おまつり。
いつものバス停にて――?
「はやく、はやくぅ~!」
傾きかけた陽の射す中で蒼い色の浴衣を着たイブキが振り返って後方に向かってそう声をかけながら、手招きする。
「ちょっと……そんなに急がない」
黄色の浴衣を着た月夜が慣れない草履と裾を気にしながら歩きにくそうに声を返す。
「だってオマツリだよ! オマツリ!!」
イブキが瞳をキラキラと輝かせそう力説する。
「――ホントはカレシといくのがいっちばんなんだケド……」
「悪かったわねウチと一緒で」
イブキに追いつくと、呟きに対してそう洩らす。
「おこづかいももらちゃったし、まずはどこからセメよ~かな」
イブキが袖を捲りほっそい腕を露出させながら、
「う~ん……まずはあっこかな――」
「そだね、テ~バンだもんネ」
「そうね――じゅるり」
「キンギョたべちゃうのっ!?」
「ウチはイカ焼き屋想像してたんだケド……」
「イブキさんはきんぎょすくい」
「え~! まずは焼き物三連星でしょ! イカ焼き、タコ焼き、おこのみ焼き」
「え~! まずはワナゲとシャテキでたかいものからソ~ドリじゃないの?」
祭りの楽しみ方にかなりの差がある二人だった。
射的の出店でやたら精巧な作りのドラグノフを構えながら、
「う〜ん……ゼツミョ〜なバネのよわさ、ギッリギリおおものがたおれないイリョクにチョ〜セ〜されてる……そっだ! ねぇ月夜」
浴衣が乱れるのをお構いなしのアグレッシブなイブキは後ろで見ている月夜に声をかける。
「ふぇ? ふぁに?」
そこには――両手にもったイカ焼きを左右交互に食べてる月夜がいた。
「いや……やっぱすいいや……のりだすからおさえてもらおうとおもったケド……タレがつきそ〜だし……」
なにかを諦めた表情でそう言いながら、ドラグノフの銃口に弾であるワインコルクを詰める。
「ぬう……このワっかゼツミョ〜にオオガタヒンがかどにひっかかるな……とるにはひっかからないよ〜に『スポ』っとカンゼンにくぐらせるしかないなぁ〜……でもこのデミセのコウリョ〜じゃ……そっだ! ねぇ月夜」
上を向いて抑えられた出店の照明を見ながら、
「ずず――ずずっ?」
妙な音で返事をされそっちを見るイブキ。
そこには――
大皿に載った焼きそば啜る月夜の姿……
「いや……やっぱしいいや……そっちもいそがしそ〜だし……」
容姿が整った月夜がなぜ男性に声をかけられないかわかった気がしたイブキだった。
「キンギョすくいはサインコサインタンジェントをつかうんだっけ?」
濡れないように浴衣の袖をたくし上げポイを持ったまま、本人もわかってるもかいないのかそんな事を口にする。
「ねぇ月夜――サインコサインタンジェントってな〜に〜?」
「はふはふ――はふ?」
3段重なった笹皿に盛り付けられたまんまんるのタコ焼きを頬張ってる月夜を見た瞬間、
「いや……なんでもないよ……」
そういってポイを構え集中する。
そして帰り道――
「あ〜たのしかった〜」
PS4やその他高価そうな物と金魚を持ったイブキと、
「あ〜食べた食べた」
チョコバナナとリンゴ飴をもった月夜が家路に着く。
「「またライ年もこよ〜ネ」」
楽しみ方はど〜あれ満喫できた二人の夏イベントであった。
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