていて良い。

 昼食を食べ終えたが、次に乗る函館本線の列車まではまだ時間がある。そこで五稜郭に行くことにした。最寄り駅はJRの五稜郭と函館市電の五稜郭公園前で、どちらも駅から徒歩十五分はかかる。JRは乗ってきたし、どうせ後でも乗るので函館市電に乗ることにした。

 函館駅前の停留所に着くとすぐに湯の川行の電車が来た。緑っぽい塗装で床が板張りの710型という古い車両だ。元からの乗客に加えて函館駅前で乗った乗客が多いのでかなり混雑する。私は運転台の傍で前方を見ることにした。

 途中の昭和橋だったか中央病院前だったかで運転台に無線が入った。曰く、付近の対向列車で急病人が出たらしく、確認してきてほしいとのことだ。運転士は「もう出発してしまった」と返す。路面電車ならではの光景だな、と思う。

 15分か20分かそこらで五稜郭公園前に着いた。五稜郭タワーを目指して歩く。道の左右には商店が立ち並び、駅前なんかよりもよっぽど栄えているように思えた。

 駅よりもすこし離れたところのほうが栄えている、というのはよくある話であるが、栄えているのが市街地の中なところとバイパスの周りになるところの違いとはなんなのだろうか。函館は前者だろう。他にも金沢なんかはそうだと思う。後者は糸魚川とか会津若松とかだろうか。都市の大きさの問題かもしれぬ。

 五稜郭タワーは空いていた。少しいる観光客も大半が外国人のようである。南国の人から北海道が人気だというから、その関係だろうか。

 上から見下ろす五稜郭は写真で見知った五芒星型である。堀は氷片で覆われ真っ白だ。五稜郭だけでなく函館市街全体を見渡せ、景色は良い。函館は日米和親条約で開港した天然の良港であり、戊辰戦争などを経ながら北海道と本州の結節点、道南の中心として発展してきた。しかし、北海道新幹線の駅は函館を通らず北斗市の新函館北斗が最寄りとなる。函館の街が今後どうなっていくのか、気にならずにはいられなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――食べ物の感想って難しい。

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