ヒュードラン

翔馬

序章 始まりの襲撃


 怪物モンスターたちが大陸の覇者となろうとする時代が来る。世界に闇が訪れ、多くの命が散りゆく時代だ。しかし、希望を捨ててはならない。ドラゴンの力を持った二人の龍人ヒュードランが世界に光を取り戻す。

   ーー神霊師しんれいし シャルレンドの予言--



「ハァ、ハァ…」


 少年は母親と思われる女の人に連れられて走っていた。


「母さん…どこへ行くの!?みんなを助けなきゃ」

「もうこの町は無理よ。神霊師がいない今、怪物モンスターを倒せる力を持つ者はいないわ」


 二人の後ろからは、ドタドタと怪物モンスターの足音が聞こえる。町の守りを突破してしまったのだ。町のみんなのことを思い、少年は顔が青ざめた。


「レイト、あなたは生きなきゃいけないの。あなたはあの人の血を受け継いでいるのだから。そう、これからが始まり、あなたは信頼できる人を見つけなさい」


 そう言われ、少年は壁に叩きつけられたと思った瞬間、壁がくるりと回り、隠し部屋に入った。レイトと呼ばれるその少年は突然のことに呆然とした。


「母さん!母さん!早く!」


 レイトは壁の向こうにいる母親に呼び掛けた。


「私はいけないわ、あの人の代わりにあなたを守らなきゃいけないもの。レイト、もし信頼できる人を見つけたら、本当の名前を伝えなさい。レイト:    :ロディア、それがあなたの封印の鍵よ。その人を守るために強くなりなさい」


 そこから先はもう聞こえなかった。怪物モンスターが近づいてきていたからだった。


「母さん…どうしたらいいんだよ…」


 ズガン、ドゴンと怪物モンスターたちの暴れている音が壁越しに聞こえ、母が無事なのか確かめに行きたくなる。しかし、隠し扉はこちらからはいけないのか戻ることができない。音を聞かないように耳を塞ぎ、壁を背もたれにしてしゃがみ込んだ。そして、すぐに疲労と緊張から眠りの世界へと旅立った。


********************


「こりゃ酷いな。生きている奴、一人もいねぇんじゃねぇのか?クレイ」


 数刻後、町にある集団が到着した。町の状況を見てリーダーと思われる男が隣にいた少女に呟いた。この集団の中にいる唯一の少女だ。


「ここら辺に気力オーラは感じない。けど、怪物モンスターが生き残っている可能性を考えたらほかっておくのは危険だよ。それに生き残ってる神霊師がいるかもしれないし…」


 クレイと呼ばれた少女はその男の呟きに答えた。


「マリスたちは町の中を見回ってきて。私はあの城を確認するから」


 クレイがそう言うと、マリスと呼ばれた男はわざとらしく驚いた。


「クレイがいないと生死判断できねぇんだけど」

「それぐらい自己判断でしょ。マリスたちなら大丈夫」

「そっけねぇーな」


 クレイとマリスはそこで話を止め、集団は町へ散らばり、クレイは町の中心にある城へと向かった。


「町には誰も生きてはいないと思うけど…」


 クレイは完全に散らばった集団を見つめて呟いた。そして、町の象徴である城を見る。


「巨大な力…誰かが“失われた力ロストパワー”を使ったのかな…?」


********************


「ここがレッドタウンの城…」


 城の中にも怪物モンスターたちは侵入していた。しかし、全員死んでいる。クレイは死んでいる怪物モンスターたちを避けながらある通路に入った。そこには女の人が死んでいた。彼女の姿は不思議なほど綺麗だった。寝ているのではないかと錯覚するほどに…


「彼女が“失われた力ロストパワー”を使ったのか…“自己犠牲絶対結界ダイシールドシェル”かな。しかし彼女は人間だ。ということは、近くに龍人ヒュードランがいるはず…」


 クレイがその通路を丹念に調べていると、ある場所を触った途端壁が回転して、中に引き込まれた。


「痛った~…ここは隠し部屋?」


 倒れたときに打ち付けた頭を抑えて周りを見回す。そして不思議な気力オーラを纏った影を見つけた。影はクレイに気づき、怯えている。


「何?誰!?」


 その影はクレイと同じぐらいの少年だった。


「見つけた、“自己犠牲絶対結界ダイシールドシェル”の対象者。私はクレイ:アレク。大丈夫、私は君の敵じゃない」

「クレイは何者?」


 クレイが人だとわかったからなのか少年に張りつめていた緊張が少し解けたようだ。


「私は神霊師集団『ブラスト』の一員。この町に怪物モンスターたちが現れたと聞いて生き残っている人がいないか調べていたんだ。ねぇ、君の名前は?」

「俺は…レイト:ロディア。なぁ、神霊師ってことは怪物モンスターたち、どうなったんだ?町のみんな、母さんは?」


 クレイが神霊師と言ったのが引き金だったのか、レイトは町の様子を問いつめた。


「町の人たちも、怪物モンスターも全滅。君が唯一の生き残りだ。あなたのお母さんが“失われた力ロストパワー”、“自己犠牲絶対結界ダイシールドシェル”を使って全てを終わらせたんだ」

「みんな…死んだ?母さんがやった?…ダイシールドなんとかって何だよ!」

「“自己犠牲絶対結界ダイシールドシェル”、自分の命を引き替えにして対象者の命をねらう敵を殺す、ドラゴンが持つ“失われた力ロストパワー”の一つ。人間であった彼女が使えたのは、彼女がドラゴンの愛を受けていたからだ。つまり君は龍と人間の間に生まれた子供…龍人ヒュードランだ」


 龍人ヒュードラン、それはこの世界に最古から存在するドラゴンと人間の間に生まれた子のこと。龍人ヒュードランたちはドラゴンの力を受け継ぐという。その力は神に勝るとも言われ、人々から忌み嫌われた存在である。


「お…俺が龍人ヒュードラン?そんなこと、母さんは一度も…」


 突然の告白にレイトは動揺する。まあ突然自分が龍人ヒュードランだと言われて信じられる方がおかしいが…。


「真実だよ。現に君の気力オーラは人とも、怪物モンスターとも違う。まだ完璧に覚醒しているわけじゃないから自覚がないのもわかるけど」


 クレイはレイトに近づき、ある種の力を送った。


「グッ…何をしたの?」


 クレイが送った力を受け取ったレイトは少し痛みを受けたようだが何とか堪えた。しかし、顔は苦痛に歪んだままだ。


「私の力を送った。覚醒するかなと…どう?変化なし?」

「わからない…っ!!」


 次の瞬間、レイトの身体に変化が起こった。茶色だった髪は白く光り、黒い目は血のように赤く、極めつけは膝から足首にかけて白色の龍の鱗が現れた。レイトの龍人ヒュードランとしての本来の姿だ。


「白い鱗と髪、瞳は血のような深紅、それにこの気力オーラは…十二龍トゥエルブドラゴンズ白龍ホワイトドラゴンの主ドライトだね。まさかの彼の子だったとは…」

「…クレイの回りに何か見える」


 深紅の目はドラゴンにしか見えない気力オーラをしっかりと捉えているようだ。


「これが気力オーラ。どんな生き物にもあるものだ。これはどんな者でも消すことができなくて、ドラゴンの目を持っているものにしか見えない」

「クレイは黄金色?綺麗…」

「そこまではっきり見えるなんて…やっぱり主の血は違うか…」

「なあ、さっきから主とか言っているけどどういうことなんだ?俺の父さんがドライトとか…」

ドラゴンには十二の種類があってそれぞれ主と呼ばれる王みたいな存在がいるんだ。白龍ホワイトドラゴンドライト、黒龍ブラックドラゴンドラーク、赤龍レッドドラゴンドラッド、桃龍ピンクドラゴンドランク、橙龍オレンジドラゴンドランジ、黄龍イエロードラゴンドラロー、緑龍グリーンドラゴンドラーン、青龍ブルードラゴンドラルー、藍龍インディゴドラゴンドラディゴ、紫龍パープルドラゴンドラプル、虹龍レインボードラゴンドラボー、そして全てをまとめる神龍ゴッドドラゴンドラキール。レイトはその白龍ホワイトドラゴンの血を受け継いでいるんだ。君の本名はレイト:ドライト:ロディア、そうでしょ?」


 クレイがその名を言ったとき、レイトの中で何かが弾けた。それはドラゴンの誓約だというのをレイトは知らない。ただ、本能のままにクレイに跪いた。


「そうだ。ねぇ、クレイ。君の本当の名前も教えてほしい」


 レイトはクレイの目を見つめながら無意識に呟く。


「!!…私の名はクレイ:ドラキール:アレク。神龍ゴッドドラゴンドラキールの娘」


 レイトのそんな姿を見て、クレイも本能のままに本来の虹色の髪と目、肩から肘にかけて龍の鱗を現し、レイトの手を取る。


「クレイ:ドラキール:アレク。僕は誓う。如何なる闇も切り裂く光を君に与えると…」

「レイト:ドライト:ロディア。私は誓う。如何なる敵も打ち砕く力を君に与えると…」


 誓約の言葉を二人が述べた瞬間、二人を光が包んだ。十二龍トゥエルブドラゴンズから認められたドラゴンの紋章がレイトは左胸に、クレイは右胸に刻まれる。


   ーー二人の物語はここから始まったーー 

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ヒュードラン 翔馬 @shomatsukaze

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