第3話 一日目 郡山→米沢
接続の関係で郡山か福島で一時間の暇ができるのだが、今回は郡山で時間を潰した。一時間は長いようで短い。駅前を散策しているうちに過ぎてしまう。観光するには少なくとも倍は欲しい。
郡山は東北本線、東北新幹線、磐越西線、磐越東線、直通で水郡線と交通の結節点として栄えている。人口も県庁所在地の福島市を差し置きいわき市と県内首位の座を争っている。私もこれまで何度か通ったことはあったが、駅から出たのは初めてだった。
11時56分、郡山発車。東北本線福島行はステンレス製の四両編成で、今度はセミクロスシートだった。乗車率は結構高い。80%くらいだろうか。スーツを着た外回りの会社員やラフな格好の地元客が主だが、旅行客も乗っている。私の席の通路の向かいに座る高齢の男性もその一人で、地元民相手に
「このまま東北本線を北上して今夜は急行はまなすに乗る」
などと話している。北海道新幹線開通で廃止になる急行はまなすは前回北海道に行ったときに乗ったので、今回は計画に入れていない。はまなす廃止でJRから定期列車の急行が消滅することを思うと感慨深いものがある。
二駅目の五百川は萩姫伝説と言われる伝説が由来の地名だ。かつて萩姫という姫が病にかかった時、「京から北に五百本目の川に行きなさい」と言われたそうで、丁度五百本目の川にたどり着いた時にここより上流にある磐梯熱海温泉を見つけ、それに入るとたちまち病が治ったという話である。磐梯熱海は郡山で分岐した磐越西線が通っている。しかし、ここが本当に京都から北に五百本目の川なのだろうか。確かめる術は無い。
畑の中を行く。冬の畑は寒々しい。最近はメガソーラーに転向した農地も増え、今回もメガソーラーがちらほらと目に入った。
二本松を過ぎ、12時28分松川着。隣の金谷川との間で1949年、国鉄三大ミステリー事件に数えられる松川事件が起きた。発生箇所は現在下り線として使われており、通ったが発生箇所はよくわからなかった。
福島12時43分着。この電車は17分停車の後、快速仙台シティラビット5号として仙台行になるが、私はここで乗り換える。
12時51分発の奥羽本線米沢行はかなり混んでいた。途中の恵庭から米沢までを走る普通列車は日に六往復しかないから一本に集まるのだろう。地元の利用客よりも旅行客のほうが多い。
福島を出た列車はすぐに東北本線を離れる。左手には東北新幹線から分岐してきた高架線がある。山形新幹線である。地平に降りてきて在来線の線路と繋がる。
13時丁度に恵庭を出ると、板谷峠越えが始まる。板谷峠は連続する急勾配と半径の小さいカーブによって碓氷峠や山陽本線の瀬野~八本松に並ぶ難所となっており、かつては補機が必要かつ途中四駅すべてがスイッチバックだった。新幹線直通によってスイッチバックは廃止されてしまったが、遺構は残っている。
恵庭の先で右カーブした列車は坂を上り始める。幾度かのトンネルを抜けると下に谷間が見えるようになる。これまでの雨がみぞれになり、雪も積もっている。
13時08分に冬季休業の赤岩を通過。秘境駅として知られている駅だ。7分後、板谷に着く。ここからが山形県だ。22.4‰の勾配表が見られる。電車だからこそスイッチバック無しで駅として成り立っている。板谷とそれ以降の峠、大沢はスイッチバック時代に分岐器を覆っていたスノーシェルター内に駅がある。
13時20分、峠着。ここは峠の力餅の立ち売りが有名である。立ち売りがいたら買おうと期待せずにホームの方を見ていたら、予想外にもいたので買った。さっそく食べるが、甘い餅十個は一人で食べるには多すぎた。四個入りくらいのがあれば丁度いいのだが。
私が板谷峠を通ったのはこれで三度目だが、一度目と二度目は夜だったり疲れて寝てたりでしっかりと景色を眺めたのは初めてだった。そういう意味では初乗りと変わらない。
13時38分、米沢着。またも乗換であるが、今度もまた接続の関係で米沢か山形か新庄で一時間潰さねばならぬ。どうするか考えずにここまで来たが、すぐに接続する山形行を逃したのでなし崩し的に米沢で潰すことになった。
米沢は上杉家の城下町であり、廃藩置県後には一時期県庁所在地になったこともある都市である。交通も奥羽本線と日本海側へ抜ける米坂線の結節点だ。しかし、このように歴史ある街ではよくある話だが、米沢も鉄道を忌避して市街地から離れた所に駅があり、米坂線も市街地の南を半周している……、と故・宮脇俊三氏の「時刻表2万キロ」と「最長片道切符の旅」を読んで以来信じていたのだが、これを書くにあたって確認のために調べたら特にそんなことはなかったらしい。というかそもそも全国の鉄道忌避伝説が信憑性に乏しいらしい。話を鵜呑みにせずちゃんと別の文献などをあたらねばと思った。
原因はなんであれ、駅と市街地が離れていて一時間では観光するには心もとない。駅前を見て昼食を食べ、あとは駅の中で時間を潰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます