◇今は少しでも
魔女や人間、
クーデターなどが起これば必然的に敵と味方に分かれ双方に指揮者、つまり統括者が産まれる。しかし人間はそういった理由ではなく、人間が人間の国を複数持つ事で、人間の国の数だけ統括者が存在している。
そして、同種族で争う。
現在、人間の国は3つ。
ノムー大陸、ウンディー大陸、そしてイフリー大陸となる。シルキ大陸にも人間種族が住み暮らしているが、どちらかと言えばシルキは妖怪やアヤカシの国と言える。そしてそのシルキ大陸は今やノムー、ウンディーと同盟を結ぶ。
「───俺様が知らぬ間に、そんな事になっていたのか外は」
ワタポ達が泊まる───無断で休ませて貰っている───宿へずかずかと上がり込み、女帝戦で破壊されなかった酒瓶を瓦礫の中から拾い上げ飲む男性。名をアグニと語っていたこの男性こそが、現在イフリー大陸で最も統括者に近い立場にある。と、デザリア兵達は語っていた。
「ワタシ達ウンディーが国となった事は?」
「知らん」
そこからか、とワタポは肩を落とすもアグニ自身が興味を持っているらしく、現状を伝えるのは簡単だった。
どうやらこの男性、アグニは自分の興味の向いた話題は “一旦黙って聞く” という性格か決まりか、ワタポの現状説明を無言のまま聞き続けていた。その間ひとくちも酒を呑まず。
「なるほど......となればその無礼極まりない魔女が “エンジェリア” の娘か。その魔女が無茶を無理矢理に押し通した結果、他国との関係となる取っ掛かりを作ったように思える」
エンジェリア、と呼ばれる人物───魔女がエミリオの母親にあたる魔女なのか、ワタポ達は確認を持っていないため頷けなかったが、後半は頷ける点も多くある、と記憶を振り返り思った。
ワタポが今こうしてここに “ワタポ” として存在しているのは、間違いなくエミリオが関係している。
ひぃたろも、プンプンも、エミリオが当時の【ユニオン】でひと暴れし無様にも熱を宿す刀剣に貫かれ敗北した結果、ワタポがひぃたろとプンプンへと出会うきっかけになった。
だっぷーとカイトもエミリオという存在が間に入った事で2人は再会する事が出来、カイトに至っては呪いまで解け、人の姿を取り戻す事も出来た。
トウヤやシルキ勢も、そもそもエミリオが「金が無いから【夕鴉】と【夜鴉】という希少かつ高価な素材をシルキ大陸へ盗みに行く」という犯罪者めいた思考を湧かせ、迷わず行動した事によりシルキ大陸の存在が明らかとなった。
そこで【
性格的にも厄介で、やり方的にも厄介で、後の事など考えず行動し、困った時は人任せ運任せ。
世界が言う魔女の迷惑、とは違ったタイプで迷惑極まりない魔女。
「その魔女の話はまぁよい。女帝の件も貴様等が嘘をついていない事はわかる」
「わかるって......ワタシ達が打ち合わせしてそう伝えている確率もあるって思わないの? 女帝はもういないし、一部始終を見ていた人もいない」
「わかる。俺様を前にして嘘をつける輩は存在しない」
何を根拠にそんな事を強気に───得意気に言えるのか不明だが、信じてもらえるならそれでいい、とワタポは話を進める事を選択する。が、このアグニという男性は言動に似合わない視野思考の鋭さを感じていた。
どう切り出し、どう話を進めるか。
女帝がウンディー大陸とノムー大陸へ爆弾人間を送り込んで来た事実を切り出し、イフリー大陸に対する両国の印象を伝え、悪印象を払拭する機会として協力を仰ぐ......はダメだ。
ワタポは数十秒たっぷり考えるも、いい流れを作る方法がひとつしか思い浮かばず、それもアグニの答え次第では一撃で終わるとても策とは呼べない案。
しかしもう、それしか思い浮かばない。
「女帝の件とは別に、イフリー大陸のデザリアの地中深くで濃いマナ反応が出てる。その原因の半分はもうわかっていて、ワタシ達は───」
ここで初めて、アグニがワタポの言葉の途中でクチを挟んだ。
「魔結晶の塔、だろう?」
力強く、しかし平穏なトーンで放たれた言葉にワタポは眼を見開いた。
「知っていたの!?」
「当たり前だ。俺様を貴様等と一緒にするな。魔結晶の塔には名前通り魔結晶が眠っている。そして貴様等はそれを狙っている、という事だろう?」
「......うん、何としても手に入れたい。と思ってる」
小さく、しかし確かな熱を宿した言葉にアグニは鋭い視線を向けた。
何としても手に入れたい。この言葉がどの程度の重さなのか、どれほど重要な意味を持つ言葉なのか、今のアグニには計れない。ただ、今もイフリー大陸にワタポ達が居る事実が魔結晶の重要性を濃くしている。
「話せ」
「え?」
「貴様等がこの国に居座る理由と、なぜ俺様と対話を求めたのか───なにを狙っているのか、全て話せ」
やっと来た。とワタポは緊張する胸を一度落ち着かせ、話す。
魔結晶の使用方法とそれらを狙う【レッドキャップ】【クラウン】の危険度。
ウンディー、ノムー、シルキの関係とその関係にイフリーも含めた地界同盟を。
そして、
今はこの3つを正確に伝え、正確に認識してもらう事にワタポは全力を注ぐ。
そんなワタポの姿を見て、ひぃたろとプンプンは「全て任せよう」と頷き、宿屋を出る。
同席していても何も問題はないが、国が絡む話題は小難しく安易な発言が火種に、いずれそれが燃え上がり業火へと変わる可能性を孕む。
ノムーの代表───とはとても言えないが、今この場で唯一のノムー勢としてヒガシンが残り、カイト、だっぷーも残った。シルキ勢は全員が残り───白蛇は眠っているが───トウヤも眠っているのか不明だが座ったまま動く様子はない。
「頑張ってるねワタポ」
「そうね。人間だから───ってだけじゃないわね。本当に国を、地界を思っているからこその行動なのかもしれないわね」
「だねぇ......ワタポはいずれウンディーで騎士団長みたいな事するのかな?」
「冒険者の国で騎士は流石にないわよ。でも......そういう形で地界に立つのもいいと思うわ」
「ひぃちゃんは将来どうしたいとかあるの?」
「将来......? 将来、か......」
遠くの空がぼんやりと朝を運ぶ。
眼に見えているのに、途方もなく遠い空が。
「将来の事はまだ全然考えてないわ。今私達に何が出来るのか......それを考えた結果がワタポの行動なんじゃない?」
「今何が出来るか、か......なるほどなるほど」
半妖精の言葉に魅狐はうなるように考えた。
今出来る事、今すべき事。
そう考えると難しいが、自分がやるべき事、と考えれば答えは昔から決まっている。
モモカを止める───ちゃんと終わらせてあげる事と、リリスを......止める事。
自分が冒険者になった理由も、今こうして行動している理由も、全てこれだ。
「とにかく今は身体を休めるべきね。たった一晩でここまで疲労が溜まったのなんて初めてよ」
「だよねぇー! すっごく疲れた......」
思う事は各々あるだろう。
しかし今は、少しでも休息し回復しなければ魔結晶も何も取りこぼしてしまう。
妖狐が大アクビを天に向け、その姿に半妖精が微笑んだ。
今は少しでも身体を休めよう。
きっとそれがいいんだ。
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