◇半女帝状態



 S-S1シングルSS-S2ダブルSSS-S3トリプル

 危険度のレートで、並んでいれば凄みを感じる程度の印象はあるが、このレートからは同じ枠でも実力の差は激しい。


今の、、、レート換算したらいくつだ?」


「うーん......あってもAかな?」


「だねぇ。星は付かないと私も思う」



 ヨゾラ、湖盧巴ころは、リヒトは散らばる肉片を見て顔色ひとつ変えず実力を予想し、物足りなささえ感じる溜息を吐き出す。

 この3名は星付き───S-S1以上のレートを持つ。しかし犯罪者と一言で括るには少々難しい。

 勿論、犯罪=違反という視点で見れば違反者ではあるが【レッドキャップ】や【クラウン】などと同じ枠かと問われれば答えはNOだ。


 それでも星が付いた時点で実力は申し分なく高い。

 デザリア軍で様々な研究を行い、結果を出してきたマスターと呼ばれている女性が───地界にて混合種キメラの研究で初めて最低限の形を作った研究者であり、自身も混合種となりその力を抑制しているマスターが、まばたきの間さえ与えられず絶命した。

 元々戦闘型ではないマスターだが、それでもデザリア軍に所属。最低限よりも多少高い戦闘力を持っているのだが、その程度では今の冒険者水準のAランクにも勝てやしない。


 デザリア軍は他国を敵視しているが、他国情報に偏りが激しく、冒険者の水準が上昇している事や、犯罪者達の動きとその痕跡から与えられるレートの上昇を知らなかった。


「こんなんじゃ恩にもならない」


 今の今までヨゾラ達が派手に動いていなかった理由は単純に、派手に動けば面倒になるから、だった。

 顔がバレ、他国まで存在が広まればレストランに入る事さえ難しくなる。そういった部分を考えて行動していたが、今のヨゾラ達のスタンスは冒険者側と言える。つまりイフリーで悪い噂が広まろうともウンディーで過ごせれば何の問題もない。


「ソラさん以外の覚醒種アンペラトリスは初めてだね」


「ミノスの所で魔女の状態をメティを通して見たけど、デバフというよりカーズに近い状態異常だった。やっぱり覚醒種アンペラトリスはみんな持ってるんだね」


「......湖盧巴ころはにソラ姉ぇって呼ばれるとなんか調子狂うわ。まぁいいや。それ処理しといて」


 バラバラの遺体を前にしても平然と会話を続け、やっと動き始める。

 ヨゾラとリヒトはゆっくり塔へ向かい、湖盧巴ころはは遺体に青白の炎を放ち、跡形もなく焼き消した。


 魅狐ミコの混合種───というには少々違うが魅狐を持つ身体───は魅狐固有の能力である魅狐炎きつねびを持っている。

 プンプンとは違い、尾の消失は一本。

 火力もプンプンより遥かに低い理由は湖盧巴ころはとプンプンでは魅狐としての血縁が違うからだろう。それでも湖盧巴の魅狐炎は十分すぎる性能を持つ。


「......? 変わるかい? でも、無茶しちゃダメだよ───............うん! ソラ姉ぇ待ってー!」


 湖盧巴からメティへと変わり、無邪気な声をあげメティはパタパタと走り塔へ向かった。






 塔の中では───







「プンちゃん!」


「うん!!」


 半妖精ハーフエルフの声に魅狐ミコが応答と同時に雷撃を放ち、粉塵を強制的に爆破させていた。

 浮遊する粉塵は微風でも周囲に拡散される軽さと細やかさを持ち、爆発のタイミングは全て女帝が握る超小型でありながらも殺傷力の高い兵器。

 無視して女帝討伐を行えば粉塵の餌食となり、粉塵ばかりに気を取られていては女帝の餌食となる。


 半妖精ハーフエルフひぃたろ。

 魅狐ミコプンプン。

 人間ワタポ。

 夜叉やしゃあるふぁ。

 夜刃ヤト白蛇。

 ホムンクルス だっぷー。


 並以上程度の6名で女帝を、それも覚醒種アンペラトリスを相手にするのは無謀、自殺以外のなにものでもない。

 が、幸い今の女帝は手負い───肉体的にも精神的にもダメージを負っている状態。

 【レッドキャップ】のリーダー【パドロック】が単騎で炎塵をここまで追い込みながらも余裕で退却していった事から【パドロック】の実力は並を遥かに越えている事がわかる。


 エミリオ達の世代、問題児世代バッドアップルと上の世代生意気世代ディスオーダーでは冒険者ランクこそ同じでもその実力には明確な差がある。

 【パドロック】も【炎塵の女帝】も、世代で言えば生意気世代であり、その世代で今もなお存在感を発揮している強者。


 それでも───まだ届かないとはいえ、下も着実に成長している。問題児世代はその呼び名通りであり、一癖も二癖もある連中が集まる世代が。





 浮遊する粉塵へ雷線───糸のように細い雷撃を拡散させ強制的に爆破させる魅狐。

 以前の魅狐ならばここまで多数かつ繊細な雷撃操作は不可能だったが、彼女も着実に成長している。


「だぷさん!」


「りょーかいっ!」


 プンプンに名を呼ばれたホムンクルスのだっぷーはリボルバータイプの魔銃を地面へ向け発砲。弾丸が地面と接触直後、炎塵へ向かうように地面が瞬間凍結してゆく。


「左!」

「うん!」


 ひぃたろは左、ワタポは右から炎塵へ斬りかかる。

 前方からは凍結、左右からは斬撃、頼みの粉塵は魅狐に爆破されてしまい離れた位置にしか浮遊していない。炎塵は誘われるように上へと回避。


「───ッ!!」


 上空で、背後に感じるただならぬ気配に炎塵の表情は一際殺気立つ。

 首を狙い、2匹の鬼が刀身に風属性が具現する程の【妖剣術】を纏わせ躊躇なく振り下ろす。

 カタナが触れた瞬間、爆破が発生し風が爆風と衝突、突風のように室内を吹き荒れた。


「チッ! 火薬の化物が」


「みんな無事かい!?」


 2匹の鬼は火傷を負うものの鬼の皮膚は頑丈のレベルを越え、自己治癒までも持つ鬼の名に相応しい特性となっている。

 それを知っているからこそ、ひぃたろは2人へ一番危険な役割を任せたのだ。

 鬼の火力と耐久度に頼った一手も、覚醒種アンペラトリスには物理的に届かなかった。


 しかし、


「ガキ共がァァ......シィィ......」


 精神的には炎塵を攻撃出来たらしく、苛立ちが肥大化したような声音を煙の奥で吐き出した。

 爆発時の黒煙を風が大いに煽り、室内の視界はほぼゼロ。ひぃたろ達は炎塵を探しつつ狼印の耐熱ポーションを摂り入れる。


「......いた!」


 ワタポは女帝特有のマナを感知する術を長年追求し、シルキ大陸で妖力の感知方法を学び、魔力感知、気配感知、妖力感知、これらから必要な部分だけを集め組み上げた対女帝感知を微弱ながら形にしていた。停止した状態で数十メートルの範囲でしか働かず、感知こそ成功するものの距離感や状態まではまだハッキリ捉えられない。

 それでも今は大いに役立つ感知。


 ワタポが指差した方向を全員で凝視していると、煙が徐々に薄まり影が浮かぶ。


「シィィィ......」


 という獣が威嚇する際に発する声のようでいて、何かを耐え抑えるような声にも聞こえる音を出し、異形のシルエットが浮かび上がる。


 先程までの炎塵とは明らかに違うサイズと形状。

 人間型の面影を残しつつも、モンスターのような突起やうごめく無数の線影、反響するような声音など、既に人を逸脱している。




 3種類【元種族状態】【半女帝状態】【覚醒状態】のうちの二段階目、半女帝化の影がブレるように消え逆巻いた煙の動きがまだ残る中で、


「───シィィィュュゥゥィッ!!」


 鉄柱のような太い腕───と思われる部位で魅狐を強打し【半女帝状態】の炎塵エンジン快哉かいさいに叫んだ。




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