◇ヘイザードの記憶
ギルド【アンティルエタニティ】のマスター。
小柄というより子供な容姿から【リトルクレア】と呼ばれている
感知系が過敏となった今のわたしはクレアが押し込んでいる
あれは人ひとりが抱きかかえていいモノではない。
集めに集めた奇病を凝縮したうえで濃度の高い部分を抽出し、それを無理矢理押し込んでいる。そんな印象を受けたと同時に、胸焼けなんて言葉では足りなすぎる吐き気が。勿論全身全霊で吐き気を抑制したが、とてもじゃないが話に耳を向けることが出来なかった。
ので、この後わかりやすく説明して貰うべくお馴染みのメンバーを捕まえて復習という名目で話を聞かせてもらうつもりなのだが───なんとまぁ意外な事が起こっている。
招集を受けた面々から【地殻部隊】と【魔結晶塔部隊】を選ぶ。そんなシーンで立ち上がり、
カイトが怒りの感情をここまで晒すのは珍しく、だっぷーもトウヤも、カイトの予想外な行動に止めに入るタイミングを見失っていた。
「なんだ?」
偉そうな椅子に偉そうに座るアグニはこれまた偉そうにカイトを見て言った。
「なんだ、じゃないだろう......あなたは
「あぁ。それがなんだ?」
「......ッ! ヴォルフフェンリルや炎狼王、イフリートの事も勿論知ってるって事だな? なら10年前の事件も知っているだろう? あなた程の存在が知らないワケが、いや、感知出来ないワケがない......なぜ、なんで見てみぬフリをした?」
怒りだけじゃなく、悲しみにも近い表情を浮かべ、カイトはアグニへ言葉を投げた。見てみぬフリ、というワードはここにいる面々にとってはそれこそ見てみぬフリが出来ないものだ。
神系の連中を縛るルールの複雑さはなんとなく理解しているが、そんなルールがあるんですね、で流せる程現実は可愛らしく収まっていない。
「10年前だと? 何があった?」
「ッ! ヘイザードという街で起こった陽炎事件だッ! 知らないワケないだろう? 街がひとつ消えたんだ、そこに住んでいた人もだ!」
今にも噛み付きそうなカイトの表情、逆立つように狼耳を荒立て犬歯を剥き出しにしつつも必死に自分を留めている姿に
こんなカイトを少なくともわたしは見た事がない。
「なぜ貴様がそれを知っている?」
「俺はデザリア騎士団の入団試験でヘイザードに居た......気温は一瞬にして上昇し、地面もまともに歩けない程熱気が湧き、ヴォルフフェンリルが現れて......俺は......ッ」
「それがなんだ? 俺様が助けなかったのが悪いとでも言いたいのか?」
「......は?」
「笑わせるなよ人間。俺様は神だが、貴様等人間が作り上げた神の像は困った時に都合よく助けてくれるといったものらしいが......なぜこの俺様が貴様等の都合で動かなければならない?」
「───なんだそれ......」
空気が逆巻き、重圧が広がる。
雲がカイトの感情に反応したかのように月を覆い隠し、影が濃く範囲を広げる。
「カイト!」
「落ち着いてえ!」
トウヤとだっぷーが妙な焦りを滲ませ、わたし達も同調するように焦り構える。SSS-S3の連中もカイトが醸す気配にただならぬものを感じ、臨戦態勢へと入る。
わからない。
何が起こるのかが全くわからないが、棒立ちでは命の保証が無い、とわたしの脳が警鐘を鳴らす。
「何が神だ......お前はただ偉そうにしているだけの無能だろ?」
「───貴様ァ、死にたいのか?」
今度はアグニが沸騰する殺意をカイトへ向ける。床がビリビリと痺れる程の殺意にカイトは怯む事なく睨み返し、犬歯を噛む。
次で間違いなく2人は衝突する。そして多分、近くにいるわたし達も巻き込まれる。
そんな空気が充満する中で動いたのは───
「一旦落ち着きなさい。でないと全員死ぬ事になりますわよ?
リトルクレアだった。
2人の間に入るように殺意の視線を横切り、奇妙に微笑んだ途端、首を絞められた鶏のような呻き声、喉を潰された動物の悲鳴のような奇声が無数に響く。
「女......貴様はとんでもないモノを持っているな?」
「えぇ。それはもう沢山持っていますわよ? おひとつどうです?」
尋ねるように言うリトルクレアへアグニは舌打ちし、椅子へ戻った。
すると呻きや奇声も薄くなり消える。
「色々思う事もあるでしょう。しかし、私達は今この瞬間をどうすべきか、この先......明日をどう迎えるべきか、それが何よりも重要ですわ。貴方......カイト、といいましたわね?」
「あぁ」
「ではカイトは地殻調査の方をお願いしますわ。先程の感じですとヴォルフフェンリルを知っているご様子でしたし丁度良いでしょう」
眉をピクリと動かし黙るカイトを見てもクレアは発言を引っ込めず進める。
「地殻側には多くて残り7名程。どうなさいます? 私は魔結晶塔の方を希望しますわ」
言い残し、クレアは下がる。
残りのメンバーはカイトが指名するといい、といった雰囲気が漂い、雲は流れ月が顔を出すまでの数分間、熱くなった頭を冷やすかのような沈黙が続いていた。
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