◇合流 1
妖精と星霊の宝剣が出刃包丁のような太刀と衝突し、耳障りな擦音と火花を散らし反発する。
この隙にヌルリと入り込むように耳障りな笑い声を吐き出すグルグル眼鏡の魔女が魔術を放つ。
ひぃたろ、パドロック、フローが衝突する。
その横では属性が具現する程の妖剣術を構えつつ足運びで地面に描いていた絵魔を召喚、それを見てクスクス笑う白髪に黒紫ドレスのツギハギドール、そして表情ひとつ変えない騎士。
モモ、リリス、フィリグリーだ。
この乱戦の中でも戦闘を始めていないのが、すみいんと酒呑童子、だっぷーとダプネだ。
◆
地面に座り瓢箪を傾ける五本角の鬼、酒呑童子へ
「どうして鬼の主がここに......?」
「んー? 僕は別に鬼の主になった覚えはないよ? 鬼の中で一番強かっただけ。あ、そうそう
シルキ大陸の霊樹【夜楼華】を巡る内戦時、酒呑童子は全く顔を見せず「勝手にどうぞ」という態度を貫いていた。ここについては妖怪もアヤカシも、誰も文句は言わない。
しかし、今になってなぜ鬼の領土を出てシルキの外へ、それもなぜ犯罪者に加担しているのか。
すいみんはハッキリさせるべく質問を続ける。
「鬼......として、外に出たの?」
ほぼ初対面といえる2人で、すいみんはどちらかと言えば人見知りする方。だが、今そんな事を言っていられる場合ではないと本人が一番思っている。
なぜなら、もし酒呑童子が鬼族としてシルキの外へ出てクラウンと共に行動しているならば、シルキにとって敵は鬼族とクラウンになってしまうからだ。すいみんがハッキリさせたい部分は “酒呑童子は鬼を抜けて個人としてクラウンへ加担したのか” だ。
「僕もだけど、キミもそういうの向いてないと思うよ? だからハッキリ教えてあげるね」
空っぽになった瓢箪をあっさり投げ捨て、酒呑童子はキバを光らせるように笑う。
「僕は個人としてクラウンのメンバーになった。鬼族とかシルキだとか、どうしてみんな自分を自分で縛り付けて窮屈な思いをしているのか理解出来ないよ。自由を
「......それは、」
「僕は僕が楽しいと思える事をしたい。そこに我慢なんて雀の涙程度もしたくないんだ。お互い長い命、心の底から楽しまなきゃ損だろう?」
「その、楽しいと思える事で悲しいと思う人がいても......関係ないって事?」
「言ったろ? 我慢なんて雀の涙程度もしたくないって。自分が良ければそれでいい、それが僕にとって何よりも重要なんだ。他人の心なんて腹を開いても見えやしないのに気にするから、窮屈で退屈な思いをするんだよ? どうだい? キミも僕と───」
「もういい───」
すいみんは酒呑童子の言ってる事も、わかると思った。他人の心なんて見えないのに気にして、気にしているのに何も出来なくて、自由なんてない窮屈な思いに心を苦す。
それでも、自分が楽しめればそれでいい、楽しい裏で悲しんでる人がいても、知った事ではない、という酒呑童子の思考を無視するワケにはいかなかった。
───私はどちらかと言えば、楽しい裏で悲しむ方だろう。楽しそうな方を羨ましそうに見るだけで、そこへどう混ざればいいかわからない。それなのに他人には自由にしていい、なんて必死に笑顔で言っちゃうタイプだ。
すいみんはまさにそうだった。不安にさせないため笑顔を必死に張り付けて、命令はおろかお願いも、相談も出来ず、他人には自由にして大丈夫だよ、なんて言ってはひとり窮屈と孤独に圧し潰されそうになっていた。
自分の発言、自分の願望は自己満足で自分勝手なのではないか? そう思うと何も出来なくなり、何も言えなくなり、何もかもが決められなくなった。
そんな状態のすいみんの前に現れたのが、自己満足のために全力で自分勝手を押し通しながらも、周りを巻き込んでみんなで笑ってる魔女。
強引に殻を破られた。強引に窮屈から引っ張り出された挙句、今はこうして放置されている。
───私は人に頼るのも上手くないくせに、ひとりじゃ何も決断できない。でも、何もしない、何も出来ないはもう
もうひとりじゃない。何も出来ないのはもうたくさんだ。
「クラウンに加担しているなら、無視できない。私達は......私は、お前を最大級の犯罪者として討伐する!」
「......うんうん、いいよ! それ、楽しそう! 僕は追うより追われたい派だし、一度本気で鬼や妖怪、アヤカシと戦ってみたいと思ってたんだ! 死んだら負け殺したら勝ち、誰でもどうぞで何でもアリの鬼ごっこ......
ニヤリと笑う酒呑童子からは鬼特有の妖力が溢れ出る。
妖怪もアヤカシも人間も、鬼の
それでも、すいみんは己を鼓舞するように一歩踏み込み、カタナを握り鞘を勢いよく走らせた。
◆
視界の先で始まる戦闘、既に始まっている戦闘を見てもダプネは参戦しようと思わなかった。
やりたきゃ勝手にやれ、こんな所で誰を殺し誰に殺されても、知った事ではない。
それ以外に何も思わず、ただ乱戦を無意味に見続けていた。そこへ、
「あの時の、カイトの狼化を治す薬をエミーにくれた人だよねえ? ダプネさん?」
戦況の確認さえせず、だっぷーが歩み寄り声をかけた。
「そうだ。お前らのその格好はなんだ? 踊り子にでもジョブチェンジしたのか?」
会話をする気はある、とだっぷーは判断した。
「違うよお! この服の方がイフリーに溶け込みやすいから着替えたんだ。それで、あの時はありがとう。カイト助かったよ」
「......わたしはクラウンだぞ? わかってるのか?」
敵、誰かの敵なんて規模ではなく、世界の敵もも言える存在がクラウンとレッドキャップだ。その敵へだっぷーはお礼を迷う事なくクチにし、ダプネは呆れずにはいられなかった。
「知ってるよお、ダプネさんは魔女で、エミーの友達で、今はクラウンのメンバー。それでもあの時は本当に助かったし嬉しかった。だからありがとうって言いたかった」
「そうか、どういたしまして。これでわたしとお前の間に何もなくなった。どうする?」
ダプネに戦闘する気はないが、相手がその気ならば仕方ない。やる気がないだけで必要ならばやる。
「......ううん、私は何もしないよお」
「お前、は、何もしないか。じゃあ誰が何をするんだ?」
「エミーだよお! ダプネさんの事はきっとエミーが何とかする! だから私は何もしない」
「......」
ダプネにとって一番効果的とも言える名がエミリオ。心にいつまでも居座り続ける存在であり、消しきれない存在がエミリオだった。
ダプネが迷わず “友達” といえる唯一の魔女かエミリオであり、エミリオもそうだろう。
同期生、顔見知り、同種族、はダプネにもエミリオにも沢山いるが友達となれば話はかわる。
エミリオは基本的に同期生以外からは嫌われ者だった。理由は様々だが、好いている魔女はほぼ存在しなかった。
ダプネは嫌われてこそいないが好かれてもいなかった。
でも、どうでもよかった。
エミリオはそういうのを気にしないタイプで、ダプネはエミリオが居れば他はどうでもよかったからだ。
そこまで強く想っていた、自分の中では天魔女よりも大きかった存在と今は───対立してしまっている。
記憶凍結の魔術を断片的にかけられていたダプネも、フローの助言と自身の強引な解凍により打ち消している。
エミリオがダプネの母を殺した、という偽りの記憶は解凍し、真実を知った。
が、全てが遅かった。
クラウンに加担し冒険者を殺した。フローが無理矢理ルービッドの女帝化した際も何もしなかった。霧棘竜ピョンジャピョツジャに
ダプネの中ではもう、埋める事のできない溝がエミリオとの間に出来てしまっている。
帰る場所もなく、大好きな友人を求める事も出来ず、自分が思い描いていた未来は途切れてしまった。
「お前、ホムンクルスだろ?」
「!? ......うん」
「フローだけじゃない、
「......?」
「自分じゃどんな知識を持っているのかわからないように造られたのがお前だ。そうだな......禁書庫みたいなものだ。書庫は本を保管する場所だが書庫は本を読めないだろ? お前は様々な知識を与えられているが自分でその知識を使えないし、知る事も出来ない」
「......よくわからないよお?」
「イフリーから無事帰れたならノムー......ドメイライト騎士団が所有している禁書庫へ行け。そこにホムンクルスについてまとめられているモノもある。無事帰れたならな......」
「ノムー......ドメイライト」
「騎士団の禁書庫にはあそこにいるフィリグリーがかき集めた情報......まさに禁書が保管されている。ドメイライト騎士団になければ......ノムーのどこかにある。探してみるといい」
「わかったあ、教えてくれてありがとう」
だぜ自分がそんな事を教えたのか、ダプネにもわからなかった。
「───? ......そろそろ行く。じゃあなホムンクルス」
「え?」
ダプネは魔術をゆっくり詠唱し、得意の空間魔法を発動させた。フロー、リリス、酒呑童子を空間で捕獲後、自分も空間へ落ちあっさり消え去り、
「───ひぇぇ!?」
「チッ! あの
「......どこだここ? エミーは?」
クラウンが消えると同時に別の空間が展開され、スノウ、白蛇、トウヤが吐き出された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます