◇三次魔術



 炎属性に少しの風魔術を混ぜる事でそれは豪炎魔術となる。水属性に少しの地と火を混ぜる事で水銀魔術。


 豪炎ならば詠唱時に炎属性よりもより強い魔力を土台に詠唱しつつ、その土台に微量の風魔力を注ぎ混ぜる魔女魔術の技法であり、魔女ならば当たり前に行う技術。

 雷属性や氷属性などが二次属性としてポピュラーであり入り口とも言われているが、一次魔術とは違った技術が必要になるので難易度は一段上げられる。

 豪炎魔術は炎と風なので二属性、つまり二次魔術。

 水銀は水、地、火の三属性なので三次魔術。


 こんなものを普通の詠唱速度でぶっ放してくるあたり流石は四大魔女だ。あの水準で扱うには相当な修行が必要になる......が、わたしは特別だ。

 わたしの能力ディアは1回の詠唱で複数の魔術を用意出来る多重詠唱や多重魔術といった所か、そんな能力だ。

 神経を削るように魔力を微調整して織り交ぜる事をしなくても、別々に詠唱して最後に混ぜれば余裕で出来る。が、それだと必然的に数が減る。


 さっきも言ったが、わたしは特別だ。


 魔女の魔力─── 魔女力ソルシエールは全ての魔女が手にする事が出来る上質な魔力。

 その魔女力をさらに色魔力ヴェジマというものにわたしは変換し扱う事が出来る。

 魔力を魔女力にランクアップさせる事は全ての魔女が出来る。しかし色魔力は全く別の話。

 そもそも色魔力を持って生まれているかが重要で、持っていなければ努力云々の話ではなく不可能だ。

 そして色魔力を持っているからと言ってわたしと同じ事が出来るかどうかだが、それも実質不可能。わたしも他の色魔力持ちと同じ事は多分出来ない。

 色魔力ヴェジマは名前の通り色を持つ魔力で、この場合の色は属性。




 最上級魔術が周囲を気にする様子もなく衝突し、相殺時に炸裂。

 魔術の余韻と魔力の残り火が充満し、すぐに消えてなくなる中で、わたしは攻撃的な笑いを浮かべ2人の魔女へ言う。


『おいおい、どうした? 転んだにしては大怪我だなぁ? ん?』


 ラヴァイアもフローも、片腕が焦げる形で負傷していた、と言ってもわたしがやったんだが。

 最初にクチを開いたのはフローだった。

 眼障りウザったいグルグル眼鏡を暗くし、わたしを見て言う。


『......色魔力ヴェジマを持ってる事は予想してたっちゃ。でも───その色はずるいないでしょ』


 後半は素の声で───いつものふざけ散らかした雰囲気のない声で、わたしの色魔力へ苦情を入れる。この声が聞けただけでもぶっ放した価値はある。

 次にラヴァイアが、


『エミリオちゃんが色魔力? 魔女力ソルシエールの時点で魔女あたし達の間では速く消すって判断が出たのに......色魔力なんて冗談じゃない』


 余裕を削られたような声でそう告げた。

 あの声と顔を見れただけでも最高の結果だぜ。


『冗談なんて言ってねーぞ? お前らナメてっからちょっと本気出しただけだぜ? 次はもうちょっと本気で行くぞ』


 勿論これはハッタリだ。

 今のも十二分に本気だったが、この流れになればわたしお得意の言葉魔法言い回しで揺らして揺らして、揺らしまくれる。


 次の魔術をどう使ってやろうか、と考えていると、


『わたしはイチ抜けするっちゃ』


 フローはいつものナメた雰囲気で撤退すると言い出した。


『あ? テメー逃がすワケねーだろクソ眼鏡』


『んやや、逃げさせてもらうナリ! ちょーっと......いやだいぶ厄介面倒になったナリねぇエミリオちゃん』


『............あたしも今は逃げさせてもらおうかな。四大を前にして諦めるのは嫌だけど、準備不足で負けるのはもっと嫌だし。短杖これじゃ頼りなさすぎ』


 ラヴァイアは短杖を燃やし、塵となったそれをひと吹きで飛ばしもう一度わたしを見る。既に2人の瞳に魔煌まこうはない。

 帰ってくれるなら最高だが───ここでただ見ているだけともいかない。最後の最後までハッタリをかますのがわたし、エミリオだ。


 既にやる気の無い2人を前にわたしは水と地の中級魔術を放ち、本当にやる気を失ったのか探る。

 ラヴァイアには水、フローに地。


 するとラヴァイアはさっき使った “スピネルフィア” という魔術で対応しつつ『次はこっちも本気でいくから』と冷たい声を残し炎に包まれて消えた。空間魔法の応用かラヴァイアが考案した魔術か不明だが既に魔力の気配さえなくなっていた。


 フローは地属性魔術を “自身の影で飲み込む形で” 消滅させ、今もまだわたしを見ている。


『おい今の......影のやつって』


『ん? あぁ、これナリ?』


 わたしを見詰めていたフローはわたしの言葉に微量のラグを挟みつつ反応し、石ころを拾って上へ放り、足下の影を伸ばし落下する石ころをその影に落とし飲み込んだ。

 これは───トウヤの導入能力ブースターにそっくりすぎる。


『知りたいナリ? わたしもひとつ知りたい事があるっちゃ。情報交換しないナリか?』


 提案された情報交換にわたしは警戒する。この眼鏡が交換、、に応じるワケがない。嘘の情報を渡してこっちの情報を持っていく事くらい余裕でわかるぜ。

 だからこそ、ここは応じるべきだ。


『いいぜ───でもコレ、、で情報交換な?』


 術式を詠唱し、わたしとフローを飲み込む領域魔術を展開。

 領域はルールを術者が決める事が出来て、そのルールによって要求される魔力量が変わる。


『ルールは嘘をつかない、だ。お互い一回で術式は消滅するように領域を張ったからサクっと行こうぜ』


 本当にサクっと行かなければそろそろまずい。


『わたしの友達フレの能力を何でお前が使える?』


 一回、という術式ルールの中で影がトウヤの能力かどうか確認する言い方を混ぜるのは危険。それに答えれば一回というルールが消化されてしまう。だからこそ、もう決めつけて発言してしまえばいい。


『わたしの能力がそういう能力ナリ! さて次はこっちの番ナリねぇー!』


 ......え? 今ので終わり?

 嘘だろ! ふざけんな! なんだこの術式!


『こっちも簡単な答えでいいナリ。YESかNOでも大歓迎!』


『そんくらいしか答えてやんねーよ始めから』


『よきよき、んじゃいくよ───深淵を知ってるのか?』


 今までにない圧力と冷たさを持つフローの声に一瞬驚いたが、それを表に出さずわたしは、


『知ってる』


 と答え、領域は消滅した。

 すぐに何かしてくる、と備え構えていたがフローは『了解りょ』と言って空間魔法を展開し、その中へあっさり消えていった......。



『............』



 警戒状態のまま数十秒その場に残り、わたしは魔煌を解く。



「......───ッ!」



 わかっていた事だが、強烈な痛みが押し寄せ全身を軋ませる。

 魔女の魔術反動だけなら余裕なんだが......アレ、、に片足を突っ込んだ反動も同時となれば数分動けなくなる。


「ッ......これ、詳しく聞かなきゃやべーな」


 後日もう一度アレに───フローの言う深淵とやらに行く事を決意し、今は少しだけ休む事......休まないと動けないんだけどね。




「............吐き、そ......オエェ......」



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