◇女帝種≠覚醒種



 雌個体が同種を喰らう事で【異変個体】となり、その個体が【特異個体】へとなったものが女帝種。

 さらにその女帝種が覚醒した状態が【覚醒種アンペラトリス】と呼ばれる。

 様々な覚醒種が存在するが “女帝の覚醒種” にのみ【アンペラトリス】という名がつく。


 地外界を含め発見されている覚醒種アンペラトリスは【氷結ひょうけつ】【炎塵えんじん】【臨月りんげつ】【拒絶きょぜつ】【食異しょくい】【荊罪けいざい】の6体。


 どの覚醒種も【元種族状態】【半女帝状態】【覚醒状態】と3種類の形態変化が可能であり、普段は元種族状態で世界に溶け込み過ごしている。

 発見されている覚醒種は皆、覚醒状態であるがため元種族やその時のシルエットまでは解明されていないため、討伐依頼さえ発行する事が出来ない日々が長年続いていた。

 元々女帝種自体が希少であり、女帝種自身も目立った行動は避けている中で、覚醒種となればさらにその行動は自然と慎重になる。しかし【食異しょくい】と【氷結ひょうけつ】に至っては大胆な行動を何度となく繰り返していた。


 まず【氷結】は気に入らない事があれば剣を抜くように躊躇なく力を鞘から抜く。

 騎士隊や村などの凍結崩壊や、身体のどこかが凍結により壊死した者など多数の事件を自身の存在と脅威を刻むように残している。被害の性質から【氷結ひょうけつ】の名がつけられた。

 それでも未だに討伐はおろか元種族時のシルエットさえ見えない。


 次に【食異】だが、こちらも【氷結】同様に未だ元種族状態が不明。

 しかし行動力───痕跡の数は覚醒種の中ではトップクラス。

 男性、それも9歳から16歳までの少年をターゲットに捕食し、食べかけの遺体を放置してはどの部位がどの様な味だったかを悪趣味な血文字で残す狂気っぷりを披露している。

 発見された被害者数は1000を越えていて、被害者の種族に固定はなく、全て下半身が捕食されていた。

 異常なまでの食欲、異質な食への執着から【食異しょくい】とつけられた。



 生態系を圧倒的に狂わせる存在は多数確認されているが、意識的にそれを行えるのがこういった【特異個体】であり、人に対しても脅威を意識的に向ける事もあり、レートは文句なしのSSS-S3トリプル認定とされ討伐以外認められていない。


 女帝種と覚醒種は別物という認識を持っているか持っていないか......女帝覚醒種だけではなく、【異変個体】【特異個体】【覚醒個体】などの区別がなぜ存在しているのか、レートというものがなぜ存在しているのかを、漠然とでも確かに理解出来ているかどうか。





 十数年前、拠点を持たず地界と外界を往来しては危険度の高い存在を討伐して回っていた【洗練されたエレガンス襲撃者レイド】という集団が存在していたが、この集団もある覚醒種アンペラトリスの力によって全滅したと報告されている。





「メティ───......湖盧巴ころはか。状況は?」


「こんばんは、湖盧巴ころはちゃん」


「こんばんは。冒険者と炎塵が中で戦り合ってる。炎塵は手負い」


「ババリオは?」


「フレームアウトの方へ行った」




 デザリア宮殿───と呼ぶには圧迫感の強いデザインで建築されている塔を見上げ、ヨゾラはリヒトと湖盧巴メティへ今後の質問する。



「リヒトさん、メティ。2人は明日からどうしたい?」


 本来なら悠長に会話している場合ではない状況だが、ヨゾラは手頃な瓦礫に腰を下ろしポケットから煙草を取り出し、一本咥える。

 一服している余裕などどう考えてもないが、これはヨゾラにとっては儀式的なもであり、2人もそれを理解している。

 傷だらけのライターで火をつけ、鼻に刺さるような煙を吐き出す。


「相変わらず酷い匂い......最悪な気分だよ、、、、、、、


 個性的すぎる香りを放つ煙草はヨゾラの好みではないが、ヨゾラが尊敬していた人物が好んでいた銘柄。シルキ大陸でいう所の線香と同じ意味合いで、強敵を相手にする際ヨゾラは必ずこの煙草を吸う。勿論、ヨゾラの好みではない。


 吐き出された煙が薄まる頃、2人は答える。


「私はメティこの子の思うままに生きるよ。今も、明日も、これからもね」


「私は......今まで通り。でも、少しだけ期待しちゃってる」


 リヒトがクチにした期待とは、エミリオが出した条件の事。

 エミリオが炎塵に受けた傷を治療する際に「話を聞いてくれるヤツならいる」と......簡単に言えば、犯罪者であるが内容次第では冒険者として活動させて貰えるかもしれない、というもの。

 治療費として金品ではなく、そういった機会を提示し、それを3人は飲んでエミリオを治療した。


「それはまぁ、わからなくもない。ババリオって冒険者っぽくないし、かといって騎士や軍とも違う。無茶苦茶な性格で無茶を無理矢理通しそうだよね」


 この3名がなぜ犯罪者の烙印を背負っているのか。それさえ聞かず「ダメだったらダメで逃げりゃいい」という無責任にも思える思考をそのままクチにするような魔女。

 だが、確かに一理あるとヨゾラも思っていた。話してダメなら今まで通り。その場から逃げるにしても難しくはない。機会があるなら試してみるのも悪くはない。


 そして、


「んじゃ、軽く恩を売ろうか」


 今のこの状況で冒険者側に手を貸せば少しは話を聞く耳くらいは持つだろう。

 どのような人物に何をどう話すのから知らないが、多少でも有利になれるならそう動いた方がおいしい。


 煙草を消し、ヨゾラは炎塵の女帝のみをターゲットに決め立ち上がる。が、


「───早速、恩をひとつ」


 塔ではなく、逆方向を振り向きながら呟いた。こちら側へ歩み進む影は白衣を揺らし、ヨゾラ達に気付くも足を止めず。


「悪いね。ここは今軍人の立ち入りも禁止してる」


 白衣の内側に見えた星のマークはデザリア軍の印。


「部外者の立ち入りは禁止していないのか? また会ったね覚醒種アンペラトリス


「へぇ、わかるんだ?」


「勿論だよ。こう見えて私は子持ちでね。その子供が覚醒種同じだからね」



 ヨゾラ達の前に現れた女性はとても子持ちとは思えない外見だが、今塔の中で冒険者を相手にしている炎塵の親であり、イフリーでの混合種研究を統括しているマスターと呼ばれる存在。

 バーバリアンミノスのシャーマンとしてより良い混合種素材を探していた存在。


「娘の様子を見たくてね。通してもらうよ」


「なんだ雑魚じゃん......立ち入り禁止だって言ったろ? いい歳なんだから子離れしろよ」



 マスターとヨゾラが視線を衝突させ、空気が一層に張り詰めた。





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