◇四大を納める器



 四大陸───地界が誕生したのは数千年も前の事。

 元々この世界に地界や外界などの区切りが無かった時代に起こった、変動異変が原因と言われている。その異変は時の流れで形を変え【シンシアと十二の邪神かみ】という御伽話として今の世にもひっそりと残されている。


 この、地界と呼ばれる四大陸が誕生する際に四大が各大陸に根付く形で宿り、生命力の循環を行った事により今の形が完成した。



「はてさてほいほい、としての完成度はどんなもんナリかねぇ〜だっぷーあぷりこちゃん」



 既に地殻から脱していたフローはイフリーの首都でありながらも今は破損が目立つ街【デザリア】で【魔結晶塔マテリアルタワー】の出現を待った。





 子供のような外見、サイズは子犬のような小ささだが浮遊するそれは微かな赤色を発光させていた。


『最近うるさいよ〜? 何してるの?』


 大アクビを混ぜながら重いまぶたをお仕上げる。

 想像よりもだいぶ違う、しかし想像よりもハッキリした姿を持っているこの存在こそが四大精霊の炎【火炎の四大 イフリート】だ。


「お、思ってた姿と全然違う......」


「だ、だよね......もっと大きくて怖そうなの想像してたよボク」


 ワタポ、プンプンはイフリートの姿に疑いさえ覚えている。すると、


「でも凄いマナね」


「量も濃さも密度も......桁外れって言葉じゃ足りない、デタラメすぎるわ」


 ひぃたろ、リピナは外見より内側に宿る生命力マナを視ていた。

 2人が言うように、デタラメがすぎるマナを小さな身に宿している。四大と言われれば疑いようのない程圧倒的な量を。


「......イフリート。眠っていた所悪いが、地上の温度をどうにかしてくれ」


 トウヤはイフリートの容姿に一切触れず、目的をクチにした。どこかピリつく雰囲気を醸すトウヤにカイトも心当たりがあるらしく、しかし、


「トウヤ、一旦落ち着け」


 友人トウヤとイフリートの間に入るようにカイトが立つ。

 この2人は───正確にはだっぷーを含めた3人となるが───イフリートという言葉に良い印象を持たない。

 十年程前、トウヤとカイトはこの大陸で、デザリアで、騎士を目指していた。

 デザリア騎士団───軍だ。

 その入隊試験こそが2人の今を決定した大きな出来事であり、地図から街がひとつ消滅した。


『......』


 イフリートはトウヤの気配をじっと観察し、そしてゆっくり炎を燃やし最終的には全身が炎に包まれてしまった。


『───この姿で勘弁してくれる?』


 子供のような姿だった子供より小さなイフリートは人間ほどのサイズへと変わり、何よりも姿が豹変していた。イフリート、と言えばパッと思い浮かぶような姿と人間を混ぜたような、そんな姿に。


「姿なんて何でもいい。とにかく温度をどうにかしてくれ。そのために俺達は地脈ここまで来た」


『......キミはさっき、トウヤって呼ばれてたよね?』


「あぁ」


『トウヤは優しいんだね』


 にっこりと笑うイフリートはそのまま『だいたいわかった。ごめんね』と一言告げ、地脈から流していたマナを調整する。空中に手をかざしぐるりと手首を回した途端、漠然と何かが変化した、と感じ取れる程マナの流れが変わった。


『これでもう元通り......だけど、四大が起きてる事自体がとてもとても、とても異常な事なんだ。外では何が起こっているの?』


 イフリートは正座し、話を聞く姿勢を見せた。

 四大精霊という御伽話でも神格のような偉大な存在が正座した事にプンプンはツッコミを喉まで押し上げるものの、ひぃたろと視線が合い、ワタポに肩をぽんと叩かれ言葉を飲み込んだ。


「外では色々な事が起こっていて、何を話せばいいのか......俺も全部知ってるワケじゃないんだ」


 カイトが困ったように言うと、隣でだっぷーが再び反響するような声音を出す。


『イフリー大陸では共喰い、それも覚醒種アンペラトリスが暴れて、その衝撃でイフリートが起きたんだと思うよぉ。他には世界樹が死んで、シルキ大陸で夜楼華が正常に働いてる』


「だっぷー!?」


『大丈夫だよぉカイト』


 二度目の異変に、カイトや他の者達は戸惑うもののワタポだけは鋭くだっぷーを観察した。能力や魔術ではない何かが今だっぷーに起こっている事は間違いない、と。


『世界樹が死んだって......それに、夜楼華がマナの循環や魂魄の帰還もしているって事?』


『そうだよぉ。それと───』


 この瞬間、一瞬だが確かにだっぷーの何かが変化した事をワタポは見逃さなかった。

 マナや魔力などではなく、気配や雰囲気よりももっと奥深くの、何かが。


『───魔女、人間、魅狐、半妖精が同じ時代同じ場所にまた、、集まった』


『え......』


「───だっぷー!?」


 ここでだっぷーの意識が切断されたのか、またも意識を失い倒れてしまった。今度もカイトが抱き止めたものの、


「......おい、おい! だっぷー!? リピナ! だっぷーが息をしていない!」


「んな!? ちょっと───本当だ......っ! ここに寝かせて! 早く!」


 次から次へと起こる未知に理解が追い付く事もなく焦り慌てているとイフリートがゆっくりと浮遊し、だっぷーの前へ。


『やっぱりこの人、人間じゃないね? こんなの初めて見るよ......まさか、四大を納める器?』



 イフリートは眼を細め、だっぷーの顔を覗き込みながら呟き、手をかざした。

 すると呼吸はゆっくりと戻っていった。




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