◇地脈へ
今を生きてるのは私達だ。私達は今のやり方で今に抗う。
例え相手が何であろうとも。
決意と覚悟を燃やし、臆する事なく炎狼王の前に立つ
他のメンバーも同じ想いで一歩も退かず地脈へ進む意思を見せる。
『......貴様等が行おうとしている事の意味を、理解しているのか? 四大に会ってどうする?』
炎狼王も勿論退かず、唸るフェンリル達を黙らせる事もせず立ち塞がる。選択を誤ればこの場で戦闘になる。そうなればひぃたろ達の勝ち目は薄い。
それでも───その程度では、覚悟も決意も微動だにしない。
今も、今までもそうだった。
抗うには大きすぎる現実を前に、根深すぎる現実を前に、それでも立ち向かってきた。
何よりも、今この瞬間も魔女の相手をしている
「会ってどうするかは、会わなければ答えられない。最後だ───そこを退けろ炎狼王」
互いの圧力が衝突するような、重く苦しい空気の中でジリジリと戦闘へと態勢が移行する。
覚悟を決めるしかない、と互いの脳裏に浮かんだ直後、魔女の魔力が膨張するように色濃く駆け抜けたかと思えばすぐに
「───!? だっぷー、エミリオは?」
ひぃたろはホムンクルスのだっぷーへエミリオの現状を聞くように質問する。ただの感知ではなく、マナを明確に感知するだっぷーの特性を期待しての質問。
「......エミーはいる! 他の魔女はいないよお!」
その言葉に安堵しつつもこの場の状況は変わっていない。
油断なく気を張り詰めていると炎狼王はだっぷーへ、
『......お前は “あぷりこ” の遺産か?』
どこかで聞いた事のある名を告げた。遺産、という意味はわからない。しかしだっぷーは言い切る。
「違うよお? 私は、冒険者のだっぷー。ここに来た目的もイフリー大陸を救いたいから。凄くお世話になった国が困ってるのに、見てみぬフリはできない」
このホムンクルスもまた、確かな覚悟を瞳に宿していた。
周囲に流されているワケでもなく、個人的な目的のためでもなく、言葉通りの覚悟を。
「......だってよカイト。お前はどうだ?」
だっぷーの言葉を聞いて発言したのは炎狼王ではなく、トウヤだった。
相変わらずどこか冷めたような雰囲気を持つトウヤだが、今の一瞬だけは人間らしい雰囲気を醸し、友人と他愛ない会話をするように。
「見てみぬフリはできない。と言われればもう、それこそ見てみぬフリは出来ない。お前もそうだろ? トウヤ」
見て見ぬフリをして騎士なるなら───俺は騎士になれなくていい。見てみぬフリをする人間になりたくない。
昔、トウヤがカイトへ言った言葉が蘇るように。
2人はだっぷーの言葉を聞き、懐かしい気持ちと共に地脈へ進む事を確定的なものにした。
この地で、イフリー大陸という国で、2人の若者は夢を追い、理不尽な現実にその夢を奪われた。
それでも今を生きている。今を必死に。
「ボク達が四大をボク達の理由でどうにかしようとしたら、キミ達もキミ達の理由で好きにしていい。だから今は通してほしい」
魅狐は敵意を捨て、炎狼王へ数歩近付く。
ワタポとリピナは武器を地面に置き、魅狐プンプンへ同調するように頷いた。
この場で武器を手放す行為は自殺ではなく、放棄に近い。
ひぃたろもだっぷーも、カイトとトウヤも同じように。
『......狂っているのか? 貴様等は何がしたいのだ?』
「はじめに言ったじゃない。四大に会って、この気温をどうにかしてもらうって。こんな温度じゃ休めるものも休めないわ」
敵意もなく、ただ普通にひぃたろは言った。
嘘もなく、本心で。
『......魅狐の。貴様の言った通り、貴様等が四大を利用するような真似をとれだ、この国を消す。いいな?』
脅しではない。この炎狼王にはそれが出来る。
「うん! ボク達も利用するつもりはないし、そうは絶対にならない。でもキミがそれで納得するなら約束するよ」
『......イフリートは地脈の先で眠っている。行け』
唸っていたフェンリル達が道をあけるように下がり、最後に炎狼王が道をあける。
「また戻ってくるわ。それまでこの武器と、ここに馬鹿そうな顔の魔女が来たら足止めをお願いするわ」
『わかった。さっさと行け』
ひぃたろはフフ、と笑いフェンリル達の前を堂々と進み、地殻から地脈へと入っていった。
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