◇垣間見える能力のタネ
「ママァ! ママァァァ!!」
子供のように泣き叫びながらも鋭い剣戟で短剣を振るうリヒト。ヨゾラも剣で迎え撃つも予測不能なリヒトの動き───短剣と体術に歯噛みする。
並のレベルでは一撃目で殺されていてもおかしくない。そんなレベルの戦闘が
「いい加減にしろ! リヒトさん!」
「助けてぇ、助けてぇぇ!!」
停止したかと思えば悶えるように身を震わせ叫ぶ。この隙を見逃してやるほどヨゾラは優しくはない───が、すぐにヨゾラの接近を感知しリヒトは泣き叫びながら猛攻を繰り出す。
そんな戦闘を離れた位置で見る、ひぃたろ。
「......」
半覚醒状態の女帝種であるひぃたろは女帝の、化物の特性で傷の治癒が始まっていた。そこへ自身の能力である強化系自己回復能力【デュアルリジェネ】を使い、再生速度と回復速度を増加させる。この時、女帝種としての気配が溢れぬよう、長期滞在していたシルキ大陸で【妖力】の存在とその使い方をマスターし、妖力を幕のようにする事でせき止めていた。
この使用方法はシルキ勢は誰もやらないし、知らない。存在と使用を覚えたうえで【雨の女帝】の水の衣を真似た水属性妖力の使い方。水は散らばり流れ出た自身の血液を利用する事により体内の水分は一切使用されない。これは魔術の応用でありエミリオがやる、水を無闇に拡散させて氷として後々使う干渉系技術の応用。
それでも深々と裂かれた傷がすぐには治らない。
妖怪やアヤカシよりも死が遠く、星霊よりも死が近い。そんな存在が女帝種。
傷の治癒再生を行っているひぃたろの
なにせ、激戦とも言える攻防を今この瞬間も続けているので他者へ気を向ける余裕が一切ない。
確実な隙を待つヨゾラと、無茶苦茶に攻めては離れてを繰り返すリヒト。何度も何度も悲鳴を轟かせるリヒトとは対象的にヨゾラは沈黙し集中力を極限まで高めていた。
いつリヒトが能力を使用するかわからない。
これがヨゾラを無闇に攻めさせないひとつの理由。
アシンメトリーな二刀流を器用に使い、リヒトの攻撃をやり過ごしては一手攻め、煩わしくも思える戦闘をヨゾラは続けていた。その理由が単純にリヒトは知り合いであり友人であり仲間だからだ。強引にでも攻めて攻撃を与える事はそう難しくはない。勿論その場合自分も無事では済まないが、難しくはない。しかし手加減する程の余裕はない。殺したくはないのだ。ヨゾラはリヒトを。
「ァ......アァ......ウウウゥゥ............幸せがァァ」
距離を取るとすぐにフラフラ揺れ奇妙な動きと共に言葉を吐き出すリヒト。この状態のリヒトを見るのはヨゾラも今回でまだ2回目、何を繰り出してくるか、どんな行動を取るのかなど不明と言える。
「幸せがぁぁ、沢山たくさん、たくさん欲しいよぉぉぉ、ママァ? パパァ? 教会のみんなはぁぁ? どこぉ? どうしてぇぇ? イヤ......イヤァ! ィィィィイイイィィ───」
何度目の奇声か。耳を貫き残る高音にヨゾラは瞳を細めた瞬間、リヒトは能力を執行していた。
「 ィ 」
「───ッ!」
瞬間移動のようにすぐ隣へ現れたリヒトへヨゾラは素早く反応するも2発食らい、頬と腹部を浅く斬られる。
「あぶな......その能力使いすぎると死ぬぞ!!」
「死ぬの? 死にたくない......死にたくないぃ! イヤァ! やめて、もうやめて痛くしないで、怖いよぉォ! イヤァァァァッッ!!」
これまで一方的だった奇声が一瞬会話になった。
遠目で見て、聞いていたひぃたろはこれまでに2つ、大きな情報を獲得し整理する。
まず、今の会話。
能力に呑まれた状態───フレームアウトならば、全く会話が通じない、か、対象に執着し他の事は眼にも耳にも届かない、かの二択。リヒトはどちらにも適応しない事からフレームアウトではない。
次に、能力効果。
系統や発動条件までは判断できないが、能力の効果は大まかに理解出来た。リヒトが奇声を切った直後、
ハイレベルな戦闘で停止するなどまずありえない。そこでひぃたろヨゾラの髪にフォーカスを当てた。そして知った。髪の毛が一本も
一方でリヒトはゆっくりヨゾラへ接近していたのだ。その際もヨゾラは瞳でリヒトを追う事もせず。
つまりこれは、対象の時間を停止させる、という驚愕の能力。
ひぃたろは自身が斬られた時の事を思い出すも、斬られる前の記憶───リヒトが接近してきているであろう瞬間の記憶が綺麗に抜けている。リヒトの挨拶が再び時間を動かし、反応出来ず自分は斬られたのだ。その間ヨゾラは剣を無闇に振っていた。
おそろしい速度で移動したものだとばかりに思っていたが、時間という本来干渉出来ない絶対的な部分に滑り込む能力であるからこそ、移動を見る事は出来ず、ヨゾラが剣を無闇に振るった。見てから反応する様子では圧倒的に遅いからだろう。どこから攻めてくるかなどわからない中でも呆然と攻撃を受けるより剣を振るった方が幾分もマシだ。
世界そのものの時間ではなく、対象のみの時間に対し干渉する能力。
対象を選択したその瞬間からリヒトの
今まで見てきたどの能力よりも驚愕であり驚異的であり、強力な能力。
それでも、
「......やっと治ったわ」
能力に無敵はありえない。
必ず、なにかしら、欠陥がある。
それを正確に知る事が強力な能力持ちとの戦闘では必須であり勝率へと直結するのだと、ひぃたろは知っている。
身近に雷を纏い操る驚異的な能力持ちがいるからこそ “能力は万能ではない” という真理とも言える事実を知っているのだ。
「なにより私が持ってる能力が、それに当てはまる......能力は万能ではない。能力には必ず相応のリスクがついて回り、耐え難い反動もある」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます