◇フレームアウト 3



 変化系能力にしては異質にも思える姿へと変貌したメティ───湖盧巴ころは

 本来の変化系には絶対にあり得ない能力者の成長、、が発生していた。

 メティは10代前半の外見だったが湖盧巴の外見から受ける年齢の印象は10代後半。話し方もメティとは違って落ち着きもあり大人びていた。

 カイトとだっぷーは能力に詳しくはないが、それでも成長、、についてはおかしいとしか思えなかった。

 同じ変化系、そして同じ魅狐ミコのプンプンが能力で変化した際に肉体的にも精神的にも成長はない。肉体そのものが別の物体や物質、生物へと変化するタイプの変化系も存在するが、それは変化という枠に収まっている。しかしやはり湖盧巴の変化は成長としか思えない。


「フレームアウトした子、知り合いでしょ? 行かなくていいの?」


 プンプンとは違う、どこか神聖的な雰囲気を醸す湖盧巴ころはは千秋がいるであろう道へ視線を流し、追加で言葉を添えた。


「新しい気配がある。これも人間じゃない......それに、妖力に対してそれなりに知ってる者みたいだね」


 人と呼べない何かが千秋の元に居ると湖盧巴は発言し、妖力に対して何らかの反応を示していると。この大陸で妖力に触れている人物はシルキ大陸の者と言っていい。


「えっと......湖盧巴さん? その気配は妖怪やアヤカシじゃあ?」


「違うよ。それならすぐわかるから」


 カイトは質問し、湖盧巴は即答。これでカイトはその存在が誰なのか理解する。イフリーで妖力に触れていて、妖怪やアヤカシではない存在となればひとりしかいない。


「俺は行く。だっぷーはエミー達の───!?」


「わっ!?」


「おぉ、これはまた凄い爆発だね。上から何か落ちて......誰か落ちて来るよ。あれも知り合い?」


 爆発音と共に上空へと投げ出された人影のひとりが地上に顔を向け、


「メティ! どうにか全員キャッチしてくれ!」


 と、大声で叫んだ。





 空間魔法を使い最上階へと飛んだわたし達は問題のクソウザ女帝【炎塵の女帝】と対面した。

 姿形は人間と変わらなかったが周囲に粉塵を浮遊させそれを纏っている異常性に警戒が一気に跳ね上がる。


「おいテメー! 粉塵それ着込むのはずるいぞ!」


 と、別にずるくは思わないが一応そう言っておくわたしを女帝は見向きもせず何かを探すように視線を走らせた。


「......どこにいる!? 出てこい!」


 わたし達へ向けての言葉ではない事は女帝の表情ですぐにわかった。


「ボク達以外に誰かいるの?」


「さぁ? 気配はないわよ?」


 プンプンとひぃたろハロルドが会話する余裕さえあるほどに女帝の敵意はこちらへ向いていない。


「......ふざけるなよッ! コソコソ思考を読んで、、、、、、何様のつもりだ!?」


 我慢の限界が来たと言わんばかりに女帝は粉塵を一気に拡散させた。今までとは量も密度も段違いの爆弾を。


「ヒエェ! これはマズイんじゃない!?」


「どうするのこれ!?」


 シルキズの雪女と眠喰バクが慌てる中でも妖華と鬼は落ち着いて周囲を見渡す。

 わたしは勿論、


「おいおいおいおい! 爆発させんなよテメー!」


 慌てずにはいられない。視界のどこを見ても舞い散る粉塵、回避は100パーセント不可能な密度でキラキラと揺れる爆弾を前に慌てるなと言う方がイカレてる。


「エミリオ! 空間を外に!」


「もうやってる!」


 半妖精の指示へすぐ返事を飛ばし、全員の足下を抜くように空間魔法を発動させる。せっかく登ったというのに再び下へ、それも出口を外......一気に一階へと落下するのは確定だ。

 ダプネのように自分も含めた複数の対象を落下中にキャッチし、上手に着地させる高さへ空間を展開する演算力と技術はわたしにはない。


 足が浮きすぐに落下する身体。空間が閉じ外へ放り出されるように出口が展開し、同時に大爆発が起こる。


「危なかった───けどこれ大丈夫なんですか!?」


「オイラ達は着地と同時に妖剣術で落下速度を相殺出来るけど......」


「まさか何も考えてねぇなんて言わねぇよなぁ? 帽子」


 妖華、鬼、白蛇も鬼だったか? まぁいい。


「お前ら、わたしが着地の事を考えると思ってるなら───死ぬしかないな」


 と胸を張って答え、非常に心苦しいが......まず自分だけ助かる方法を考え、フォンから魔箒を取り出そうとした瞬間、カイトヘソとだっぷーが視界に映る。ならばいるはずだ。


「───メティ! どうにか全員キャッチしてくれ!」


 最悪、落下で骨折してもメティの治癒術がある。そんな保険に心を委ねながら迫る地上に居たのは───


「あれは......魅狐ミコ!?」


 こちらの魅狐が言ったように、メティだと思っていた人影は全然メティではなく、魅狐としか思えない風貌をしていた。



「あれはメティをクソガキって呼んでいた魔女......今もクソガキって呼んでいたら助けなかったけど、運がいいね」



 魅狐がわたしをゴミを見るような眼で見ている気がしたが、きっと気のせいだろう。

 地面が見る見る迫る中、突然眼の前が水に。

 全身が水に包まれた、と理解した直後、全身を突き刺す痛みが恐ろしい速度で駆け回る。


「───っは! 痛ってぇ! なんだ今の!?」


「私じゃないよ」


 無事と言えない痛みにわたしは魅狐へ文句を言ってやろうと顔を向けるも、魅狐はそれをあっさり否定し別の魅狐───プンプンを指差した。


「ごめん......ボク今、常に微量の雷を纏ってる? 出しちゃう? みたいで、さっきは突然すぎてそれを引っ込めるの間に合わなかったんだ。ごめん!」


「お前のせいかよ! つーかそんな身体になってたのかよ......シャワーとかどーすんのそれ?」


「普段は気をつけてるんだけど、今回は気をつけようがなかったよ───......リリス? ちょっと違うか」


 笑いながらも申し訳なさそうにしていた魅狐プンプンが何かを発見したように顔を振り、リリス、と呟いた。

 この名前にはわたしも思わず反応してしまったが、そこにリリスはおろか誰もいない。


「全員無事だな? 俺は行くぞ」


「ヘソどこ行くん?」


 何か急用でもあったのか......それでもわたし達の無事───着地が無理そうなら何かしらで助けてくれたのか?───を確認するまで居てくれたカイトヘソは今プンプンが振り向いた方向へと走る。


「この状況で女帝以外に急用なんて無ぇだろ!? どこ行くんだよカイト!」


 白蛇の発言は最もだ。今あの塔の上に女帝がいて、何かピリピリしてる。

 あんなの放置しておけば本格的に他大陸を侵略するため動くのは見え見えだ。


「女帝は任せる! 俺はトウヤと合流して千秋ちゃんを......とにかく任せた!」


 一瞬言葉を詰まらせ、そのまま走り去ってしまった。


「エミー......」


「あん? 今度はだっぷーかよ。お前も急用か?」


「千秋ちゃん......フレームアウトしちゃった......」


「はぁ!? ......」



 だっぷーはこの手の冗談を言うタイプではない。


 つまり、本当に千秋ちゃんは───。




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