◇強引な魔女



 混合種キメラ兵を一瞬で蹴散らしたメティはリヒトの元へ戻った。道中で嫌というほど感じていた “魔人” の気配をついに少女の眼は捉える。

 魔人は、地面へ座り込み何かをしているリヒトだ。


「リヒトぇ......なにしてるの?」


 メティは瞳を鋭く細めリヒトへ問い掛けるも返事はない。背を向けたまま何かを行っているリヒトはご機嫌な鼻歌を奏で、泣き声で鼻をすする。初見では理解出来ない情緒だが、メティは確信した。


 リヒトは今、殺した兵を鍋に入れている、と。


「パパはいつ帰ってくるかなぁ? ねぇ? ママ。あ、教会の人達も一緒にくるかなぁ? それならもっと沢山作らなくっちゃ! ママはやっちゃダメ! 今日は私がひとりでやるの! だからママは見てて!」


 子供が初めて料理しているような、そんな言葉を吐き出すリヒト。勿論この場にリヒトの母などいない。


「リヒト姉ぇ......今助けてあげるからね、わたしが今───!?」


 近付こうとしたメティだったが、地響きが足裏を刺激し、すぐにその正体が現れる。モンスターパレードから大量のモンスター達が街中へ流れ込むように。


「こんな時に......ッ!」


 少女はグッと奥歯を噛みモンスターの群れを睨むと、その先頭にいたモンスターの背中へ視線が向いた。先頭にはバーバリアンミノス、背中には丸帽子の魔女と───ヨゾラが居た。


「───! おい、ソラ! あのちっこいの!」


「ソラァ!? って、メティ! 無事!? リヒトさんは......あー、やっぱりか」


「ソラぇと......、ソラ姉ぇ! 無事だったんだね!」





 モンスターパレードから脱出したわたしとヨゾラは街ですぐにメティを発見した。少女に外傷もなく安心、と優しい心で思った矢先にあの少女クソガキはわたしを見て、眼が合ったのに、居ないものとした。


「クソガキ! 今わたしを見たのになんでソラだけ!」


 バーバリアンミノスの背から吠えるわたしの横でヨゾラが、ソラと呼ばれた事に対して何か言っているが、そんな事は後だ。まずあのクソガキにエミリオさんを尊敬する心を植え付けてやらねばならない。モンスター達が一直線に街の外へ向かう中、バーバリアンミノスはクソガキメティの方へ進み、わたし達をいい所で下ろしてくれる。


「おいクソガキ! 次わたしの事シカトしくさったら───......リヒトアイツなにしてんの?」


 わたしが接近しているというのにメティの視線が前方に向いたままで、気になって見ると、そこにはリヒトが地面に座って何かをしていた。そしてその気配は地下で感じた異質な───魔人の気配。


「エミリオ、バーバリアン達と一緒に避難しなよ。ここにいると多分───リヒトさんに殺される」


「ハァ? なんでわたし達が殺されんのよ? 意味わかん───ねっ、てぇぁ!? ハァ!?」


 それは突然、本当に突然起こった。

 わたしは今ヨゾラ......ソラと会話しつつメティ数メートル後ろからリヒトを見ていた。間違いなく。

 しかし今は、わたしの真前にメティが立ち、槍でリヒトの短剣を防いでいる。


「......早く消えて、バーバリオン」


「バーバリオン!? クソガキ......お前! なんっつー呼び方を!」


「バーバリオン! いい呼び名じゃん。ほら早くババリオは仲間連れてさっさとデザリア行きなよ。ここにはもう用事ないでしょ?」


「ババリオ!? ソラまで言うか!?」


 正直呼び名なんてどうでもいい。今リヒトが何をしたのか......それが知りたい。

 一瞬で移動したのか? どんな手品だ? 魔術......いや、魔術なら魔女わたしが感知出来ないハズがない。恐ろしく速く動いたのか?


「───エミリオ!?」


「あん? ───おぉ、ひぃたろハロルド!?」


 可能性を並べていた所で半妖精とまさかの再会を果たした。ワタポやプンプン、他の連中が見当たらないが、とにかくひぃたろハロルドは無事だったらしい。


「ババリオ! なんでもいいからそのお友達も連れてさっさと行け!」


「ババリオ? エミリオ......変な名前で呼ばれるの好きよね。帽子とか」


「あー! もう! うるっせーなお前ら!」


 吠えつつ、わたしは頭の中を回転させる。

 まずヨゾラ、メティ、リヒトは “今の時点では仲間” と言える。そしてヨゾラとメティは仲間であるリヒトを多分、止めようとしている。

 見た感じだとリヒトは......暴走したプンプンみたいなノリだろう。って事はさっきの超移動は能力ディアか? 自身の速度を爆発的に高める強化系か?


 そしてひぃたろハロルド

 ここに半妖精が現れた───後ろから来たって事はデザリアにはまだ着いていないって事だろう。少なくともひぃたろハロルドはデザリアに一度も到着していない。ワタポやプンプンはどうした?

 ひぃたろハロルドの性格的に単独行動する場合は明確な目的がある時で、こんな所で寄り道などするタイプじゃない。って事は今の行動は単独行動というより、単独で行動するしかない状況だった、って事になるか? そこから考えて......まずワタポやプンプンもデザリアには到着してないっぽいな。到着していたら半妖精は翅で跳んで行けばいいし。

 ここで誰かと合流する予定か? そうだろ? そういう事にしよう!


 ならば、わたしが選ぶ一番ウマイ選択は───


「ハロルド! ここでソラと一緒にあの女を止めてくれ! バーバリアン共は街のアホ共をデザリア以外の街へ護送しろ! 脅かして追いかけ回せば走るだろ! メティはわたしと一緒に来い! 少女の花を探しにデザリアへ行くぞ!」


 これだ。

 この、THE強引作戦で一気に進む。


「え、ちょ、触らないでババリオ!」


「わたし結構力持ちだろ? メティちゃん」


 わたしの天才的能力を使い、メティへ重量変化の魔術を付与、闇魔術の念話をひぃたろハロルドへ繋ぎ、速度上昇バフ【サンダーブーツ】を使い、メティを抱き一気にその場から去った。


 わたしの能力......何系かは不明だが、多重魔術で安定かつ瞬時に発動出来る───これ以上はまだ自信がないから───3発を同時に使い、強引に進む。


「離してってば!」


「あぶね!? おま、武器振り回すなよ!」


 プンプンの能力を真似て移動だけに特化させた魔術【サンダーブーツ】は直進ならば馬車なんて話にならないくらい速い。既にトラオムの街を抜け荒野を進んだ所でメティを下ろしブーツが履いている雷を四散させる。


「なんで私を強引に連れて行くの! さっきリヒト姉ぇから助けてあげたのに! 馬鹿!」


「おーおー、お前ってデカイ声出るんだな。シカトばっかりするから喋れねーのかと思ったぜ」


「うるさい! 今すぐソラ姉ぇ達の所へ戻して!」


「んや、あっちはソラ姉ぇとひぃたろハロルドに任せて、わたしとメティはソラが探してる、、、、、、、少女の花を取りにいこうぜ。デザリアにあるんだろ?」


「なんで知ってるの───あっ......」


「何も無いのにわたしと、会ったばっかりのヤツと一緒にデザリア向かわねーだろ? それでなくともお前ら全員、訳有なのに。わたしの予想だと炎塵エンジンの女帝が例の花を持ってる、か、知ってるか、だろ? 今のデザリアに向かう理由はどうあれ目的は炎塵じゃなきゃ行こうなんて誰も思わねぇーっての」


 イフリーに来て数時間でハッキリした。

 この大陸はイカレてる。

 人口魔結晶の生産、軍人も混合種キメラとかいう人間兵器みたいなのがいたし......あれも人口魔結晶を作る過程でやった人体実験の副産物か何かだろう。

 街もだいぶイカレてて、モンスターパレードとかいうクソゲーを国が認めてる始末だ。

 港も閉鎖してる状態でこの国に無理矢理入国する理由が「かもしれない」程度じゃ割に合わない。


 少女の花は確実にデザリアにある。そして今のデザリアに行くって事は支配者に用事が無きゃ誰も行かない。そんな状態なんだ、この国は。


「行こうぜメティ。炎塵の近くに多分マスターってのがいるハズだ。わたしはそいつをぶん殴るってゆー大事な用事がある。お前は花パクってソラに届けてやれよ」


「......でもリヒト姉ぇも心配だから」


「大丈夫だろ? だって、ソラがいるんだぜ?」


「......!」


 よし、次はひぃたろハロルドだ。


───ハロルド! 一方的に言うから返事はしなくていい! わたしはこれからデザリアへ向かう。お前もそこ片付いたら秒で跳んでこいよ? それと、そこにいるヨゾラって方は味方でリヒトって方は一応味方だけど暴走っぽい。ヨゾラとリヒトがどんな能力を持ってるか、どんなスタイルか、そこらへんも確り拾ってきてくれな! んじゃ、よろしく!


「───よし、いこうぜメティ」


「うん! ソラ姉ぇの為に私が花を探す!」


「おう、頑張れよ」


 わたしの直感的が、このメティって少女は何かある、と訴えかけている。

 ヨゾラ、リヒト、メティの3人でこれといった目的を持たなかったのもコイツだ。


 この3人に、メティに、何があるのか......単純に知りたいって気持ちはある。が、それよりも、参考になりそうな戦闘スタイルなら是非パクりたいという気持ちが強い。




「さっきので一気に行くぞ、今度は背中に乗れよ」


「......! わかったババリオ......エミリオ!」


「おいおい、わたしは年上だぜ?」


「わかった! エミちゃん!」


「ちゃんかよ! まぁいいや、んじゃ背中に」


「うん! だから速く、馬になって?」


「え? いや、おんぶ」


「馬になって? 年上でしょ?」




 え?




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