◇童話系剣術 フェアリメルヒュン
SS-S2 冒険者 ひぃたろ。
SSS-S3 指定犯罪者 ヨゾラ。
本来ならば共闘する立場ではない2人が、ひとりを対象とし、トラオムの街で並ぶ。
【
「───で、どうするのが効率的かつ効果的なのかしら?」
ひぃたろはリヒトの行動ひとつひとつに最大の警戒を向けながら隣にいるヨゾラへ攻め方......立ち回り案を要求した。
「気絶させるのが一番よくて、一番難しい」
不安定な着地のような頼りない答えにひぃたろは一瞬眉を寄せるも、ヨゾラが纏っている強者特有の雰囲気は偽りではない。しかしそれを今フル活用出来ない状況だからこその判断である事を察する。
殺すつもりは毛頭ない。だからこその気絶。
ただ討伐するだけならばヨゾラにとって造作もない事をひぃたろはこの1年半という冒険者としてはまだ短く、それでいて濃い冒険者人生で理解出来るまでの経験値を得ている。だからこそ3ターンという短くも長い共闘を持ちかけたのだ。
「私は犯罪者狩りを選んだ冒険者。3ターンは冒険者としての立場を優先するのだから、成功した場合しっかり報酬は貰うわよ」
「成功したら考える」
まずヨゾラがリヒトへと向かう。
能力が執行されれは文字通り一瞬で王手まで潜り込ませてしまうからこそ、ヨゾラはリヒトから短剣を奪う事を優先に考え剣を構える。
「......なるほどね」
それを瞬時に察したひぃたろは動かず、耳に装着する特定の相手と瞬時に通話可能な小型イヤフォン【T-Ea4】を装備し間隔をあけず2回叩いた。
「───」
何かを呟き、ひぃたろは黒布を外した。まぶたを閉じたままの左眼でヨゾラを追うように接近する。
「やぁぁぁだぁぁぁ! もうやめて、もう許して、助けて、助けてえぇぇぇぇ!!」
発狂しながらも的確にヨゾラの攻撃を捌き、隙あらば短剣を滑り込ませ肌を浅く斬りつけるリヒト。発言とは全く異なる動きとそのキレの良さにひぃたろは感心さえ覚える。
「やるわねこの子」
「短剣で終わらせたい......片方任せた」
次があるような発言を残し、ヨゾラは剣戟時の衝動を利用しリヒトの背後へ回った。一瞬だが相当な場数を踏まなければ剣戟の衝動や体勢の死角を利用する真似など出来ない。所々に見えるヨゾラの技量はひぃたろにとって大きな収穫と言える。が、今は悠長にしていられない。挟み撃ちの形でリヒトと対面しているのはひぃたろ自身。必然的にターゲットされるのもひぃたろとなる。
「殺さなければいいのよね?」
妖精の宝剣を構え、ひぃたろはヨゾラへ言う。その返事が届く前に半妖精は剣術を立ち上げた。
「おい! 殺すなよ!」
「腕を撥ねるくらいは了承して頂戴」
強い無色光を放つ剣、薄っすらと現れる翅を見てリヒトは「妖精さん? ママ、ママ! 妖精さんがいるよっ!」と無邪気に言う。そんな言葉に耳を向ける事なくひぃたろは独自で考案した剣術を発動させる。
ギルド【フェアリーパンプキン】がシルキ大陸に長居した理由は様々だが、そのひとつが自身の育成───強化にある。
高水準の
ひぃたろやプンプン、ワタポなどはシルキ勢の【妖剣術】を見て最初に思い浮かんだのが魔女エミリオが扱う魔術と剣術の混合技【魔剣術】だった。
魔女という種族でありながらも剣を持ち、その種でも馬鹿げた魔力を所有するエミリオだからこそ選択出来た戦闘スタイルと言える【魔剣術】は同期冒険者達にとって衝撃的ではあった。しかし大きな噂───脅威になっていないのは単純にエミリオの技術不足が原因だ。もし他の者が同じような【魔剣術】を扱えれば話題性が脅威にさえなりうる。そんな時に辿り着いた【シルキ大陸】での【華組】や【龍組】の剣技。
属性持ちの武器ではないカタナで “様々な属性を付与した剣術” を “詠唱なし” で使っていた。
妖力は魔力ではない。
魔力を持たない、または魔力量が乏しい凡人が、それでも魔術を扱いたいと必死に考え悩み辿り着いた技術。
それが妖力を利用した妖術や妖剣術。
妖術は詠唱───魔術とは違う “おまじない” や “ねがいごと” にも近い言葉を添え、自分の中で明確に想像し、想像力を具現化させる。これが【妖術】であり【魔術】よりも残念ながら劣る。
この妖力───妖術を応用し、元々根付いていた剣術と組み合わせたものが【妖剣術】となる。詠唱が不要という瞬発力を持つかわりに【妖術】よりも具現が劣る。しかし高い剣技術を持つシルキ勢はその技術を更に強力なもへと変わる点に賭け、何百年もの長い月日を技術発展へと費やし、完成させたのが【妖剣術】だ。
ひぃたろはこの【妖力】の扱いと【妖剣術】をシルキ大陸で学び、自分が持つ剣技術や文化の違い───感性や価値観を混ぜ込む事でやっと自分が納得いく【剣の型】を考案、確立した。
ある程度の実力や個性を持つ者は自身の【剣の型】を持つ。エミリオで言えば【魔剣術】などがまさにそれ。
和國【シルキ大陸】で翅を休めていた妖精はその期間に己の【剣の型】を研磨し、今それを抜く。
剣の無色光が緑色光を絡め、休めていた翅を広げた。
「───ッ!」
無音の気合いと共に旋風を纏う剣が、妖精が、リヒトの真横を
初見ではまず見切れな速度を重視して考案された怪鳥の一閃。
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