◇シュタットキルヒェの悪魔
しかしその数は
そんな外界でも人間は生息しているからこそ、リヒトのような人間が誕生してしまう。
外界にある【シュタット キルヒェ】という大きな教会がある宗教街。
宗教と言っても重苦しくないホワイトなものであり、街全体で “人は人の為に、今日は明日の為に” という平和かつ平凡な精神を掲げ生きている外界では数すくない人間達の街。
日々を無理せず一歩ずつ生きる。
世界という大きなものに感謝し、命という無数にあるものへ感謝し、自分を否定せず他人を尊敬する。
人々は神の使いであり、神は使いを決して見捨てない。
そんな言葉を毎日唱え教会で神に感謝と祈りを捧げる事が一日の始まりとなる街。
全員が教会に勤める聖職者であり、リヒトも例外なくそうなる運命だった。幼いリヒトは両親と共に教会へ毎日足を運び、感謝の祈りを唱える。
大人になったら自分が両親のように子供達を導くのだ、と思って疑わなかった。
何もなく平凡で、何事もなく日々を過していた。この街【シュタット キルヒェ】が地界にあったならば今もこれからも、同じ日々を過ごせただろう。しかし、ここは外界。
真っ白なドレスを着た色白の女性を中心とした団体が街に訪れた夜。平凡がゆっくり狂い始める。
何かの病気らしいその集団は
街に居住し、人々と共に神に祈りを捧げ、人々に感謝もする集団を誰ひとり悪く思わなかった。それどころか病気を憂い、神に彼等の病気を治してくれるよう願い始めたのだ。
人は人の為に。
この精神が面白いように働き、街の住民達は当たり前のように祈りを捧げる。
病名も、その集団の詳細も知らず。
幼いリヒトもその集団を悪く思っていなかったが、ただひとつ、気になっている事があった。それはその集団が誰ひとりとして “教会に足を踏み入れない” 事。
リヒトが白いドレスの女性へ訪ねてみると「そういう病気なのよ」と微笑み答えた。
十字架を持たず、子供から見てもかなりの少食であり、夜しか活動しない。
全員が色白の肌で美しく整った顔立ち、言葉使いや仕草ひとつひとつに品があり、神秘ささえ感じる。
そんな集団にリヒトは密かに憧れを抱き、仕草などを真似る日々が続いたある日、街で行方不明者が出た。ひとりではなく、家族全員だ。
それを皮切りに数日後には別の家族が、その数日後にはまた別の家族が、一家単位で忽然と姿を消すのだ。
聖職者達は祈りの時間を増やし、リヒトの両親も夜に教会で祈りを捧げる日々が始まる。
そしてそれが投げ込まれる。
教会門の前に
吸血種の悪魔───ヴァンパイアだ。
あろう事が教会の街に悪魔が入り込んでいるという事実は聖職者達から余裕を綺麗に奪い去る。
祈りを捧げても神は一向に現れず、またしても一家が消え去る。
どう考えても現れた集団が怪しい。
そんな普通な疑いさえ向けず「これは神が我々に与えた試練なのだ」とご機嫌な事を言い始める始末。
少なくともこの街に、神など存在しないのだ。
人間が外界という世界で生きるため、すがる思いで祀った “神の贋作” こそが、現れた集団の最大の目的。
神を召喚する、など決して不可能であり、それこそ神への冒涜でしかない事を外界では学べない。
街の人々は決して無知ではなく、知る術がなかったのだ。確認する材料を持ち合わせていなかったのだ。自分達の世界が全てであり、自分達の行いが正しいと思い込み疑わない人々はついに “神の召喚” へと手を出す。
陣を描き、供物を捧げ、願い祈る。
生きたカナリア、仔羊の首、馬の心臓、大人の睾丸と子宮、そして───少女。
これが必要な供物であり、少女に選ばれたのがリヒトだった。
嫌がる少女の衣服を奪い、クチへ大人の睾丸と子宮を詰め込み黙らせ、カナリアと共に巨大な鳥籠へ入れ、仔羊の首と馬の心臓を抱かせる。
陣の中心に置かれた少女を囲うように大人達は祈りを捧げる。
これが、悪魔召喚の儀式だとも知らず。
気まぐれな悪魔の召喚確立は極めて低く、成功例は数百年前に一度だけ。
街に現れた集団はこの【シュタット キルヒェ】に居座る悪魔───魔人を見てみたいという、ただそれだけの目的で現れたのだ。勿論、
待ちわびた悪魔の召喚。成功すれば儲けもの、という感覚で集団は初めて教会へ足を踏み入れていた。この悪魔召喚は神聖な教会という領域を一瞬で汚した事により、集団も入り込めたと言える。
そしてついに儀式が終わり、悪魔が現れた。
大人達は狂気的な歓喜を露にし、子供は異常な物を抱かされているというのに両親さえも泣いて喜ぶ始末を見た悪魔───魔人は一言。
“贄はお前達か” と呟き、狂気的歓喜に身を震えさせていた大人達をものの一瞬で肉片へと変えた。
魔人は告げる───贄の分だけ祈りを聞こう、とリヒトへ。
リヒトは理解出来ない現実に、現実とはとても思えない現状に眼を見開き泣きながら、
「幸せが、沢山......ほしいです」
と答えた。
魔人は呆れる。
幸せとは刹那的感情......一瞬で終わる時を沢山求めるとは、と。
召喚された悪魔はただの悪魔ではなく魔人種。
ここで魔人種が気に入る願いを言えなかった者は殺され再び魔人は消え去る。しかしリヒトの願いを魔人は気に入り、刻印を与え心臓を奪った。
それがリヒトの能力であり、刻印は右眼。
この魔人と同じ右眼を与えられ、能力使用時は発眼し、その瞬間は感情が狂い渦巻く。
願いの対価としてリヒトは心臓を奪われ、肌から温度が消える。リヒトが死んだ時、リヒトは魔人種として今と同じ事を行わなければならないという首輪をつけられ、一瞬を集める人智を越えた力を与えられた。
これは呪いや契約ではなく、侵食型の奇病であり、その奇病を宿した瞬間から末期状態となる最悪のパターンを持つ奇病なのだ。
散る肉片や臓腑の中でリヒトは悪魔───魔人種となり、それを見ていた集団のひとりが楽しげに笑い、リヒトへ接近した。
が、次の瞬間その者は首を掻かれ、腹を裂かれ
泣き笑いながら少女が男性の腹を掻き混ぜる姿を見た集団のリーダーは、何が起こったのかさえ理解出来ず、安易に接触するのは危険だと判断し去った。
この集団のリーダーがヴァンパイアの皇女であり自分以外の悪魔族を下品な種と見下す【エリザベート・ノスフェラトゥ】。
悪魔召喚───魔人種をひと眼見ようと軽い気持ちで足を踏み入れた街で、起こしてはならない存在を起こしてしまった事実に沸騰し、己の小ささを見せつけられたような気分になり、
街の人々だけではなく連れの者さえも手にかけ、沸騰する敗北感を鎮静させた。
【エリザベート・ノスフェラトゥ】が殺戮の限りを尽くした街の惨劇は【シュタットキルヒェの悪魔】という名目で外界に広まり、聖職者という共通点を持つ者達が全員殺された点から犯人を【シリアルキラー】という名で呼び、恐れられた。
数年後、【シリアルキラー】は幼い子供が母親の手伝いをしているような感覚で、札付きを狙い襲っては臓腑を土鍋へと詰め込み蓋を開けると眼球と眼が合うように盛り付け、その場に鍋を置いていく事から【犯罪者の臓鍋】と名付けられ危険生物として認定され外界全土で手配される存在となり、地界でもその活動か行われ世界全土にその名を、存在を轟かせた。
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