◇地殻と地脈の最深部



 脈に動機する、全身をきしませる痛み。

 強烈な目眩や吐気もあり、わたしは短くても数分......長ければ数十分、地殻で激痛を必死に押し殺し、やっと地獄から解放された。


「魔女の魔術を使えば毎度こんななるのか? 勘弁しろよクソ」


 と心の底から文句を言える程度には回復し、地殻の奥にあるであろう地脈へ向かう。

 焼けた上衣の袖が紅玉の魔女への怒りを再沸騰させる中、それでも吠え散らかしたりせず無言で進む。上衣をフォンポーチへ収納しつつ体力回復ポーションを取り出し、それを飲みながらもグングン進む。

 すると、


「───んぉ? おいおい......動物園にしちゃ種類がカスすぎねーか?」


 広く抜けたエリアでわたしを待ち受けていたのは狼モンスターの群れ。

 数匹がわたしに気付き腹で唸り声を揺らし、群れ全体へと伝わる。


「道は一本しかなかったし......アイツら喰われたのか? んなら、こん中に腹壊してるヤツいんだろ───!?」


 冗談で放った言葉だが、わたしの視界が地面に並べられている見覚えのある武器を捉える。

 見覚えのあるレベルではなかった。間違いなく、知っているヤツの武器。


『......この武器に見覚えがあるのか?』


 群れを分けて現れた大型の狼が、人語を扱いわたしへ話しかける。普段ならこのタイミングで、コイツ等が喰った、と決めつけて即戦闘に入るが......今喋った狼の雰囲気がどこかコイツ、、、に似ていた。


『安心しろ。持ち主達は──この武器と、ここに馬鹿そうな顔の魔女が来たら足止めをお願いするわ、と言い残し先へ進んだ」


 クチの動きはほぼ無い。でも人語は本物。

 微かに響く声音で......意思を人語へ変換して放っているような......。

 なぜそう思ったのかは、わからない。でも、コイツは敵じゃない。


「......なぁ、お前は?」


『炎狼王、と呼ばれている』


「そうか。わたしはエミリオ、魔女だ」


 名乗りつつメインとサブの剣を抜いた。一瞬で警戒を強める犬───狼達を無視して数歩進み、武器をデカ狼へ見せるように地面へ突き刺す。


「デカ狼。お前コイツ等の友達か?」


 霧薔薇竜の剣【ブリュイヤールロザ】と対魔竜の短剣【ローユ】を見詰めるデカ狼。

 わたしはそのまま数歩下がり「好きなだけ見てくれ」とデカ狼へ伝え、その場に座って戦う意思が無い事を周りの狼にも伝える。


 四大、イフリートの方はみんなに任せていいだろ。先へ進んだなら何かしら話をしてくるだろうし......勿論わたしも四大に会ってみたかったし、今から突っ走って合流するのも手だ。

 でも、このデカ狼の方がわたしにとっては重要な気がする。


 数十秒間たっぷりと剣を観察したデカ狼。

 ため息のような呼吸を一度挟み、言う。


『貴様の言う友達とは少々意味が違うかもしれぬが』


「エミリオだ。貴様じゃねーよ」


『そうだな。エミリオの言う友達とは少し違うが、顔見知りで間違いない』


「そうか」


 なぜこんな事を聞いたのか自分でもわかっていない。でも聞きたい事はこれじゃない。

 次の質問を喉までお仕上げたタイミングで、先にデカ狼が質問を飛ばす。


『貴様が......エミリオが殺したのか? この者達を』


「短剣の方は殺してない。剣の方は長くなるから端折はしょるけど、結果だけ言えばわたしが殺した」


 霧薔薇竜は......ピョンジャピョツジャはわたしが巻き込んだようなもんだ。あのまま霧山に居れば今も生きていたかもしれない。


『経緯を聞かせてくれ』


「つまんねー話になんぞ? いいのか?」


『構わん。この姿を見て愉快な話になると思う輩はおらぬ』


 デカ狼はゆっくりと座り、わたしの話へ耳を傾けた。





 エミリオが炎狼王と遭遇した頃、地脈でもついに四大イフリートが姿を見せる。

 最深部と思われるエリアの中央に見たこともない鉱石で作られた階段。その上には祭壇が。

 階段は数名が横並びでも登れる広さがありる。祭壇には赤い光。


 手を伸ばして光に触れるのは簡単だが、誰もそれをしようとしない。ひぃたろは数秒困ったようにし、とりあえず言葉を投げかける。


「......炎の四大イフリート、で間違いないわよね?」


 この光が四大なのか? と誰もが思った直後に返事が。


『......うーん? だれ?』


 響いた声に眠っていただっぷーが瞼をお仕上げた。


「......───イフリートだ」


「だっぷー? もう無事なのか?」


 カイトはゆっくりだっぷーを降ろし、眼をこするだっぷーは「うん、平気だよお」と答える。

 赤い光がふわふわと点滅するように揺れ、そして現れる。


『......ふぁ〜〜っ、おはよう』


 大あくびをして、眠そうな瞳を小さな手で擦る、とても小さな子供が。



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