◇消えた炎塵の気配
空間移動までしてわたしと
千秋ちゃんにも悪いが、今は【炎塵の女帝】を1秒でも速く消し飛ばしたい。
そんな心境の中でダプネが放った言葉。それが妙に引っ掛かる......言葉だけじゃない、ダプネの雰囲気も......。
腐れピエロの一員としてではなく、かと言って魔女という立場でもなく、イチ個人としてダプネは魔結晶を狙うと。そしてこの魔結晶自体もダプネの目的、ゴールではない。
「ダプネお前......何を狙ってる?」
小難しい内容をわたしにしても無意味という事はダプネもよく知っているハズだ。その上で小難しい言い回しをしたという事は、ダプネは今確実にわたしを見極めようとしている。
仲間になるか、敵になるか、の二択......いや違う。
使えるか、使えないか、の二択だ。
「一緒に来いエミリオ。魔結晶を集めてフローを利用して【虚無】を探し、それを奪う」
「............は?」
「魔結晶塔は全部で13あり、魔結晶は12個だったか......最低でも3、可能ならば6か7個は手にしたい」
「おいちょっと待てよ、結晶塔の内容はわたしも最近聞いた。クソピエロがそれを狙ってるってのも塔の話を聞いて予想出来てたけど、その
こんな話をしている暇はない。それは間違いないが、ここでこの話題を逃せば当分ありつけないとわたしの直感が警告する。
フローを利用して探し、奪う......ここも何か引っ掛かる。ダプネの言い回しだとこの【虚無】をフローも探してて......、、、虚無?
「詳しく話すつもりはまだない、わたしの考えまで予想しその上でどうするか───今この場で決めろ。エミリオ」
「......無茶苦茶だな。お前らしくない」
ダプネに対して引っ掛かると思った理由はコレだ。そして雰囲気の変化は
「なぁダプネ。わたしがお前の母魔女を殺したって事はもういいのか?」
さぁどうだ?
殺したままの記憶か、それもとも真実の記憶か。
「......もう気づいてて、わかってて聞いてるだろ? お前と同じ、わたしも記憶凍結、または記憶改竄がかけられていた。それをフローが消し、わたしもやっと残りの
そっちはクソメガネかよ。
「そうか」
「お前の母魔女がわたしの母魔女を殺したんだろう? 状況が状況だったから仕方ない......それにお前の母魔女───エンジェリアが呑まれたのはメリクリウスを殺す際に能力を使ったのが原因だ。わたしとお前に記憶魔術をかける直前に能力人格が介入した事で、厄介な記憶を刻まれた」
「そうなの? そこまで詳しくは知らんかった......けど、今更どーでもいいやそんなの」
わたしの記憶魔術は消えた。ダプネのも消えた。過去を知った所で今更どうにもならないし、現実が現実なだけに真実を知った所で天魔女は変わらない。
「今のエンジェリアは確実に動くぞエミリオ。魔結晶だけじゃなく、他のモノも狙い集め、地界も外界も天界さえ自分のモノにしようとしてる。実際既に動いたからな」
「動いた? あのクソババアが?」
「あぁ。この国に鉱山の街があるだろう? あの街はもう無い。エンジェリアが他の魔女も使って消した」
「は? んな事いつ............あの時の魔女の気配か」
イフリーに来てわたしは【名もなき村】へ向かっていた時、それは確かに感じた。しかし他のメンバーが感知していなかった事、まばたきさえ許さない一瞬で消え去った事から、仲間には伝えず意識の済へ押しやっていた魔女の気配が......鉱山の街を消した瞬間だった、と。
「本当に一瞬だぞ? あの一瞬で街を消したって......どうやって......」
「魔女じゃなく
個ではなく集。
今回のパターンで魔女が集団で攻撃を行う場合は......
対象の位置を特定し、その頭上に空間魔法を展開させ、周囲を微塵も気にせず必要以上に魔術をブッパして対象を消し飛ばす。これが魔女族のやり方だ。
合理的───このやり方が一番確実ですっきりするよ! と魔女達は魔女子に教えるやり方であり、最初に教える殲滅手段。
周囲に無関係な者が居るのは当たり前だが、そんな小さなものを気にする必要さえない。と切り捨てた上で逃げられないように広範囲で展開するのがポイントだ。実際に鉱山の街が一瞬で消滅する範囲だったのがまさにそういう事。
「......つーか何でお前知ってんだ? 魔女側じゃねーよな?」
「狙われたのはフローだ。わたしが空間魔法で回収したから生きてる」
簡単に “空間魔法で回収した” と言うが、相手は魔女ではなく魔女
対象を監視───捉え続けている魔女。
空間を展開している魔女。
魔術を降らせる魔女。
最低でも3つの役割を担う複数の魔女がいる。
今回の相手がフローとなれば、周囲を警戒する魔女、や、魔術を最大限警戒する魔女、反撃に対応する魔女、も用意されていたと見て間違いない。
そんな中でダプネは空間魔法を成功......ちょっとまて、魔女達も空間を使ってきた? ここで? この地界で? それって......、
「......ダプネ、魔女は地界いるって事じゃないか? 空間魔法を使ってきたなら、いくら演算役がいたとしても外界から地界に展開するのは不可能な事くらいわたしてもわかる」
「!? ......たしかにそうだな......だが、外界入り口の地界に居ればわたしは問題なく空間魔法は使える。それに相手はエンジェリアだ」
「んな事言ってんじゃねって! 問題なのは
魔女に狙われてんだろ! と喉まで言葉を押し上げたが、別の声がわたしのターンを終わらせた。
『やっと見つけたぞ、ダプネ......はっ、お前も一緒とは幸運だ! 堕落の魔女!』
短く切られた黒紫の髪では誰なのか判断出来なかったが、挑発的な眉の下にある黒一色の瞳がその魔女の特徴であり、コンプレックスでもある。
『───
『テメー!
ダプネの声をかき消すようにわたしが “コックアイ” とグリーシアンを呼ぶ。そう呼べばグリーシアンがキレる事を知った上での発言だったが、
『───!!?』
『ッ!?』
『あァ!?』
夜風のように駆け抜けた
感知技術など必要としない圧倒的な気配。
炎塵の女帝......だけではない。もうひとり異質な何かがこの大陸にいて、今───炎塵の気配が消え去った。
アイツ等......
腕を吹き飛ばされたお礼をしてやりたかったが、それはまぁいいや。炎塵の死んだ今、わたしが優先すべき相手はコイツだ。
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