◇一瞬の選択
女帝種とはこれまで2度......
人───元の種族に限りなく近いマナを持ちつつも、元の種族とは異なるマナを持つ。それが覚醒した個体かどうかの判別方法か。魔女以外に対して感知が疎いわたしでもわかるレベルとは......、
「後ろの髪を束ねて左に流す青髪......丸帽子のチビで胡散臭い手品師のような装備......そうか、お前最近話題の魔女か」
「そういうお前は
わたしそんな風に広まってんのかよ。胡散臭い手品師って......手品師じゃなくて魔女だぞ。
「他の仲間はどこだ? お前を含めてたった5人というワケではないだろう?」
こっちの質問には答えないくせに質問してくるとかナメたヤローだ......つーか今わたしを含めた5人って、、、コイツ誰に会ったんだ?
「お前さぁ、人の質問には答えねーくせに自分の質問に答えてもらえると思ってんの? キッモ」
答えてくれないなら、引き出すまでだ。コイツが会ったであろう誰かの、ひとりでもいいから特徴を引き出せればどのパテと遭遇したかわかる。
誰とどこで遭遇してどうしたのか、これ知るのがこの会話のゴールだ。
「......誰もいないな」
「あん? 索敵でもしたのか?」
何をした? 魔力を使った形跡はない......妖力でもこの距離と状況なら気付ける。どちらでもないが、何かを確実にした。
索敵、感知、看破、、、など可能性のあるものを頭の中へ並べていると少し離れた位置で、それも視界の端で微かに何かがキラキラ揺れた。一瞬少し強く
「もう一度だけ聞く。何人で何のためにイフリーへ入った?」
女帝の瞳の模様が変化し、首を手で掴まれるような危機感が全身を駆け回った。炎塵の女帝は今の質問後、どんな答えでもわたしを殺すつもりなのは明確。女帝種というだけでSS-S2レートがつく。その中でさらに覚醒種......危険度なら女帝種を軽く超えている相手か。
「わたしはウンディーやノムーに爆弾人間をばら撒いたクソヤローをぶん殴りに来た。お前だろ? 炎塵の女帝オルベ───あぶぁ!?」
オルベイアの名を言い終える前に女帝は粉塵を撒き散らし起爆した。指先ひとつでも動かしたら即距離を取る、と考えていたからこそ回避出来たが......びびったぜ。コイツ爆破粉塵を物体として持ってるんじゃなく、作り出して撒けるのか。
「はっ、完全にモンスターだな」
ワタポが以前使用していた爆破する鱗粉は物体として存在している物だが、コイツの粉塵は使うまで物体として存在しない。魔術や剣術みたいな......
「魔女が地界に、人間社会に首を突っ込むな」
「テメーも人間じゃねーだろ、脳みそまで爆発してんのか?」
挑発染みた言葉を投げつつ、剣を抜くため左腕を右腰のロザへ伸ばす。その最中、
「お前は剣を使う魔女なんだろう?」
魔術でも剣術でも妖術でもないのが炎塵の爆破粉塵。ざっくり言えば感知不可能な爆弾。
その爆弾がわたしの左袖に付着し、今まさに
「〜〜〜〜〜ッッ!!」
やべぇ、コイツはやべぇ。完全にナメていた。
粉塵のサイズは自在で、サイズによって爆発の威力も変わるのか知らないが、今わたしの左手首から上は無くなりこそしなかったが火傷よりも酷い状態に。
「いい防具だな。手首を爆ぜ千切るつもりだったが......まぁいい。で、得意の魔術で反撃してこないのか? 帽子の魔女」
......ダメだ、粉塵が見えない。いや、見えているが......見えている粉塵はデコイだ。霧のように漂う粉塵を爆発させれば自分も───自分にも爆発が効くならの話たが───無事では済まない。この濃さはまぢに爆裂魔術レベルの爆発を起こす。
そんな危険物を漂わせる目的は、さっきみたいなミクロサイズの粉塵を確実にわたしへ付着させるためだろ......それも、魔術を詠唱した瞬間にクチの中にか?
防具のおかげでわたしの手首は千切れていない。外側じゃなく内側からって考えての魔術誘発だろ? 乗らねーよ。
「馬鹿みたいな顔してるわりに賢いな」
クチを開けない以上は魔術も会話も無理だ。痛撃ポーションを手首にぶっかけて痛覚を鈍感にする以外、今わたしに出来る対処法はない。
本格的にやべぇ......わたしの剣術や体術でどうにかなる相手ではないし、わたしが詠唱するのを待ってやがる。魔女特有の高速詠唱でも危険だ。得意分野をこうもあっさり封じられたうえ、利き腕の感覚が無い......これはガチめにまずい。
「どうした? 腰に吊るしてるそれは飾りか? 魔女という種族はハッタリか?」
あくまでもわたしの出方を見るスタイルか。強者の余裕か油断か......どっちでもわたしには負けないという自信があるんだろう。ここは下手に動かない選択が正解か───
「何もしない、何も答えない、か。そんなヤツの相手をしてやるほど私は暇ではない。爆ぜろ」
「───ッ!?」
周囲を漂う粉塵がわたしを包むように集まり、下手に動かない選択が正解、という一瞬の選択が退路を潰す結果となった。
見える範囲で退路はなく、強行突破したとしても粉塵が付着する......既にミクロサイズの粉塵がわたしに纏わりついてる確率も相当に高い。
このまま死ぬとかダサすぎて死にきれねー。
ここまで思った時、既にわたしは行動していた。
閉じていたクチを開き詠唱しつつ右手で剣を抜き、逆手持ち状態で赤色光を纏わせ振るうと同時に炎属性広範囲魔術を放つ。
爆発する粉塵に火や炎をぶつけるのは自殺行為、風も場合によっては危険......水が正解だ、わかってる。
でも、ここで何をやっても爆発するなら盛大に、ド派手に爆死するのがわたしらしいだろ。
「テメーも爆ぜろクソビッチ」
「コイツ───」
◆
わたしの剣術が届いたかはわからない。
逆手持ちで単発の突進剣術なんて今まで使った事ないし、もしかしたらファンブルに終わったかもしれない。魔術は広範囲で炎が渦巻くものを発動させた。きっと爆発しまくりで鼓膜なんて余裕でぶっ飛ぶくらいだろう。
なぜ攻撃がヒットしたかわからないか?
そんなの、一瞬でわたしの視界が爆発したからに決まってるだろ。
魔術はともかく魔剣術くらい水にすればよかった、と立ち上げた段階で思ってしまった時点でわたしの負けだったんだろう。攻撃する際に後悔してる時点でダメだろ......。
◆
「くっ、噂以上に無茶苦茶なヤツだな......ッ!」
爆発の余韻が漂う中で炎塵は膝を落とし全身の
エミリオの攻撃───というには無茶苦茶な突撃には炎塵も予想外だったらしく、見事に剣術はヒット。爆風を利用し小柄な身体を吹き飛ばしながらの突進剣術は異常な速度を生み出していた。
それだけではなく、炎で粉塵を一斉に爆発させるという自殺行為も炎塵は全く予想していなかった。
炎塵の女帝は、自分の爆発ではダメージを受けない。
しかし今の爆発は粉塵を利用しエミリオが発生させた爆発であり、対象には炎塵も含まれている。
炎塵の女帝は咄嗟に
グロリオサ模様の黄色い眼球で煙る地面を睨む。そこには肘下あたりから爆ぜ千切れた剣を握ったままの右腕と、広範囲にひび割れ崩落した地面が見える。
村は半分だけ残り、半分は地割れ───というには規模が大きすぎるが───に飲まれ消えていた。
「粉塵を纏っている身体に傷......あの魔女、何をした......ッ」
炎塵の女帝は爆発しそうな程の怒りをどうにか鎮め、眼球も肌も元に戻す。傷口を掴んでいた手を離し、血液に湿った手を無言で見つめる。
血液にしては湿りすぎていないか? と考えるも、力いっぱい掴んでいたうえ予想外な展開に汗ばんでいたのだろう、と納得し手を払う。
フォンから密封瓶を取り出し、中に入っているグロリオサの種を大量にクチへ流し込み噛み砕く。
軋み焼けるような身体も鎮静し、深い溜息を残しデザリアへ戻っていった。
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