◇不思議な共闘



 ある日、プンちゃんが私へ「星霊の宝剣を貸してほしい」と言い、私はフォンポーチを開いた。しかしそこに剣は無かった。気が付いたらフォンのアイテムポーチから星霊の宝剣が消えていた。

 フォンのアイテムポーチはアイテムのマナを読み解き、マナレベルで管理する技能族テクニカが生み出した機能。

 つまり、星霊の宝剣のマナそのものに干渉さえ出来れば抜き取れるという事になる。そんな事が可能なのか、可能ならばどのような方法を利用するよか、そんな事まではわからない。そもそも、媒体なしにマナへ干渉する、という行為自体が危険極まりない行動であり誰もやろうとしない。

 研究心と探求心の塊、と噂されている技能族でさえも様々な媒体を用いてマナへ干渉しているのだから。


 そんな中で突然ポーチから消えた星霊の宝剣。

 生体や生命ではなく物体や物質がフォン操作なしに消える現象など今まで聞いた事さえなかった私は、情報屋へこの詳細を伝える程度しか出来なかった。それからも星霊の宝剣は戻らず、今は以前までメインで使用していた妖精の宝剣を使用しているが、スペック面に頼りなさを感じるのは否めない。


 準備不足という言葉がふと頭を過るが、そんなものは言い訳にさえならない世界が冒険者であり、私達が選び進んだ【バウンティハント】という道は今の状況こんなものより過酷だ。


「イイィィィ......十字架を燃やすの? どうして? そんな事しちゃだめってパパが、パパは? パパはどこにいるのぉぉ? ねぇママ? ママぁ? イイィィィヤァァァ!!」


 精神的崩壊を繰り返す【犯罪者の臓鍋アマルティアキュトラ】と、今はまだ敵としての素振りを見せない【刑罪の襲撃者クリミナルレイド】......馬鹿魔女エミリオが連れて行った少女が【溺愛できあい忌狐ミコ】で間違いなさそうね。

 エミリオのやつは犯罪者を連れて何を考えているのか......考えるだけ無駄ね。今はあの【臓鍋】をどうにかしなければ私も危ない。


「時間切れよ。私も手を出させてもらうわね」


「───!?  傷は? ......治ってる......」


「そういう体質......性質なのよ。とにかくあの臓鍋をおとなしくさせられないなら狩るわ。見たくないなら眼を閉じているといいわヨゾラ」


 街中で暴れている犯罪者を無視する理由はない。今回の【クイーンクエスト】に犯罪者討伐は含まれていないけれど、だからと言って放置していたら【バウンティハント】を選んだ意味がない。

 私は妖精の宝剣を構え、ダブルSS-S2の犯罪者討伐を開始すべく外套を外す。


「まて! ていうか、引っ込んでろ。リヒトさんは私がどうにかする」


「......どうにも出来てないじゃない。それにあの能力は早いうちに叩かないと大変な事になるわよ?」


「いいから引っ込んでろ。他人に殺させるくらいなら私が......」


 ヨゾラの言葉に私は過去の出来事を重ねてしまった。

 プンちゃんの能力が荒れ、街中で雷撃を散りばめていた時......私は今のヨゾラと同じような事を思った。あの時はエミリオやワタポ、他の冒険者の力も借りて尾を切断する事で鎮静する事が出来たけれど......もしそれでも無力化出来なかった私は本当に友人を手にかけていたのだろうか。


 臓鍋───リヒトは現状、危険しかない。

 それでもヨゾラにとっては友人なのだ。私にとってプンちゃんがどうなろうと友人だったように。


「......3ターン。3ターンだけ鎮静に協力するわ。引っ込んでろと言われた手前で協力なんて貴女は受け入れないだろうけど、どうやら私はその眼に弱いみたいだわ」


 ヨゾラの瞳は犯罪者や殺人者の瞳ではなく、大切なモノを守りたい、と強く思う瞳だった。

 おそらく討伐ならばヨゾラひとりで問題ない。しかし鎮静となれば下手に手も出せない中で相手側は殺しにくる。

 この危険度を理解した上でヨゾラは私に引っ込んでろと言った......全く誰の影響か、犯罪者に対して手助けしたい、なんて思う自分に少し驚かされるわね。


「私は引っ込んでろと言った。協力したいなら勝手にすればいいけど、邪魔だと判断した時は容赦なくお前を殺すよ。ひぃたろ」


「ええ、いいわよ。私も、面倒だと思ったら貴女も討伐しようと思っていた所だし」


 出会ったばかりの相手、それも犯罪者と共に犯罪者を鎮静する......魔女や魅狐の理解出来ない行動が私にも移ったのかしら。

 まぁ、後悔するとしたらそれは少なくも今じゃない───なんて帽子の魔女エミリオなら考えそうね。





 この女......ひぃたろ、と名乗っていた冒険者。

 私の異名のひとつを知っていた事から【バウンティハント】っていうのは嘘じゃないだろう。

 そしてきっと、私がリヒトさんへ下手に手を出せなくなっている事もお見通し、か。

 以前はメティの回復があったからこそ、リヒトさんを回復させ続け、私が削り続ける強引なやり方で黙らせる事は出来た。でも今ここにメティはいない。

 下手に手を下せば冗談抜きで......リヒトさんを殺しかねない。


 こんな状況で、どれだけ2人を大切似思っていたのかを再確認出来るなんて、私は薄情な女だな。


「───発作が止まったら殺しにくる。その時は自分で対応しろよ」


「ええ。さっき見ていたから流れくらいは理解しているわ」


 見ていた、か。

 あのダメージで意識を保つだけじゃなく情報収集と回復まで......ババリオもだけど、冒険者ってのはイカレてるのか?


「まぁいいや。ひぃたろ......だっけか? 死んでも化けてでるなよ、迷惑だから」


「その言葉そのまま返すわ。刑罪の襲撃者クリミナルレイドさん」



 初対面の人と組むのはいつぶりだろうか。

 無駄に人より長い人生だ、こういうのもたまには受け入れてやるか。




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