【雲母の魔女】
◇5対1
ノムー大陸の首都ドメイライトにある騎士学校へわたしがエミリオではなくエミルとして潜入した際に出会ったのが、
自分の魔術を、魔導を極めるのは魔女として当たり前の事だ。
一生をかけても魔導というものは極められないからこそ、自分の同質と言える魔力を秘めた子を召喚する。
しかし今、わたしとダプネの前にいる魔女は自分の魔術のため、魔導のために現れたのワケじゃない。
『黒曜の処分を命じられた時はハッキリ言ってクソダルだったけどさぁ......よく考えたら “黒曜を処分してきなさい” としか言われてないんだよね』
『オマケに堕落までいるじゃん。役得かよ』
グリーシアンの言いたい事はすぐにわかった。
ダプネを処分してこい、としか言われていないイコール瞳や魂の回収は命じられていない。
オマケにいたわたしについては振れられもしていない。
つまり、ダプネを殺して瞳と魂を奪い、わたしを殺して瞳と魂を奪っても、それはグリーシアンの物という事になる。
この考えから見えてくる
「はっ。瞳や魂を持ってこいって言われてねーから自分のモノにするって考えだろ? 馬鹿かテメーは。言ってやれよダプネ」
「お前が戻ったあとにお前を殺して奪えばいいだけだろ? 自分をどう評価しているか知らないが、雲母......お前、宝石名持ちで一番楽な相手だと思われてるの知らないのか?」
わたしのパスを受け、ダプネも魔女語を使わずにグリーシアンを挑発した。
魔女しかいないこの場で魔女を使わずに会話する意味がない。意味がないからこそ、挑発に使える。
ダプネの発言にわたしはゲラゲラ笑い「言い過ぎだろお前」などと勿論魔女語を使わずに言う。グリーシアンも地界全土で使われている人語を学んでいるハズだが、それでも “他語を使って笑っている” 状況に対し理解よりも苛立ちが沸騰する。コイツはそういうタイプだ。
『貴様等......楽に死ねると思うなよ?』
『あ? 死ぬに楽とかあんの? 死なねーし殺されねーよ? てか殺せないだろお前じゃ』
「エミリオ」
「あ?
過熱する挑発の最中、わたしの足下が突然抜け、空間魔法に落下した。
◆
宝石魔女の誰かが自分を討ちに来る。
それは十分に予想出来ていた。
魔女は裏切りを許さない───種族ではないが、魔女の瞳と魔女の魂は極上の素材となるのでその回収を放る事はあり得ない。今の
「オイ......オイオイオイ! 何のつもりだ黒曜? 堕落を逃していい気になってんのか? 面倒臭ぇ事しやがって」
堕落───エミリオを空間魔法で転移させたダプネは
「相変わらずうるさいヤツだな。お前は何をしにわたしの前に来た? 騒ぐために来たのか? 違うだろ?」
自分の使命を、ここにいる目的を再確認しろ。とダプネが促すように語る。まるで子供に語りかけるようで、その態度か雲母に火をつけた。
黒一色の瞳を強く見開き、ダプネを凝視する。同時にダプネが視線を避けるように身体を動かすとグリーシアンが凝視していた位置───今の瞬間までダプネがいた位置に下級魔術が執行された。視点が集中した位置にファイアボールが発動され、発動と同時に火球は衝突し燃えあがる。
魔女は例外なく全員が
魔力を瞳に宿し凝視する事で、視線が集中している位置に下級魔術を発動させる。
凝視するという行動が詠唱扱いとなるので実質的には詠唱なしで行える。
能力で下級魔術を凝視発動させつつ、その間に詠唱を行い能力魔術とは別のタイミングで次の魔術を発動出来る。
グリーシアンは今回も初手に能力魔術を行い、相手が対処している隙に得意の性質を持つ魔術を発動させた。
「チッ───その能力はやっぱり面倒臭いな」
ダプネは毒づき、グリーシアンが発動させた魔術を睨んだ。
「詠唱なしで下級魔術を使える」
「能力を知っていても詠唱なしは」
「対処するのがやっとだろう?」
「その間に別魔術の詠唱も出来る」
「こんな風にな」
グリーシアンが得意とする魔術は分身系。
分裂ではなく分身。自分と姿形が同じ存在を生み出す魔術。
分身は下級魔術しか使えないうえに、分身一体にも魔力を注いで召喚しなければならないので見た目ほど大きなアドバンテージは無い───とされているが、まず、グリーシアンの分身魔術の外見完成度は以上に高い。
姿形は勿論だが、声質や空気感。表情の変化に筋肉の動かし方までもが本物そのもの。さらに魔力も本物と同質レベルなので繊細な魔力感知を持たなければ
魔力量を感知される事も予想し、そこにもしっかりとした対策を施している。
4体の分身が1体の本体とシャッフルされた事でどのグリーシアンが本体なのか見抜く事は大いに難しくなった。
ダプネが先程言った「宝石名持ちで一番楽な相手だと思われてるの知らないのか?」という言葉は嘘ではないが、楽と弱いはイコールではない。
挑発しやすい、宝石名の席を賭けた決戦に持ち込みやすいという点で楽なだけであり、実力は紛れもなく強魔女───【ヴァルプルギス宮殿】に出入りする宝石魔女。
「5対1だ......
「居場所は知らないし、知ってても言った所で意味ないだろ? 無意味な事はいいからさっさと来いよ。コックアイ」
宝石名を持つヴァル魔女。
黒曜と雲母が衝突する。
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