◇向かう人影
「───随分とまた、複雑そうな状況じゃん」
トラオムの街から2つの人影がデザリアへと向かう最中、夜風が混乱を届ける。
複雑そう、とクチにしつつもその表情は「面白そう」と告げる。
感知系技術を用いてサーチしたワケではなく、彼女の
「私は何もわからないけど......何か起こってるの? ソラさん」
隣を歩む女性に質問され、指でつまんでいた花の種を瓶へ戻し答える。
「炎塵が少し緩めた。この程度ならまだ
パンツタイプの下衣の両脇に携えられる二本の剣は左右でデザインが異なる。
「リヒトさんも武器装備しておいた方がいいよ。今のデザリアは街の形をしているだけで戦場だよ」
ヨゾラの隣にいる女性【リヒト】は戦場という言葉の度合いを自己判断し、ハルバードを装備する。
「あら? それ使うんだ。大丈夫なの?」
このリヒトもまた
魔人から呪いのような奇病をその身に受け、力を与えられた。
普段は短剣だが本命は槍斧。しかし、この武器を持ち戦闘を行うと心の奥に仕舞い込んでいる幼い記憶が沸騰され、敵味方の区別さえ難しくなる危険なトラウマを孕んでいる。が、
「いつまでも逃げていたら......ダメなんだと思う」
短剣を使うとどうしても能力頼りの戦い方になってしまう。常日頃からそこを変えたいと思っていたが、リターンよりもリスクの方が大きく怖かった。それでも変わりたいと踏み込む決意が出来た。
その決意をくれたのが隣にいるヨゾラや、この大陸にいる冒険者達だ。
強大な相手にも無謀とも思える数で挑む姿勢。
簡単ではないと理解していながらもどこか自信を持って進む姿勢がリヒトの胸をチクリと刺した。丸帽子の魔女エミリオがいい例だろう。
バーバリアンミノスを助けたい。と助けた所で明確なリターンも......そもそもリターンなど期待出来ない存在を、魔女は全力で助ける事を選び文字通り突き進んだ。
リスクなど気にもせず、その行動がどんな結果を招くのかも考えず、ただ直感に、本心に従い生きる魔女が───少しだけ格好よく思えた。
「そっか。うんうん、それがいい」
ヨゾラは微笑みながらリヒトの気持ちを、背中を優しく押し、デザリアへと進む。
目的の【ペドトリスファラー】が必ず
◆
いや、終点に辿り着く前に脱線してしまった例だ。
いつ、誰に、どんな能力が宿るのか。
それは誰にもわからない。
能力の存在に気付かず生を終える者もいれば、
産まれた直後に能力を執行する者もいる。
最後の最後まで自分の能力を理解出来ない者や、理解した上で二度と使わない者など、様々だ。
しかし能力を持っている者全員の背後にぴたりと付いて回る現象が能力の先程の【フレームアウト】等となる。
今イフリー大陸デザリアにて、ひとりの女性がフレームアウトした。
能力は操作系。
遺体を対象とし、自身の血液で組み上げた術式を付与する事で操作を可能とする。
術式───魔術では術式の範囲内にルールを与え、そのルールを完遂する事で術式から脱出出来るというもの。
能力の術式には様々な種類が存在し、今回の術式は “行動範囲” と “操作範囲” を縛るもの。
千秋が操作している対象は今のところ一体。
テルテルという男性の遺体で、行動範囲は自分の周辺、操作範囲はなし。つまり今テルテルは千秋に敵意を向ける者、千秋に害を与える者、もっと言えば、千秋の意思に反する者を速やかに処分する操作状態となっている。
操作系能力を最も厄介に極めている【クラウン】の【リリス】とはタイプが違うものの、遺体を操作する相手は相当に厄介だ。
攻め来る操作対象は恐怖も痛みも、場合によっては感情もなく、破壊しようとも無力化とは言えない。壊しても、壊れても、すぐに治される。
何度も、何度も、何度も。
「きりがない......バラバラにしてもすぐに治りやがる」
千秋の相手を───テルテルの相手をしているトウヤは何度となくテルテルを破壊したものの、すぐに再起動され減るのはトウヤの体力と集中力だけだった。
操作系能力者を相手にする場合、操作対象ではなく能力者を叩かなければ半永久的に戦闘は続く。この事実が操作系能力の最も恐ろしい点であり、千秋やリリスのように操作対象が幅広い相手に至っては、何よりも先に能力者を叩かなければ最悪の状態になりかねない。
「テル君、私は街の人達に言うこと聞いてもらうから、その人にも私の考えを教えてあげてね」
能力者千秋は能力対象のテルテルへそう告げ、路地裏から去ろうとする。
「おい待て。お前のクチから考えを教えろよ。俺が賛同するかも知れないだろ?」
「大丈夫ですよ、テル君が貴方を賛同させてくれますから。みんなでこの国をさらに良い国にしましょうね!」
最悪の状態を求め、千秋が行動を始める。
「チッ───......どけよ死体」
追おうとする相手を機械的に阻害するテルテル。既に自我など無く、千秋に賛同しない者を破壊するため行動している。
千秋の今の目的はこの街にいる人間を全員殺害し、操作する事。
テルテルの体術が厄介にトウヤを絡めとる。
その気になればテルテルも、千秋さえもこの距離から討つ事は可能だが、トウヤはそれをしない。
理由はいくつかあるものの、今はそれをするのは気乗りしない。
しかし、このまま行かせるワケにもいかない。
───やるか? 放置して
トウヤは足下にある影を疼かせ、拡散させる準備を済ませたるも背後から届く足音がそれを止めさせた。
足音はすぐに大きくなり気配がトウヤの隣を通過する勢いで
首を狙った絡め手でトウヤの足を止めさせていたテルテルが吹き飛ばされる。
駆け付けた気配はトウヤの隣で大剣を構え立つ。
「来るの
「そうか? いいタイミングだろトウヤ」
必ず来ると踏み、この場に千秋を留めていたトウヤの読み通り、カイトがやっと駆け付けた。
「見えたか? 今あの角を」
「あぁ。千秋ちゃんが居た」
「追えカイト」
「いや、それは任せよう。二人でテルテルさんを無力化するぞ」
「任せるって───......、、仕方ねぇな。アイツは厄介だ。足引張んなよカイト」
2人の影が、交差する。
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