◇人工魔結晶 2
外気を遮断するように鉄板を重ねて作られた粗末な建物。入り口らしい部分は見当たらない。
「村の外から入るシェルターだな」
盲目なうえ黒布を巻き付けているトウヤだが、普通に視えると語っていた通り鉄屑の建物の詳細を予想する。
「エミリオさん、さっきの腐敗マテリアってどんなモノなの?」
スノウに言われ、フォンでマナのやり取りを済ませている事を思い出し確認する。
人工魔結晶の時点で必ず生産者はアイテム情報を入力する。そうしなければどの魔結晶がどんな効果だったのかわからなくなるからだ。
「腐敗マテリアは......うっわ、人間に対して無差別に効果を発揮する設置型のマテリアだ」
設置型、は結界などと同じくそこにあるだけで効果を発揮するタイプ。そして効果は言うまでもなく、人間を腐らせてゾンビにするという、いつ使うの? と思わせてくれるクソ効果。
マテリア詳細を一通り説明した所で、パーティに真人間がいない事に安心する。
「ゾンビか......見てぇな」
「見るもんじゃねーぞ? 腐ってて虫湧いててキッタネーの」
白蛇の呟きへわたしが答えているうちに、トウヤはマテリアへと近付く。
「......スノウさん、このマテリアを凍らせる事は出来る?」
「出来る、かな? やってみる?」
マテリアを確認しスノウは答えた。トウヤは頷き、わたしと白蛇は後ろからマテリア凍結を観察していると、鉄屑の建物から視線が。
「エミリオ」
「おう、さすがに感じた」
白蛇と共に振り向き、鉄屑を睨んでいるとマテリア凍結は終了。カチカチになった腐敗マテリアをトウヤは躊躇なく掴み取る。
「大丈夫そうだな」
大丈夫じゃなかったらどうするつもりで〜と思うも、人間に効果を発揮するイコール人間以外に効果は発揮しない、という当たり前な事に気付く。だからこそ凍結する事も出来た。
シェルターから覗いているであろうデザリア兵達も、腐敗マテリアにびびって隠れていたクチだろう。トウヤが掴み取った時点で飛んでくる視線に敵意が無くなった。
「白蛇、あのシェルターぶっ壊せるか? 中の奴等は殺さずに」
壊すだけならわたしも魔術を使えば全然余裕で出来るが、中の人間達を無事外に出せる自信はない。白蛇なら何か上手くやれそうだと思い任せてみた所、鉄屑とはいえ鉄の塊を量産品のカタナで斬ったのは驚いた。
わたし以上に驚いたのは中にいた亀共だろう。外気を遮断していたシェルターがズッパリと斬られ、怒号のような悲鳴を上げる。
「出てきても大丈夫だぞ! 聞きたい事あるし3秒で出てこねーんなら引っ張り出すかんな! さーん、にー、いーち、、トウヤ頼んだ」
わたしの呼び掛けに応える素振りを見せない亀共を引っ張り出すべく、トウヤは「本当に3秒だけで、結局は人頼りかよ」と言いながらも影を伸ばし中の連中を文字通り引っ張り出した。
数は以外に少なく6名、全員フルプレート装備。
「スノウ、凍傷ならん程度にアイツ等を拘束してくれ」
フルプレートの時点で冷えれば大変そうだが、さっきまでゾンビに狙われて大変だった身としては仕返しをせずにはいられない。少し寒い思いをすればいいんだアホ共。
騒ぎ散らしていた兵隊達は外に出ても腐敗しない事実をやっと飲み込んだらしく落ち着く。
「よぉ、落ち着いたか? 早速だけど、この魔結晶誰が作った?
わたしの問いに兵隊達は耳を向けている様子がない。近くの兵に至っては微かに震えている。スノウへ凍結を弱めるようお願いしようとした時、足下が突然抜けるよう、足裏は抵抗を失い影に落ちた───かと思えばすぐに吐き出される。
わたしだけではなくスノウと白蛇も影牢に飲まれ、同時に吐き出される。
「おいトウヤ、突然───!?」
「ヒェ、びっくりし───!?」
スノウとわたしは同時にぼやきながらトウヤを見て、同時に言葉を詰まらせた。
「お前それ大丈夫なのか?」
白蛇も遅れてトウヤの姿を確認し、眼を細めた。
「大丈夫だ。それより───」
ぷすぷすと煙を上げる半身のままトウヤが指さし、
「───デザリア兵が爆死した」
数秒前まで居たデザリア兵が焦げ痕を残し消えたと。
爆死......
「? 何か来るぞ......あぁ、さっき外で両足を斬ってやったアイツか」
村門の方向から気配を感知した白蛇は鼻で笑うように言い捨てた。外で両足を斬ってやった、という事は白蛇が戦闘した兵か。
感知通りズルズルと音を立てて現れた影は両腕で身体を引き摺り村まで向かってくる。
「気をつけろ、アイツもデザリア兵だ。爆破を持ってるかもしれない」
火傷の傷跡が既完治したトウヤは再びわたし達の影へ自分の影を伸ばし警戒を促す。あの兵が爆破した場合、また同じように影を使って回避する気らしいが、何度もお願い出来る回避方法ではない。例えすぐ傷が治るとしてもだ。
わたしは魔術を発動させ、辺りに水をばらまいた。
「おいお前! そこで止まれ! ......スノウ、あの芋虫が近付いて来たら水使って分厚い氷の壁作ってくれ」
「わかった」
ヒュ、と吐息を吹き水に自身の妖力を仕込み、スノウは兵の姿を凝視する。爆破してからでは遅いので、一歩でも動いたら氷壁を作るつもりだろう。ナイスな判断だ。
「足だけじゃ物足りなくて追ってきたのか? 一歩でも動いたら首撥ね飛ばすぞ?」
カタナを向け白蛇は追ってきた兵を牽制するように告げる。すると兵はピタリと停止......ここは白蛇に任せた方が良さそうだ。
「蛇、とりあえず魔結晶の事を聞き出してくれ」
わたしよりも、ついさっき戦闘し勝利した白蛇の方が情報を聞き出すには効率がいい。
「ここで人工魔結晶を発見した。テメェが作ったのか?」
「......その、魔結晶は、どこに、」
苦しそうな声を出した兵へ白蛇は、
「ア? 質問してんのはこっちだぞ? テメェはバカみたいに聞かれた事だけ答えろ」
投擲杭を投げ、地面に手のひらを固定する容赦の無さを披露した。
「〜〜〜ッ......その魔結晶の、生産者は、私だ」
「誰の指示だ?」
「......単独だ」
「目的は?」
淡々と質問を重ねる白蛇だったがその手にはビビララの店で大量購入した長杭。指先で遊ばせながら質問するスタイルにスノウは「ヒェ......さすが拷問慣れしてるなぁ」と呟く。龍組に傭兵として雇われていた白蛇の戦闘技術は勿論高いが、やっぱり拷問系のセンスもあったのか、、、それっ気は見た目からして想像出来るがいざ現場を見ると怖いものを感じる。
「おい目的を聞いてんだよ」
答えなかった兵の背へ杭を打ち込み、フルフェイスの隙間へ短刀を滑らせ白蛇は一言追加する。
「回答に飽きてきたんだろ? 俺もだ。だから次が最後の質問でいい。魔結晶を作った目的はなんだ?」
最後の質問をしつつ短刀を少し押す。短い声がフルフェイスから溢れ隙間から血液が。刺しやがったぞ
「......目的は───すぐにわかる!」
突然の大声も荒々しく吹き回る
「チッ、油断した。アイツは
舌打ちしながらもどこか楽しげな白蛇だが、右腕が指先から二の腕辺りまで縄のように捻じれていた。
「エミー白蛇! 下がるぞ!」
既に右腕が再生されているトウヤが叫び、わたし達はやむを得ずデザリア兵から大きく下がるとあっさり風の範囲外へ。
「!?......アイツ操作系だ」
「さすが魔女だな。で、風を操作する能力と風を生み出す能力の違いは?」
わたしの能力看破に白蛇がすかさず食い付く。捻れた右腕は逆回転───元に戻るように回転し、即完治するという鬼ならではの強引な治癒を披露しつつ長杭を投擲。しかし残念ながら杭は弾き飛ばされる。
「風を生む能力であの状況ならオーバースキル......威力も範囲も自分の命さえ気にしないほど広範囲な風を生むだろ? でもアイツはそれをしなかった。そして
両足を失い杭を打たれた尋問状態で風を生める能力ならセーブせず自身も村も巻き込むレベルの竜巻を起こすのが普通だ。でもアイツはそれをしなかった。その理由は出来ないからで間違いない。
そして、出来る事の範囲でアイツはわたし達を押し退け腐敗マテリアを回収したんだ。
「
設置型のマテリアはそこにあるだけで常時効果を発動する代物で、スノウの言うとおり凍結が解凍された場合、腐敗マテリアは効果を再発動させる。人間にとっては最悪のマテリア効果だが、今この場にはアイツ以外の人間はいない。
「ほっとけよ。アイツがゾンビ化したら討伐するだけだ。わたしはさっきのヤツを助けようなんて微塵も思わない......むしろゾンビ化してくれた方が気楽に殺せる」
人工魔結晶はクリアストーンと呼ばれるマナを吸収する鉱石を悪用し、素材に生きた人間を使う悪趣味な模造品。テメーで作ったモノに殺されてりゃ世話ねーぜ。
「......風が止まねぇぞ?」
「なにかおかしい......」
「ヒェ!? 風に色が......それにこの臭い、」
「アイツ───マテリアを自分に埋め込んだのか!?」
◆
首都デザリアの玉座に腰掛ける───
「......なるほど」
旋弾の意図を読み取ったオルベアは玉座から腰を上げ、隊を結成させた。
赤色の鎧に頭の天辺から爪先までを包む兵の戦闘にはオルベア。街の人々はこの事態に不安を滲ませる。
「フフ......───廃れた村に死臭を散らす化物が現れた! 我々は速やかにその化物を討伐しに向かう! 私をよく思っていない国民もいるだろうが、今は私を信じて眠っていろ」
高らかと言い放ち、オルベアは兵を引き連れて廃れた村へと、見た事もない鉄の塊へ腰をおろし爆進した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます